第26話 私とお婆ちゃんの加護と、王子と姫との対談
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それは、青天の霹靂だった。
お婆ちゃんに呼ばれ、蒼龍の牙さん達に護衛されながら向かった王城。
そこで語られた私の事に、ピエールですら目を回して倒れそうだった。
「〝女神サシャーナの寵愛〟……?」
「そ、アタシと同じ奴だね」
「同じ奴って言う言い方は失礼ですよ?〝女神サシャーナの寵愛〟は貴女とアンティ、そして五百年前に亡くなった女性を含め、三人しかないのですから」
「たったの三人⁉」
え、お婆ちゃんも異世界転生者ってこと?
そう思ったけど、どうやら違う様子。
お婆ちゃんはSランクソロランカーになれる実力と、類まれなる才能の錬金術師と言うのがある。それが〝女神サシャーナの寵愛〟だったようだ。
五百年前に亡くなった人はわからない。
けれど、老いて亡くなったにも関わらずとても若い姿を保っているそうで、今も亡骸は美しいまま、黄金の光を放っているそうだ。
と言う事は〝女神サシャーナの寵愛〟には、美しさを保つ……みたいなのがあるのかも知れない。
私もそうなるのかな……なんて思っていると――。
「では、必ず国の加護を受けねばならない……と言うのは」
ピエールが困惑しながら告げると、お婆ちゃんは笑い飛ばしながら「それはない」と一蹴した。
「〝女神サシャーナの寵愛〟の力だろうがなんだろうが、アタシたちはアタシ達。それ以上でもそれ以下でもない。アタシもアンティも、ひとりの人間であることには変わりはない。アタシ達二人から翼を奪うことなんて、出来やしない。だが、この国の王族が後ろ盾になることは確定している」
「と、言うのがロバニアータの言い分でもあり、決定でもある。ゆえに、王家も二人に加護を与えるそうだ。二人揃って、王家の未来を救ったのですから」
確かに王家の未来を救ったのだから、加護を貰うのは致し方ないのかもしれない。
でも、それって大丈夫なのかな……。
「でも、王家の加護があったとしても〝錬金術師学会〟は別物なんだよね……」
「そうだね……。奴らは奴らで矜持がある。だからこそ、アタシ達とは対立するだろうね……」
「わぁ……」
これから先を考えると凄く胃が痛いかもしれない。
〝錬金術師学会〟は自分たちが王子と姫を助けられなかったことで、私の〝駄菓子錬金術〟を許しはしないだろう。
でも、やり合うっていうならとことんまでやり合ってみたいと言う強気な気持ちもある。
子供が飲む薬を、飲みやすくするのもまた錬金術師の仕事だと思うからだ。
それを現在怠っている〝錬金術師学会〟には、私なりの意見も言いたい。
自分たちこそ、発展するべき、進化するべき錬金術の時を止めてしまっているではないのかと……。
「あの、今の〝錬金術師学会〟は、時が止まってしまってるんですか?」
「そうだねぇ……。錬金術とは色々試行錯誤をして新たなものを作っていく……と言う考えは否定しないし、アタシもそれこそ錬金術だと思っている。だが、今の学会は過去の栄光こそが……と言うのが強いね」
やはり過去の栄光にしがみついてるのか……。
そんな気はしたのよね。
時代に取り残されてんじゃないわよ。
前世でも過去の栄光だなんだと、そこにしがみついてる輩はいたけれど、それと一緒じゃない‼
「錬金術は試行錯誤の結果、色々なアイテムが生み出される世界だと思ってるわ」
「そうだね」
「そこで止まっていたら……何も前には進めないのに……どうして立ち止まっているのかしら。そんなに過去の栄光が重要なのかしら」
「まぁ、そこにすがっていないと……自分たちを保てないと言うのは、あるかもしれないねぇ」
「錬金術師は良くも悪くも保守的なんですよ。新しいものに挑戦するのには許可がいる」
「えぇ……?そうなの?」
「でも〝うっかり出来てしまった物〟は仕方ないでしょう?アンティの作った〝子供用MPポーション〟も〝うっかり出来てしまった物〟として提出しましょうね」
「お爺ちゃん……はい、わかりました」
笑顔で言うということは、本当に面倒臭いんだな。
お爺ちゃんが手続きをしてくれるそうで、ほっと安心出来るけど、ごめんね?
きっと嫌味言われる気がするよ……。
「まぁ、何にしてもお爺ちゃんに任せておけば大丈夫です。これでも城では偉いので」
「頼りにしてるよ」
「ありがとうお爺ちゃん」
とりあえず、これで一先ずの問題は片付いたのかな?
そう思っていたけれど違った。
明日の朝、助けた王子と姫君との対談があるらしい……。
思わず遠い目をしそうになったけど、致し方ない。
そもそも、私のような者がこの王国の王子と姫君と会うと言う事が、どれだけ凄いことなのかと思うだけで明日が怖くなる。
「お婆ちゃん、王子様と姫君様はどのような方なの?」
「アタシも詳しくは知らないねぇ……。利発な王子と、柔らかい姫君と聞いている」
「そうなんだ」
「ピエールも傍にいたほうがいいよ。嫁にするなんて言われたら厄介だろう」
「是非隣りにいます」
既婚者なのに、結婚するなどと言われたらたまったもんじゃない‼
次期国王となる王子との結婚……そりゃ憧れる女性は多いだろうけど、私にはピエールがいる。彼以外との結婚なんてノーサンキューだ。
そんな事を思いつつ、貴賓室でその日は眠りにつき、翌朝食事を終えてからの面会となったわけだけど――。
◇◇◇◇
「貴女がアンティ・ロセットか‼君のお陰で我々兄妹は助かった、礼を言う‼」
「本当に、もう死ぬのだと覚悟を決めておりましたが……貴女様のおかげで助かりましたわ」
「もったいなきお言葉です」
こうして始まった対談。
早く終わるだろうと予想していたのだけれど、マルセル王子はグイグイ質問してくる。それがちょっと怖い。
「国王である祖父も、何か褒美をと言っているのだが、何が欲しい?ドレスか?宝石か?なんでも申してみよ‼」
「いえ、そんな、滅相もない。今の生活があれば十分です」
「そうは行かぬ‼王家の後ろ盾と言うだけでは、割に合わぬ‼」
「え!えぇぇ……」
「そなたは結婚していると聞いている。どうだろうか‼アンティ殿の子どもと私の子供を将来結婚させると言うのは‼」
「それこそ恐れ多いことです‼」
やめてくれ。
私は子供にも自由恋愛をさせたい主義なのよ‼
生まれる前からの許嫁なんていりません‼
冷や汗を流しつつお断りの言葉を延々と告げるしかないけれど、王子はかなり本気のようだ。
「そもそも‼アンティ殿を我が妻にしたいところを、ぐっと我慢しての提案なのだ‼」
「その提案が、私の子供とマルセル王子様の子との結婚ですか⁉」
「失礼致します。しかしながら、私も妻も子には自由恋愛でいて欲しいと思っておりますので、生まれる前から婚約者というのは些か……子供にも失礼でしょう」
「むう‼難しいな‼では、私の子とアンティ殿の子が自由恋愛すれば結婚は良いと言う事だな‼」
「まぁ……」
「それなら……止めはしませんが」
「よかろう‼それで良い‼」
どうやら、うまくまとまったようだ……。
これまでに一時間半延々と言い合ったけれど、やっと納得してもらえたようだ。
ふう……と内心安堵の息を吐いたが、次に爆弾を落とされた。
「その為にも、是非王家との繋がりを確固たるものにするべく、定期的にアイテムを送ってほしい。わが王家の為に、心ばかりのものでいい。それこそ、ポーションひとつであっても構わん」
「え、えええええ⁉」
「貴女の作るアイテムはどれも美味しいと評判ですわ。是非、食べてみたいんですの」
「お薬ですよ⁉」
「ふふふ」
「それと、王家御用達店に、幾つかの取引が出来るようにしておこう。アンティ殿の箔もつくはずだ」
色々面倒くさいな……。
すでに手一杯なんですよ。
蒼龍の牙にアニーダ薬草店。
それにお店用でMPはカツカツです‼
そう叫びたいのをグッとこらえていると、ピエールが口を開いた。
「現在妻は、この国のSランク冒険者二組と契約をしている他、ロバニアータ師匠のお店で薬を作って売っています。これ以上はMP的にも体的にも間に合いません。王家御用達店は嬉しいのですが……」
「なに、卸す許可があると思えばいい。そのうち成長してMPも増えていくだろう。そうなった時に、卸せば良い」
「わかり……ました」
「そういう事でしたら。ただ、アンティも今MP的にも手一杯なのはご理解ください」
「わかった。無理をいってすまんな。これからも是非、定期的に会って頂けると嬉しい‼」
「夫と一緒ならば構いませんが」
「うむ、夫と一緒に来るといい‼」
こうして、会談は一旦終わりとなった。
ほっと安堵してマルセル王子とティーナ姫が外に出ると、ドッと疲れが溢れた。
緊張もあったけど、ああ、頭が痛い。
「お婆ちゃん、こういうのが嫌であの街に住んでるね」
「だろうな……」
「色々今後気苦労が絶えなさそうだけど……頑張りましょう?」
「ああ、俺はアンティを支えるよ」
ああ、ピエールが癒やし‼
夫の癒やしは何よりも効果的だ‼
とりあえず、いつもの日常に戻れると思っていいのよね?
これ以上の迷惑はもう無いのよね?
――そう思っていたけれど、後日私の存在が国王から公にされ、〝唯一無二の駄菓子錬金術師である〟と言う事や、〝病に伏していた王子と姫を治した王家の恩人である〟まで伝わり。
店がとんでもないことになるのは、言うまでもなく……。
◇◇◇◇
「こちらにアンティ・ロセット様がいらっしゃると聞いたのですが‼」
「はい?」
「是非我が公爵家と取引を‼」
「公爵様ずるいですぞ‼貴族だけではなく、市民に、子供たちにこそ、アンティ様のお薬は必要と考えます‼」
「あわあわわあわわ」
「えーい‼喧しい‼全員出ていきな‼薬が欲しけりゃ自分たちでこの店まで通うんだね‼」
「ぎゃ――‼」
お婆ちゃんの爆弾が炸裂。
商品棚は……無事、良かった。流石お爺ちゃんの作った守りの高い家。
思わず私とピエールは遠い目をした……。
王家からのお言葉があってからというもの、毎日のように訪れる客。
流石に私ひとりのMPではどうすることも出来ず……。子どものいる家庭を優先して人数制限を設けて店に入ってきてもらうようにしたのは言うまでもなく。
「子供用と言いつつ、大人用のポーションも買っていかれるんですよね」
「個数制限は掛けてるから……大丈夫だけど……」
「売上はかなり伸びたねぇ……」
「住民でこれだろう?冒険者まで来だしたら大変な事だぞ」
「わ、わぁ……」
冒険者のことをすっかり忘れていた‼
これから先、どうなるんだろう⁉




