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駄菓子錬金術で世界を救う⁉ 見習いアンティの奮闘記  作者: うどん五段
第一章 私の居場所は【錬金術工房クローバー】
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第3話 オブラートも大事なんだけど、論点が違うんだよ

ブックマーク、評価、感想、誤字脱字報告ありがとうございます。

 夜は、私が料理当番だった。

 ムカツク兄弟子に手料理を振る舞うなんて嫌だったけれど……仕方ない。

 今度からは兄弟子も作るのだ。男だからって料理をしないなんてのはないのだから。


 今日の夕飯はポトフとパンという素朴なものだけど、私の得意とする料理だ。

 パンはおばあちゃんが錬金術で作ってくれる。

 パン屋さんで買うのもありだけど、錬金術で作れるならそっちのほうがいいもんね。

 無論、たまにはパン屋さんで買うけど、ついつい甘いパンに目が行きがちなのだ。


「ご飯できたよ~」

「あいよ~」

「……甘いポトフじゃないだろうな」

「なら食べなくていいよ」

「う……食べる」

「ピエールはもう少し、言葉を習いな」

「すみません、師匠」


 やーい、怒られてやんの。

 そう心で毒づきつつ、各自スープをよそって食卓に座る。

 私の得意料理のひとつだ。存分に味わうがいい兄弟子よ!

 そう思いつつスープを一口飲む。

 うん、今日の出来も完璧だわ!

 コンソメの味がしっかり出た風味に、野菜から出たスープの旨さ……絶品♡

 兄弟子は一口食べると止まった。

 何かあったんだろうか。文句か? やんのかコラァ‼


「……旨い」

「ふふん、でしょう? 料理はこう見えて得意なの」

「驚いたな……」

「アンティは掃除洗濯といった〝生活魔法〟も軽く使えるからのう。わしとしても重宝しとるわい」

「おばあちゃんのお洋服は私がやってるんだからね。家の掃除も! おばあちゃん何もできないんだもの」

「人それぞれ、得意不得意はあるもんじゃよ」

「もう、そればっかり」


 そう言うと、兄弟子はさらに驚いた表情で私を見てきた。

 首を傾げて「なに?」と聞くと、顔を背けられたけど、何だったんだろう。


「妹弟子としては、まぁ、頑張ってる……方だと……思う」

「やっぱり? 家事もして仕事もして、お客さんの相手もしてるからね!」

「そうなのか⁉ 師匠は一体何を?」

「アタシは錬金術をしてるよ」

「それはそうでしょうが」

「得意不得意は誰にでもあるよ。私とおばあちゃんはそうやって、役割分担を決めてやってきたの」

「得意……不得意」

「誰かが何かができないなら、誰かがサポートするのが当たり前でしょ? それを嫌がっていたら、世界は丸くならないわ」


 笑顔で伝えると、兄弟子は目を見開いて驚いている。

 何をそう驚く必要があるのだろうか?

 兄弟子はよくわからない。


「兄弟子?」

「あ、いや、その年でそこまで達観してるのに驚いただけだ」

「そう? この年の子ってそんなものじゃない?」

「大体、ぎゃーすかと嫌だ嫌だと喚くのが普通だろう」

「私、そこまで子供じゃありませーん」

「そのようだな……。だから驚いた」

「あと、甘い錬金術も諦めませーん」

「むう……」

「ま、アンティのような錬金術師もいていいのさ。錬金術の形は何もひとつであらねばならない……なんて事はないからね」


 そうおばあちゃんが締めくくったことで、食事再開。

 美味しいものは温かいうちに♡

 やっぱりお腹が満たされると心も身体も満たされるわ!


「明日の朝は兄弟子がご飯担当だよ」

「分かってる。簡単なものしか作れないが……」

「そうだねぇ……。アタシよりは作れるけど、ピエールもそこそこ……こう、ね」

「え、なに? 怖いんだけど」

「明日になればわかるさ」


 え、これって私が料理担当フラグ?

 まぁ、ひとり増えた分くらいどうってことないけど……。

 取りあえず、明日の朝の兄弟子の料理を楽しみにしよう。


 こうして食事も終わり、おばあちゃんが片付けてくれている間にお風呂の準備だ。

 男性が一緒に……というのは、両親と一緒に住んでいる時はあったけど、異性と過ごすとなると色々気を使う。

 いつもタンクトップに短パンで夜は過ごしてる私としては……まぁ、いいか。

 相手はまだ子供だしね。

 そんな事を思いつつお風呂に入り、いつも通りタンクトップに短パンで出てくると、兄弟子が顔を真っ赤にして椅子から転げ落ちた。


「どうしたの? 兄弟子」

「妹弟子‼ お前には恥じらいはないのか‼」

「は?」

「そんな……しかも下着つけてないじゃないか‼」

「寝る前につけないよ。胸もそんなに育ってないし」

「つけろ! 寧ろその格好はやめろ!」

「いやですー。私は寝る時窮屈なのは嫌なの」


 そう言い合っているけど、ピエールの目が一点に集中していることに気づいた。

 胸……? この少し大きくなってきた胸に目が行ってるの?


「――師匠!」

「なんだい?」

「決めた! 俺は明日、妹弟子用の楽なパジャマを買ってくると‼」

「今のままでいいじゃないか」

「そうだよ」

「そんなっ! ふ、太もももそんなに出して‼」

「私は小さい頃からこの格好で慣れてるの! パジャマもらっても着ないからね」

「くう……」


 何をそんなに苦しがっているのだろうか……。

 兄弟子よくわからない。

 すると――。


「まさかとは思うが……その格好で客の前になんかは出てないだろうな」

「夜間救急患者が来た場合は錬金術師用のコートを羽織って出てるよ」

「そ、そうか。ならいい。問題な……くはないが、まぁ、良いだろう」


 何が言いたかったのだろうか?

 乙女としての恥じらいがないとか、そういう事を言いたいんだろうか?

 兄弟子に対して、乙女の恥じらいとか持ってないから安心してほしい。

 好きな人の前では恥じらうかも知れないけど。


「兎に角、目の毒だ。早く部屋に戻れ」

「今からおばあちゃんと錬金術の話するの。しばらくリビングに居るよ」

「地獄だ……」

「はっはっは! アンティは美少女だからねぇ! ピエールもこれには参ったろ?」

「笑い事ではありませんよ……」

「それで、おばあちゃん。ダースでポーション作れるようになったら、次は中級ポーション試してみてもいい?」

「いや、その前にMPポーションからだろう。その次に中級ポーションだよ」

「そっか、なら、またコツコツダースで作れるようにならなきゃ」


 そう気合を入れていると、私から思い切り顔を背けた兄弟子が口を挟む。


「だが、ポーションとは苦いのが普通だろう? そもそも、錬金術のアイテムとは苦いものだ。だからこそ、俺は〝オブラート〟というアイテムを開発して、飲みやすくしたというのに」

「ああ、オブラートね。あれ、大人は人気高いけど、子供には不人気だよ」

「何だと⁉」


 え? そんなに驚く事ある?

 普通に考えたらわかることじゃない。


「なんで不人気なのか、教えてくれ」

「単純に、子供用オブラートじゃ飲める年齢は若干高くなるし、それでも、飲み込む力が元々弱い子供では、オブラートに包んだ薬を飲み込むのを怖がる子も多いんだよ?」

「そう……なのか?」

「誤飲って知ってる?」

「それは……知っているが」

「子供はお年寄りと同じくらいそれが起こりやすいの。だから、私はオブラートに包んだ薬より、子供が安心して飲めるお薬を作りたいんだよ。

 それこそ、0歳から子供は初乳の効果が消える六か月から病気にかかりやすくなるわ。だから、そのくらいの頃から少しずつでも身体に効く害のない薬を作るのが目標なの。甘いっていうだけじゃないの。

 甘いからこそ、子どもたちの命も守れるのよ」


 自分の考えをスラスラと言った私に、兄弟子は驚いて目を見開いている。

 そして「初乳……」と言って私の乳を見る。


「目線」

「はっ‼」

「兄弟子のスケベ野郎。兎に角、子供には子供の理由があるし、そのために私の錬金術は必要だと思うわ」

「スケ……。むう……。誤飲の事は頭になかったな……。飲みやすいと思っていたんだが」

「子供の飲み込む力を舐めちゃいけないわ。上手く飲めるようになるのは、早くて五歳くらいからよ? それ以下の子供はどうするの?」

「むむむ……」

「はいはい、論議はそこまで。お前たち、明日に備えてそろそろ寝るよ」

「はーい」

「わかりました……」


 そこまで論争を繰り広げてから私たちは各自部屋に戻る。

 私の部屋の隣は兄弟子だ。隣に知らない男子が寝るのって不思議な感じ。

 まぁ、部屋には鍵は掛かってないけど、大丈夫でしょう。

 そんな事を思いつつ「おやすみなさーい」と挨拶して部屋に入ってベッドに潜り込む。

 今日は色々な事があったなぁ。

 でも、自分の目指す錬金術師が分かったから、それが大きな収穫かも。

 私は親と子供を助ける錬金術師になるわ。

 そう思い眠りについた翌朝――悲劇が待っていた。

 兄弟子、料理が下手だった。


「兄弟子、コレは?」

「俺の作った朝ご飯だが?」

「見事に焦げを作りましたね……」

「料理は得意じゃないんだ……」

「ん~~。この調子だと、食事担当は私かな? 洗濯は兄弟子できる?」

「できるが……まさか……お前の下着まで洗えっていうのか⁉」

「は? 一緒に住んでるんだから当たり前じゃない」

「もう少し恥じらいを持て、恥じらいを‼」

「おばあちゃんのもお願い。洗濯担当、頑張ってね?」

「妹弟子――‼」


 昨日のちょっとした嫌がらせだ。

 存分に恥ずかしがるがいいわ。


 こうして、その日は朝からいつも通り大盛況で、私が甘い〝子供用粉ポーション〟をたくさん作っては出し、その合間に大人用のポーションを作っていく。

 そんな日が数日続いたある日――。


「やっぱりアンティの作る粉ポーション旨いよな!」

「美味しいね‼」

「ありがとね~!」


 そう子どもたちと会話していると――兄弟子が後ろからヌッと出てきたのだ。

 驚いていると、兄弟子は子どもたちに、こう問いた。


「薬は苦くてこそ効く。でも、苦いのが嫌だからこそオブラートがあるだろう?」

「えー? 苦いのイヤー」

「俺もパス―」

「それに、オブラートって飲み込むのキッツいよな」

「それな!」

「私、上手く飲み込めない……」

「そうか……」


 なるほど、実際の子供が使っている感想が知りたかったのね。

 この事実を知って、兄弟子がどう出るかだけど……この世界での〝オブラート開発者〟である兄弟子にしてみれば、ショックは大きいのかもしれない。


「それに、お薬は甘いほうが全部飲めるから飲みやすいのよね」

「そうそう。アンティ。次はいろんな薬も作ってくれよ」

「分かったわ。ポーションとMPポーションが作れるようになったら、色々作ってみる」

「「「「やったあ‼」」」」


 こうして、私は次なる目標ができたわけだけど……兄弟子は少し考え込んでいる。

 兄弟子やおばあちゃんは、従来通りの苦い薬しか作れない。

 だからこそのオブラートだったんだろうけど、子供にとっては結構死活問題なのだ。


 オブラートしかない薬もあるし、なんか気休めになるのも作ろうかな。

 駄菓子でなんかそんなのあったよね。


 落ち込む兄弟子を見て、私はそんな事を思いつつ、ポーション作りに励み続けて二週間後――。やっとダースですぐに作れるようになり、MPポーションに移れた。


 さてさて。MPポーションくん?

 君はどんな味になるのかな?

 ちょっとドキドキするよ‼


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