第27話 〝忘れ去られつつある錬金術〟
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冒険者のお客さんは――結果として現在Aランク冒険者の方しか来なかった。
と言うのも、王都で『蒼龍の牙』と『アニーダ薬草店』のSランク冒険者と契約していると言う事を、二組が語ってくれたからだ。
『確かに強さの秘策ではある。だが相手はまだ十三歳の錬金術師のヒヨコである以上、アイテムが回ってくることはないと心得よ』
そう言ってくれたらしい。
ありがたい……。
とは言え、本当に困った時は彼らを通じてアイテムが届くようになった……。
と言う事で、現在来ているのはSランクの蒼龍の牙とアニーダ薬草店、そしてたまに訪れるAランク冒険者くらいだった。
彼らは、〝薬こそ子供たちに伝わるべきだ〟と言う私の考えを尊重してくれる。
本当に有り難かった。
それに引き換え、貴族共と来たら……。
そう思わずにはいられなかった。
そんな折、画家を目指すお子さんがお店にやってこられた。
困っていることがあるらしく、私とピエールで相談に乗ると、何でも神経痛が強いらしい。神経痛なら貼り薬が一般的だけど、飲み薬も一応ある。
前世では私は肩凝りや神経痛に悩まされたことがあるので、その気持は痛いほどわかる。そういえば神経痛が欲しいと言うお客様はお年寄りにも多かった。
皆さん塗り薬か、湿布を買っていかれてたけれど……。
「飲み薬でありませんか? 肩こりと腰痛とか治るようなの……」
「うーん」
「読書が好きな妹も目の疲れが酷くて神経痛が凄いらしいんです」
「神経痛ですよねぇ……」
飲み薬に神経痛の薬……あるにはある。
あまり好まれない為、作るのをやめていたのだけど、子供さんやお年寄りが困っているのは放ってはおけない。
「ただ、根本的な痛みを取るなら、やはり整体に通われるのが一番だと思います」
「通ってはいます。でも一時的には効いても、ずっとはなかなか効かなくて」
「むう。ですよねぇ」
「それに、疲労もすごくって……」
「となると、視神経の薬に疲労回復薬……ポーションじゃ駄目なんですか?」
「疲労回復薬にポーションは飲んでます」
「となると視神経用の薬か。アンティ作れるか?」
「材料があれば作れます」
「お願いです‼この神経痛とサヨナラしたいんです‼」
切実なお願い。
視神経の疲れから来る痛みはチクチクズキズキくるのよね……。
ポーションである程度体力を回復できても、視神経までの痛みは取れない。
それで困るのは、画家さんやお年寄りだけではなく、視神経の悩みを持つ人なら誰でもあるだろう。
「わかりました。今日の夕方またこれますか?」
「来ます‼お願いします‼」
「では、夕方までに作っておきますね」
こうして、視神経用のお薬を作ることになった。
お客様の言う視神経の辛さは、言うなれは前世でよくお世話になった、なんとかEXプラスとか、そっち系の末梢神経に聞く薬でもあるだろう。
いわゆる「目、肩、腰の痛みに……」というやつである。
医療用だったあの薬に近しい錬金アイテムならあるのだ。
滅多に飲み薬で使われないだけで。
〝忘れ去られつつある錬金術〟と言うやつだ。
そっちじゃなくとも、湿布や塗り薬の方が効果的と言う考えが強いらしく、また錬金術師への実入りがいいと言う理由で、作られなくなったアイテムでもあった。
作っちゃいけないとか言う規約もないし、作っていいでしょ!
そう思い、薬草庫から必要アイテムを持ってくると、いざ、錬金に入る。
スキル的にも問題なく作れるアイテムな為、総苦労はしないはず。
しかし〝神経痛〟と〝末梢神経〟か。
若いのに大変だなぁ……。
私も使うように作っておこうかな……。
最近錬金術ずっとし続けて体に負担が……。
子供用粉ポーションじゃ効かなくなりつつあるんだよね。
多分、あの子もそんな感じだと思う。
熱中すると周りが見えなくなって体への負担が一気に増えるみたいな。
「その痛みに直接作用‼」
「どうした?」
「体にくる痛みは私も感じるんです……私も使いたい‼」
「……体のマッサージ、今日してやるからな」
「ありがとう‼」
◇◇◇◇
俄然やる気出た‼
ピエールのマッサージを期待しつつ、私は頑張る‼
そう心に決めた私は、フンスと息を吐き錬金術に挑む。
作るアイテムの姿は想像出来ている。
駄菓子で甘く、個包装してあれば尚良し。
三個連結で朝昼晩で食べれたらいい。
そう、前世のあの、なんとかEXプラスとかも一日三錠だったしね‼
そこはリスペクトしたい。
それに、美味しいお薬なら一日三回でも食べたい。
ご褒美的に食べつつ神経痛と、末梢神経が治ればそれに越したことはないのだ。
私だって治りたい‼
「安定化……っ!」
ふわんふわんふわんポン‼ と言うなんとも気の抜ける音が聞こえ、金の光が収まってくると大きめの袋に入った〝アレ〟がパサリ……と落ちる。
続けて自分の分も作り、自分の分を開けてみると――ちゃんと三連になった駄菓子になっていた。
「見たこと無い駄菓子だな」
「ふふふ、マシュマロです」
「ましゅまろ?」
「食べてみてください。食感が苦手って人もいるけど、味はいいんで」
「〝神経痛〟と〝末梢神経〟を治す薬かい? アタシも食べてみたいねぇ」
「ふたつ開けてみます。ひとつは精霊さんたちにあげるね」
『甘いと見た‼』
『甘いは正義よ~♡』
『もっきゅもきゅだね‼』
ひとりずつ手渡すと、感触を楽しむ精霊さんたち。
私達も袋を開けて食べてみると――うん、優しい甘さのマシュマロだわ。
〝神経痛〟と〝末梢神経〟への効果は鑑定ではちゃんとでてたのであるのだろう。
私の体の重さが少しだけ楽になった気がする。
「お、こりゃいいね。アタシの肩凝りとかが楽になったよ?」
「俺も腕の疲れが……コイツは凄いな」
「〝忘れ去られつつある錬金術〟のひとつなんです。錬金術の本には載ってるんですけど」
「なるほど、大体この手は塗り薬か湿布で済ませるからねぇ」
「飲み薬はあまり想像してなかったな」
「なので、これはお年寄りや冒険のしすぎの方とか、集中しすぎて体を労るのを忘れがちな人にはいいのではと思いましした」
「耳が痛いね」
「全くです」
「何時でも作れるから、欲しかったら言ってね。これは多めに作って店に出そう。あとは各所に一個ずつ送ってみようかな」
各所に……と言うのは王家と、蒼龍の牙とアニーダ薬草店である。
彼らも何かと体の重さは感じている可能性がある。
それこそ、鎧の重さとか……あるだろうしね‼
「それなら、あんたの爺様にも送ってやりな」
「お爺ちゃんに? 喜ぶかな?」
「凄く喜ぶと思うよ」
「なら、お爺ちゃん用にアイテム送るね‼」
お爺ちゃんが喜んでくれるなら是非贈りたい‼
先日の王家のことでも、初級MPポーションのことでも迷惑掛けちゃったし……。
お礼とお詫びと言う物は大事です。
人間ですもの。家族でも大事なことですよ。
その夕方、神経痛で悩む画家を目指すのお客様が再度やってこられて、軽い説明をしてから飲み方等を書いた〝説明書〟を手渡すと、喜んで支払って帰っていかれた。
うーん……〝忘れ去られつつある錬金術〟は、もっと人の役に立つべきなのよね。
進化しないくせに、忘れていく錬金術があってはならないと思う。
もっと本を読んで勉強しよう。
もっと〝忘れ去られつつある錬金術〟があるのかも知れない。
そこに、飲み薬があるのなら――美味しい錬金術にして沢山の人に届けたい。
気持ちを新たに、私は前を向いて進む決意をしたのだった。
◇◇◇◇
それから数日後――。
お爺ちゃんから手紙が届き『神経痛が一気に改善して仕事が続くようになった。ありがとう』というお礼のお手紙を貰った。
その事に自分が少し誇らしくなりつつも――。
『〝忘れ去られつつある錬金術〟は他に幾つかある。試してみなさい。ちなみに目の薬はお爺ちゃん欲しいです』
とも書いてあって、そこには別の紙に錬金術のレシピが書いてあった。
どうやら目の飲み薬のようで、これも目薬があるために〝忘れ去られつつある錬金術〟のひとつらしい。
使うアイテムは必須で〝レーズン〟があるらしく、ついあのお菓子が思い出される。
美味しよね、レーズン入りのお菓子って。
ぱっとつまんで食べられる……となると、やはり思いつくのはひとつ。
他だと一口では食べるには少々大きいし、ポロポロ崩れたりするからね。
書類仕事をしている人には大敵だろう。
薬草庫にいくと、レーズンは結構あったので、別の錬金素材に使っているのだろう。使わせて頂きます‼
「あとは……殆ど目薬の材料と変わらないのね」
「何を作るんだ?」
「口から食べる目薬」
「「は?」」
「お爺ちゃんがくれたレシピなの。〝忘れ去られつつある錬金術〟のひとつらしいわ」
「なるほど、通りで……」
「アタシもなんとなくそんなのがあったねぇ……くらいしか覚えてないのう」
「美味しく作るから、是非食べてみてね」
そうですとも。
レーズン入りのお菓子って美味しのが多いんだから‼
昔ながらのロングセラーとかあるしね‼
私の前世はそのお菓子を食べつつ牛乳とか飲んでたなぁ……。
ああ、懐かしい。
今回はラムレーズンはつくらない。
だって、お子様にはラムレーズンは駄目だもの‼
――私はあくまで、子供向けに作りたい。
「さて、イメージも固まった所で作りますか‼」
目薬を作る工程の中に違う素材をふたつ程入れ、そこにレーズンを入れ込んで作っていく。何時もと工程は同じだけど、イメージを強く持って作らねばならない。
それこそが〝駄菓子錬金術〟の基本なのだ‼
「安定化」
そうすると、ほのかに甘いレーズンの香りが漂い、シュンシュンポン‼ と軽めの音が聞こえて金の光が落ち着いていく。
そしてパサ……。と落ちたのは、例の……レーズンの入ったお菓子の袋である。
平べったいレーズンのパンみたいな。
これなら書類仕事をしていても邪魔にはならないでしょう‼
「出来た、食べる目薬‼」
「ただのお菓子じゃないかい?」
「でも、鑑定すると?」
「……確かに、〝目の駄菓子〟って書いてあるね」
「〝目の駄菓子〟……」
よくある目のサプリメント……とかいうのが、私が作ったから〝目の駄菓子〟になったのかな? 何にしても美味しければ正義よ‼
「これは子供でも食べれるように改良してあるの。食べてみて」
「ふむ、食べてみようかね」
「精霊さんたちもどうぞ。甘いと思うよ」
『甘味♡甘味♡』
『甘いは正義!』
『お酢昆布もワシはすきじゃのう……』
ラムウ相変わらず渋い。
そんな事を思いつつアンジェちゃんにも渡して食べると――確かに目がクリアになった気がする。
さて、お婆ちゃんは?
「お? 確かに目がクリアに見えるね……。目の疲れが取れた感じがするよ」
「アンティ」
「ん?」
「これ、パパにあげたい」
そう声を掛けてきたのはアンジェちゃんだ。
彼のパパであるワトソンさんは、うちの書類関係の仕事を一手に引き受けてくれている。仕事も早く丁寧だとお婆ちゃんは嬉しそうに言っていた。
「ワトソンさん、書類仕事ばかりしてるもんね。〝神経痛〟と〝末梢神経〟を治す薬と、〝目の駄菓子〟持っていってあげていいよ。何時もお疲れ様って伝えてきて」
「はーい」
そう言うとアンジェちゃんは嬉しそうに駄菓子を持ってワトソンさんの仕事場へと向かった。これで彼もしっかり体を癒やして仕事ができればいいんだけど。
暫くすると、ワトソンさんがやってきて、是非定期購入したいということだったので、書類で契約を結んで定期購入出来るようにした。
無論、所謂社員割引で。
お爺ちゃんに送って数日後――定期的に送ってほしいという連絡があり、こちらは祖父への贈り物として定期的に送ることにした。
〝忘れ去られつつある錬金術〟でも、誰かの役に立てる。
忘れちゃいけないんだ。
少しでも。
そんな気持ちを持って、今日も錬金術に励んでいたのだけど。
今度は違う角度からのお客様がお見えになったのだ。
それは、これまでの〝薬〟では解決できない類の悩みだった――。




