第23話 紅蓮の翼のその後と、尊き身分の方の為の〝石化解除薬〟
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その日、珍しく蒼龍の牙のリーダーであるシドさんがお見えになっていた。
紅蓮の翼のその後を教えてくれたのだ。
――結局、「ロバニアータ様の孫娘を誘拐しようとした極悪人」として王都では仕事を得ることができなくなり、Bランク冒険者に降格。
その後、揉めるように紅蓮の翼は解散。
紅蓮の翼に入っていた面々は別のPTに入ろうとしたが「ロバニアータ様のお孫様を誘拐しようとした者たちを入れられない」と拒絶。
『冒険者ギルド長会議』が行われ、元紅蓮の翼の面々も出席し、事態把握に努め、指示を出したのがトップの内々に行われていたこと。
下の者たちはそのことを一切知らされていなかったことも考慮し、トップの者たち以外は他の冒険者ギルドに所属を許されたそうだ。
「トップに君臨していた者たちは今どこにいるのかはわからないが、まともな職には就けないだろう。王都から離れたという情報もある」
「そうなんですね」
「脅威は一応去ったが、まだ燻っているのが現状だ。気をつけたほうが良い」
注意を受け、私が強く頷くとシドさんは頭を撫でて微笑んだ。
どうかしたんだろうか?
「君の作った上級ポーションや上級MPポーションでうちの面々は特に助かっている。もう泥臭い元の味には戻れないと、MP持ちが苦笑いするほどだ」
「それは良かった……んですかね?」
「おかげで飛躍的に我ら蒼龍の牙は名声と富を手に入れた。それらの影役者であるアンティには心より感謝している。困ったことがあったら遠慮なくすぐ教えて欲しい」
「困ったことがあったらお願いしますね!」
「うむ!」
元気よく応えると、シドさんは嬉しそうな笑顔をして、アイテムを持って帰っていった。燻ってはいるけど、紅蓮の翼のことはひとまずは、といったところだろう。
ホッと安堵の息を吐いていると、ピエールから頭を撫でられた。
優しい笑顔には毎回救われる。
「蒼龍の牙の面々も、アンティが狙われたことは相当肝が冷えただろうな」
「そうかもね。でもあの時ピエールが気づいてくれたから助かったわ」
「そうかもしれないな。そして運良くコウジがいてくれたことで救われた」
「コウジさんには感謝しかないわね」
あの時、コウジさんがいなかったらどうなっていたかわからない。
恐怖は残るものの、今後は気をつけつつ進んでいきたいと思う。
さて、シドさんが持っていった上級ポーションと上級MPポーションで、一旦スキルが上がりきった。
ついにお婆ちゃんから依頼された薬を作るときが来たのだ。
でも、なぜこのアイテムが必要なのかは、理由は聞かされていない。
依頼主がいるのかもしれないと思い、仕事をしているお婆ちゃんに聞いてみた。
「ねぇお婆ちゃん、そろそろ〝石化解除薬〟と〝呪い解除薬〟を作るんだけど、依頼主は誰なの?どんな人が使うの?」
「そうだね……尊きお方二人が使うんだよ」
「つまり、ふたつ無いと駄目なのね?」
「ああ、身分の高い方が二人使われる。相手は尊き身分の双子様だ」
「それって……」
「名前を口に出すのも憚れる程の尊きお方だよ」
ピエールはその人たちが誰か分かったみたいだけど、私はわからない。
ただ、困っている子供がいるのだというのだけは分かった。
「でも、お婆ちゃんだって〝石化解除薬〟と〝呪い解除薬〟作れるでしょう?」
「作れるが、あのふたつは特別にまた苦いからね……。オブラートに包むにしても大きいし、錬金術師は何とか改良を進めてるけど、どうもうまくいかないみたいなんだ。それがきっかけで、尊き身分のお方が薬を受け付けなくなってねぇ」
「そうだったのね……」
「アンティと同じくらいの歳の子だよ。まだまだ子供なのに……大変なことだよ」
たしかに尊き身分のお方が薬を受け付けないのは困るだろうな。
漠然とだけどそう感じた。
誰かなんてのは二の次!
困っているお子さんを放ってはおけないわ‼
「分かった。尊き身分なら、それに相応しい見た目が良いわよね」
「見た目?」
「んん~~……となるとアレかあの辺り……」
「色々アンティなりに考えることがあるんでしょうね」
「まぁ、美味しく作ってくれたら助かるねぇ」
「寧ろアンティは美味しいのしか作れません」
「そりゃそうだった」
そうですとも‼
美味しいお薬で、苦いお薬が飲めない子供たちを助ける。
それこそが私の求める〝駄菓子錬金術〟だもの‼
困っている子供を救うことが私の使命‼
なんとしても、〝石化解除薬〟と〝呪い解除薬〟作ってみせるわ。
両方共にスキルが高くないと作れないアイテム……。
錬金術師のレベルとしては、やや上級に位置するアイテム。
けど、ひたすら上級ポーションと上級MPポーションでスキルが上がらなくなるまで作り続けた私になら、今なら作れるはず‼
ただ、素材がとても希少品を使うのだ。
失敗は許されない。
でも、こんな貴重な薬草や素材、いつの間に手に入れたんだろうか?
「お婆ちゃん、この貴重な素材はいつ集めたの?」
「アニーダ薬草店で、手に入ったらすぐ持ってくるように頼んでたからね」
「なるほど」
アニーダ薬草店は危険な地域にも入って薬草や錬金術に使うアイテムを採取する。
それが魔物のアイテムだったりする場合もあるけれど、今回使うアイテムはどれもこれも希少品だ。
コウジさんも採取には怪我をした可能性すらある素材もある。
だから尚更失敗できない。
「〝石化解除薬〟と〝呪い解除薬〟が必要な方々は、何をしていてそのふたつを受けてしまったの?」
「遠征について行った際、バジリスクに遭遇してね」
「バジリスク……」
だから〝薬草ヘンルーダ〟があるのね。
〝薬草ヘンルーダ〟は、バジリスクの化石化させる光線を浴びても石化しないという希少な薬草だ。
これは採取先がとても危険で、Sランク冒険者ですら命を落とす可能性があると聞いている……。
コウジさんがこれを取りに行かねばならない程のお方ということよね。
本当に尊きお方なんだわ……。
頑張らないと‼
◇◇◇◇
しかし、尊きお方と言っても公爵家や王族くらいしか頭に浮かばない。
確かに尊きお方たち……。
でも、薬を飲むのが子供だというのならば、私は子供を守る為の錬金術師。
〝子供の為に駄菓子錬金術を使わせてもらう〟という気持ちを持たねばならない?
いいえ、違うわ。
〝子供は子供〟だもの。
落ち着いて考えて私。
〝子供が苦い薬を飲むのが嫌で苦しんでいる〟という事実は変わらないのよ?
それをどうにかできるのは――〝異世界の知識〟が使える〝駄菓子錬金〟しかないわ。苦い薬に涙を流し、きつい思いをしている子供を考えると胸がぎゅっと痛む。
別に錬金術師の薬が悪いわけではない。
治すためには致し方ない部分はあるもの。
でも、それを甘くできる力があるのは私だけ……。
深呼吸をして自分の気持ちを落ち着ける。
イメージの集中。
〝石化解除薬〟は材料は多くて三個分のみ。
失敗はできないのだから、アイテムのイメージだけは強く持たねばならない。
つまり、作るのは尊き身分のお方でも違和感なく食べられる駄菓子‼
それすなわち‼
「宝石のような美しい飴しかないわ‼」
「「宝石のような飴⁉」」
「イメージは固まったわ……。甘くて美味しくて宝石のような見た目……〝アレ〟よ」
黄金色に輝く美しい飴といえば――べっ甲飴しかない。
それを宝石のような姿で形作れば……そう、お婆ちゃんとかお爺ちゃんが好きだったあの飴のような……。
「甘いものは、身も心も救ってくれるはず……よし‼」
気合を入れて目の前の必要な素材に目をやる。
MP消費は〝火傷凍傷回復薬〟より多いと聞く。
だが、作らねばならない。
意を決し、深呼吸して集中する。
【乾燥】に【粉砕】。【祈りの涙】に魔力を込めて【薬効成分抽出】……っ⁉
ものすごくMPを吸い取られていく……っ‼
一気に汗が流れ落ち、床にポタポタと汗が落ちるのが分かる。
このMP消費が大きかろうと、安心して子供の石化を治せるのなら――持っていけば良い‼ 私は負けない‼
【分離】からの【濃縮】ここまでは順調。
問題の【安定化】は、もう心に決まってる。
「安定化……っ‼」
ポタタ……と汗が床に落ちて弾ける。
作り出せ! 黄金のあの輝きを放つ宝石のような飴を。
今の私なら作れるはずよ、あのべっ甲飴を。
キィィイイイン……という甲高い音の後、シュン‼ という音を立てて金ではなく黄金の魔力の輝きが見える。
これにはお婆ちゃんとピエールも立ち上がり私の手を見つめていたけれど、光が落ち着くとコトン……。と机に透明な箱に入った琥珀色の包み紙に入った飴が落ちていた。
大人でも子供でも一口で入る大きさ。でも、舐めるとすると時間はかかりそう。
「出来た……宝石の形のべっ甲飴‼」
「べっ甲飴?」
「ごめんね、一個しか作れなかったの。みんなの分がないわ……」
「いや、本当に……それは」
「確かに〝石化解除薬〟だよ。確かに鑑定したら書いてある」
「ただのべっ甲飴なら今度作るわね。ふう……疲れちゃった」
「アンティ、MPポーション」
「アンジェちゃん、ありがとう」
こうして私は水割りのMPポーションを飲んで一息つく。
持っていかれたMPを考えると、連続は絶対ムリね。
精霊さんたちにも子供用MPポーションを飲ませつつ労っていると、お婆ちゃんが私のもとにヒールを鳴らしてやってきた。
そして椅子に座ってる私の目線になると――。
「後何日くらいで作れる?」
「最低でも〝石化解除薬〟と〝呪い解除薬〟ふたつなら四日は必要かと」
「今日入れて?」
「ええ。三日後には作り終えます」
「ギリギリ間に合うね……実はねアンティ。この薬を必要としているのは、この国の双子の王子と姫君なんだよ」
「そうだと思いました」
お婆ちゃんの目が驚きで見開く。
でも、私は努めて笑顔で接した。
「でも、薬が飲めずに苦しんでいるのには変わりないから、いつも通りの精神で乗り切りました」
「あ、アンティ」
「本当はもっと早く作ってあげたいけどMPの成長が進まなくて……」
「いいんだよ。本当は大人がなんとかしないといけない問題なんだ。でもそれをアンタに……もしかしたらと思って託したんだよ」
「お婆ちゃん」
「もしもに備え、フロージュが……アンタの爺様が動いてくれてる。もし間に合わなくとも、」
「間に合わせるわ。でも、最低でも今日を入れて四日必要なの……」
「分かった。爺様に伝えてくる」
そう言うとお婆ちゃんは部屋を出ていった。
魔道具で連絡を取り合っているお爺ちゃんとお婆ちゃんは、私の作ったアイテムの話をしてくるつもりなんだろう。
机の上に輝く透明の箱に入った琥珀色の飴をピエールに差し出した。
「アイテムボックスで保管してくれる?」
「わ、分かった」
「疲れた――……」
本当に疲れた。
すごいMPの吸われ方。体に酷い怪我を負って血が流れ出るかのような、そんな痛みはないのに気持ち悪さが残る。今度から椅子に座ってやろう。
「アンティ、少し横になれ」
「うん」
「疲れたな」
「うん。でも、明日また頑張って作るよ。できれば今すぐ作りたいくらいだけど、MPが持たないから……」
「無理はするな。それに、素材は少ない……」
「そうだね」
ピエールと語り合い、抱き上げて部屋に連れて行ってもらうと、ベッドに横になって暫しの休息を取る。
バジリスクの呪いを解くには聖水が必要。
でも、聖水なら教会で作っているはずだけど……。
なぜ……〝呪い解除薬〟も必要なんだろう。
謎であるそのことを考えながら、暫し眠りについた私だった。
◇◇◇◇
翌日、同じ要領で今度は椅子に座って〝石化解除薬〟を作り上げた私。
残る二日。私は〝呪い解除薬〟を作ることになる。
理由は教えてもらえなかった。
王都で、何か問題が起きたんだろうか……。
王族を巻き込むような、大きな問題が……。
――その答えは、後々知ることとなる。




