第30話 〝錬金術学会〟の光が失われた時①
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けれど、その平和な日常は、ある一通の手紙が届いて激変する。
それは――〝錬金術学会〟からの手紙。
私が王都で甘い薬を販売している事や、孤児院や終の棲家に寄付している事に関しての苦言と――。
〝失われつつある錬金術〟と〝失われた錬金術〟を使った罪で。
「貴殿を〝危険錬金術師〟とし、学会の総意のもと――」
〝アンティ・ロセットを錬金術師の資格を剥奪する〟
――そう書いてあったのだった。
「ふざけんじゃないよ‼〝失われつつある錬金術〟と〝失われた錬金術〟を使った罪ってなにさ‼何の罪にもなってやしないだろう⁉」
「お婆ちゃん落ち着いて」
「いや、これは難癖をつけるにしても酷すぎる……。一旦王家にも伝えたほうが良いだろう」
「すぐ連絡するよ‼爺さんにもね‼」
――こうして、平和な日常は一変した。
〝錬金術学会〟から薄々目を付けられていそうだなとは思っていた。
それに私の〝駄菓子錬金術〟を〝錬金術学会〟が受け入れるかというと、受け入れないだろうという予測はついていた。
それにしても、〝罪〟というのが、あからさまに私を陥れる為の言葉だった。
――〝失われつつある錬金術〟と〝失われた錬金術〟を使った罪。
本来であれば、〝錬金術学会〟が調べ上げる機関があるのだから、そこが調べ上げてあるべき姿に戻すべきだったのだ。
それを怠ったのは〝錬金術学会〟だというのに、それを罪と言われると、全く納得いかない。
すぐに魔道具で連絡を取り合ったお婆ちゃんは、店を暫く閉めて王都――城へ向かうことが決まった。
護衛者に『アニーダ薬草店』のコウジさんを頼むと、事が事だけにすぐに了承してもらえたし、馬車での道中お婆ちゃんは怒り心頭だった。
「王家も助けられない、その上〝失われつつある錬金術〟と〝失われた錬金術〟を使った罪なんて馬鹿げたことを言い出した〝錬金術学会〟には……痛い目を見てもらわないと割に合わないね」
「そもそも、それだけの為にアンティを〝危険錬金術師〟等と……腸が煮えくり返りそうだ‼」
「落ち着いて二人共。こういうのは予想したの」
「「アンティ」」
「何かしら学会は私から錬金術を剥奪したいだろうなって。でも、それは王家を敵に回すことになるだろうから……そうそうしてこないんじゃないかなって思ってた。王家の二人を助けたことを、〝危険錬金術師〟だというのなら……王家は黙っていないんじゃないかしら」
「学会を解散させるという話は出ていたね」
私を起爆剤にした、〝王家と錬金術学会の戦争〟の構図が見えてきた。
正直、王家に勝てるはずもないのに、天狗になっているのが関の山か……。
「そもそも、〝王家の恩人であるロセット家〟を敵に回しても、いい事等ひとつとしてないでしょうに」
「恐らくだけど、アンティに失敗させたいのさ」
「「失敗?」」
「爺様からの情報だと、〝錬金術学会〟がアンティについて知っている内容は、そう多くはない。ただ、〝錬金術師のヒヨコ〟という情報を元に、奴らはアンティに『これを作ってくれば剥奪を戻してやる』くらいは言うだろうね」
「それって、ヒヨコでは作れないアイテムですか?」
「恐らく……。だが、アチラはアンティの錬金術師としてのレベルを知らなすぎる」
「少なくとも、〝石化解除薬〟と〝呪い解除薬〟を作れる……までは、知っている程度ですか?」
「ああ、それからかなりアンティのMPも増えて作れるアイテムも増えている。その事を理解していないんだろうさ」
――厄介な。
確かにあれから毎日いろいろ作ってスキルはガンガン上げたけど、その事実を知らないまま……というのは、恐らく〝錬金術学会〟の情報収集不足かも知れない。
今の私レベルだけど、すでに回復薬の最高峰である〝万能薬〟くらいまでは作れるスキルはすでにある。
ただ、材料が無いため、現在アニーダ薬草店に素材を集めてもらっている最中だ。
ピエールも、僅か十四歳で作ったという回復薬の最高峰である〝万能薬〟を、まだ十三歳になった私が作る。
つまり――何が言いたいかというと。
「私も一応、天才錬金術師の仲間入りの予定でしたしね」
「そうなんだよねぇ……世界最年少の天才錬金術師までもう一歩ってところだったのに」
「でも、もし仮に作ってこいと言われたのなら、笑顔で作りますけどね?」
「あはは‼いいねぇ……見返してやるってことかい?」
「馬鹿にされたままでは終われません」
笑顔で言ってのけた私に、祖母は声を上げて笑い、ピエールもどこか安堵したように微笑んでいた。
「落ち込んでいるかと思ったが……どうやら違うようだな」
「あら、ロセット家の女が、己の武器を封印すると言われて黙っているとでも?」
「確かに、それはないか」
「良い心がけだよアンティ。それでこそ、ロセット家の錬金術師」
「ふふふ」
私は自分の仕事に、そして〝駄菓子錬金術師〟に誇りを持っている。
その誇りを奪うというのなら、徹底して戦うのみ。
――私から奪うのなら、それ相応の覚悟は持ってもらわないとね。
徹底的に潰してやるわ。
◇◇◇◇
王城に着くと、すでに『蒼龍の牙』のリーダーシドさんも来ていて、私たちは揃って謁見の間で話し合うことになった。
私が助けたマルセル王子やティーナ姫も来ていて、怒り心頭だ。
「自分たちでは助けられないとわかると、そうそうに匙を投げて引き籠もったくせに、助けるだけの力のあった〝王家の命の恩人〟たるアンティに対して、許しがたい‼」
「アンティがアイテムを作れなくなるというのなら、我々『蒼龍の牙』も彼らに薬草等必要素材を集めてくる依頼は全てキャンセルさせてもらう」
「我が『アニーダ薬草店』も『蒼龍の牙』と同意だ」
「王家はこれより、徹底的に王家の恩人たる錬金術師、アンティ・ロセットを〝危険錬金術師〟と決めつけた〝錬金術学会〟と、全面的に争うことを、ここに宣言する‼」
――やっぱり。
私を起爆剤に〝王家と錬金術学会の戦争〟が、かくして勃発したのだった。
〝錬金術学会〟としては、『アニーダ薬草店』と『蒼龍の牙』が全ての採取や魔物素材を集めてくるクエストをキャンセルしたのは予想外だったようで、急ぎBランクの冒険者に依頼を出した。
しかし――。
「なんでもー?Sランク冒険者の『アニーダ薬草店』と『蒼龍の牙』を錬金術学会が敵に回したそうじゃないですかー」
「そんな奴らからの依頼なんて受けませんよ」
「Sランク冒険者に目をつけられたくないもんね」
「「「ねー‼」」」
と、Bランク冒険者は錬金術学会の依頼を断り、かといって値段を上げてBランク、Cランクにまで下げて依頼を出したものの――。
「難癖つけて、まだ幼い錬金術師を〝危険錬金術師〟と決めつけた〝錬金術学会〟の手伝いを、なんで俺たちがしないといけないんすか?」
「絶対お断りだね」
――と、これまた〝錬金術学会〟から毎回出る薬草や魔物素材といったもののクエストを拒否。
ならば、薬草店になら……と向かえば――。
「あんたら、孤児院や終の棲家に無償で寄付してた錬金術師を〝危険錬金術師〟にしたらいいな?そんな学会に卸す薬草はねぇ‼帰れ帰れ‼」
と水をぶっかけられる始末。
そうこうしているうちに、〝錬金術学会〟の薬草庫からは薬草が消えていき、もはやジリ貧になり始めた頃――突発的に流行り始めた風邪で、王城にも風邪が蔓延。
王城の薬を出す機関でもあった〝錬金術学会〟だったが、その薬すら作れなくなっていき、本当にジリ貧を過ぎて作れるアイテムが限られてきた頃――。
もはやどうすることもできなくなった〝錬金術学会〟は、王家の力を借りて、なんとかしようとしたのだけれど――。
「〝錬金術学会〟は、王家から多額の資金をもらい研究、開発、そして城の中の薬を作るための機関であったはずだが? それが何故、〝失われつつある錬金術〟と〝失われた錬金術〟を使った罪などといわれなき罪を被る錬金術師がいたのだろうな?」
「それは……その……」
「何故薬が作れない。何故どこからも薬草を調達できないのだ。できないのならばお前たち〝錬金術学会〟が薬草を取りに行けばよいだろう?」
「へ、陛下‼お言葉ですが、Sランク冒険者が言うことをきかないのです‼」
「ははは‼だろうな‼お前たちは知らなかったのか?彼らSランク冒険者の『アニーダ薬草店』と『蒼龍の牙』は、アンティ・ロセットと契約し、神聖契約まで交わしてアイテムを納品してもらっていたことを。
そのアンティ・ロセットを〝危険錬金術師〟として〝アンティ・ロセットを錬金術師の資格を剥奪する〟とまで言った学会に、誰が手を貸すと思う」
「な……‼お、恐れながら申し上げますが、本来錬金術の薬とは苦いものです‼それを甘くして子供に飲みやすくするなど……」
「甘い薬で利益を奪われているのですぞ‼伝統を守るべきです‼」
「自分たちの存在意義が脅かされていると感じている錬金術師は多いのです‼」
そう訴える〝錬金術学会〟だったけれど、どれもこれも、自分たちを守りたいがためだけの言葉だらけで、国のことを、国の未来を思うものはいなかった。
「……子供が飲みやすくして何が悪い?子供の死亡リスクが下がれば国はさらに栄える。なんだ。〝錬金術学会〟は国の衰退を望んでいたのか?」
「ち、違います‼ただ、薬とは本来」
「それに、アンティ・ロセットが持っている固有レアスキルである〝駄菓子錬金術〟は女神サシャーナ様から賜ったもの。貴様たち〝錬金術学会〟は、女神サシャーナ様をも敵に回す重罪人なのだぞ」
「わ、我々が重罪人ですと‼」
「言葉が過ぎますぞ陛下‼」
「でなければ、なんだというのだ。ああ、それと今後一週間の間に貴様たちには〝万能薬〟を作ってきてもらう」
「無茶です‼ 薬草も何もかもが足りません‼」
「大丈夫だ。女神サシャーナ様が〝お前たちの行いが正しいというのならば作れる〟そう仰るだろう」
もはやジリ貧を通り越して、裸足で逃げたいであろう状態になっている〝錬金術学会〟は、どんどん追い詰められていった。
――薬草は足りない。
――魔物素材も足りない。
――錬金アイテムが作れない。
そのきっかけが何だったのか。
それすら最早思い出せないほどに、狼狽え、学会は崩壊しつつあった。
そんな折、祖父が〝錬金術学会〟に行った際のことだった。
◇◇◇◇
彼らは祖父に泣きつき、「何とかロバニアータ様の持つ薬草を分けてもらえないだろうか」と図々しくも頼んできたのだという。
しかし祖父は――。
「あなた方は、何かお忘れではありませんか?」
「な、何を……」
「あなた方が、我が孫、アンティ・ロセットにした仕打ち。それが今あなた方に帰ってきているのですよ?そう、まるで女神サシャーナ様に見捨てられたかのようなこの有り様……」
「あ、う、ああ……」
「ああ、言い忘れておりましたね。孫娘、アンティは……ロバニアータと同じ〝女神サシャーナの寵愛〟であることを。その寵愛を受けるアンティを攻撃したのです。
無慈悲に、何の罪もなかったあの子へ対してあなた方がした仕打ち……〝女神サシャーナの寵愛〟を受けしアンティを攻撃したことで、〝女神サシャーナ〟がお怒りになられたのやも知れませんねぇ?」
この言葉を聞いた学会にいた若い者たちは、すぐに学会に辞表を出して逃げた。
〝女神サシャーナの寵愛〟とは、それだけで〝女神の愛し子〟という意味を持ち、その人間を攻撃したのだから……。
最初から決まっていたのだ。
王家が宣戦布告する前から。
時間が解決する。
――学会は〝女神サシャーナ〟までもを、敵に回したのだから。




