第21話 上級ポーションと、上級MPポーション‼
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一ヶ月、店に出すお薬と、蒼龍の牙さんたちに出すアイテムを作り、その合間に〝火傷凍傷回復薬〟を作り続けた結果――。
私はついに、上級ポーションを作れるまでにスキルが上がった!
それと同時に、お婆ちゃんの名前で街の消防隊に〝火傷凍傷回復薬〟の寄付も行った。これにより、大変感謝されたのは言うまでもない。
「ロバニアータ様は、新しい錬金術を編み出したのですか‼」
「そこは企業秘密さ。今は言えないね」
「「「「おおおお……」」」」
「今後もしっかりと、この街のために消防隊員の皆には働きを期待してるよ」
そう言って颯爽と去っていったお婆ちゃん……格好良かったなぁ。
アイテム作ったのは私だけど。
でも、お婆ちゃんとピエール曰く「まだお前のことは隠さないといけない」と言っていた。なぜだろうかと思い問いかけてみると――。
「アンタは唯一無二の錬金術である〝駄菓子錬金術〟を使えるんだ。その稀有たるや、異常なものなんだよ。学会もお前さんを隅々まで調べようとするだろう。それを阻止するためには……何よりも権力がいる」
「権力?」
「まだその時じゃない……。だが近い内に……恐らく」
「お婆ちゃん?」
「アンタはどんどんスキルを上げて、少なくとも〝ある薬の調合〟に成功して欲しい」
「その薬って?」
「それはね――……」
その薬は〝石化解除薬〟と〝呪い解除薬〟だった。
今の私ではまだ作れないレベルの錬金術のアイテムだ。
けれど、それらも上級ポーションと上級MPポーションを作れるようになって、それでスキル上げができれば作れるようになるレベルではある。
そのためにも私は今、上級ポーションに挑んでいる最中だ。
上級ポーションは、蒼龍の牙の方々からも欲しいと言われていたアイテム。
無論上級MPポーションもだけど、やっと今から上級ポーションでスキル上げができるようになった。
――何事も毎日コツコツ積み重ね。
とても大事なことだと、錬金術をしていれば感じることだった。
「安定化……っと。出来た」
「今日も精が出るねぇ」
「上級ポーション作れるようになったから、出来るだけ早く錬金術のレベルを上げたいの。なんとなく……急がないといけない気がして」
理由はわからない。
なぜ自分でも焦っているのか理解ができない。
でも、確かに急かされているかのように私は上級ポーションを作りスキル上げを頑張っているのは確か。
恐らく……だけど、私の気を急かしているのは女神様じゃないだろうかと思う。
この国に危機が迫っているんじゃないだろうか?
だとしたら急がないと……。
「まぁまぁ、そう焦りなさんな」
「お婆ちゃん……」
「しかし驚いたねぇ。まさか上級ポーションが」
「ええ、飲んだことのない味でしたね。酔いはしない……けど甘いお酒のような」
「ははは……」
作った上級ポーションは、所謂ノンアルコールのカクテルみたいな味だったのだ。甘い、でも風味的にお酒を感じる。でも酔わない。謎の飲み物だと認識された。
家で飲んでいたエールよりも美味しくて、しかも悪酔いすらしないのに酔っ払う形跡もないともなれば……。
お婆ちゃんは一日一本は仕事中飲みながらアイテムを作り……。
ピエールもまた、仕事終わりに一本買って、食後に飲みつつしんみりしていた。
そのため、蒼龍の牙の方からも、上級ポーションの納品を多めにという依頼まで来るほどで、私は必死に作り続けた。
それでも、依頼主である蒼龍の牙の方々は、私が作れる範囲をまるで把握しているかのごとく、作れるギリギリを攻めてくる始末。
かくして、私のスキルはガンガン上がっていったのであった。
まぁ、上級ポーションは子供は飲まないから、ノンアルコールでも全然いいよね。
大人用もたまにはあっていいと思うんだ。
そう、たまにはね?
「でも、お婆ちゃん。せめて一日二本までにして頂戴?」
「すまないねぇ……本当に美味しくてねぇ」
「そんな本当に嬉しそうな顔で言われたら、罪悪感わくじゃない!」
「でも、エールを大量買いしていたのが嘘のように、アンティの作る上級ポーションにハマりましたね師匠」
「美味しすぎるのがいけないよ~? 美味しすぎるのは罪だよ~?」
「お婆ちゃんも見ていた通り、上級ポーションですよ。薬草見てたでしょ?」
「あの薬草がこーんな最高のフルーティーなお酒じゃないのにお酒になるなんて……」
「不思議ですよねぇ。本当にフルーティーなお酒のようなのに、アルコールを一切感じないなんて」
「戦闘中に酔っ払ってどうすのよ……」
「「それはそう」」
そんな話題で盛り上がりながら、私は現在ひたすら上級ポーション作りに励んでいる。アンジェちゃんも薬草を覚えたらしく、持ってきてくれるのも早い。
まさに流れ作業のごとく上級ポーションが出来上がっていった。
◇◇◇◇
MP切れが起きる直前まで使い切り、子供用MPポーションを飲むことで、MPは飛躍的に増えた。
MP切れを起こす前は息切れのようになるので分かりやすい。
そこで子供用MPポーションを投げ込んで身体を休ませるというのは、MPを増やす面では良かったように思う。
そろそろ〝上級MPポーション〟が作れるレベルだ。
明日には作れるようになりそうで良かった……。
「明日はついに、上級MPポーションに挑むよ」
「楽しみだねぇ」
「どんな味に仕上がるんでしょうね」
「アタシ達からして見れば、中級MPポーションもいいけど……やっぱり上級が飲みたいからねぇ」
「そうですね」
きっとまた、お酒のようでお酒じゃない〝ナニカ〟ができそうな気がするけど……。それを狙って作れるとしたら……ああ、作れるか。
野菜ジュースのカクテルって幾つかあるものね。
ただ、私が知ってるのは〝ブラッディ・メアリー〟のノンアルコール。
お酒入りの有名な呼び名ならこれだろうなと思う。私が好きだった飲み物だ。
知ってる味しか作れないから、多分上級MPポーションはそれになるんだろうな。
――そもそも、戦闘中に酔っ払ってられないものね‼
なので、飲んでもらおうと思う。
翌朝……私はついに〝上級MPポーション〟に挑む。
材料はいつもどおり目の前にある薬草群。
これが何故か変わるのだから〝駄菓子錬金術〟は面白い。
「さてと……イメージはアレね」
〝ブラッディ・メアリー〟のノンアルコールをイメージを強く持って作り始める。
すでに沢山の上級ポーションを作った身としては、これくらいならMPを持っていかれる感覚は慣れている。
「安定化……」
シュインシュイン……ポン‼ という、なんともワインのボトルを開けるかのような音が聞こえ、瓶に入って出てきた真っ赤な恐らく〝ブラッディ・メアリー〟のノンアルコールができたはずだ。
「真っ赤だね」
「真っ赤ですね」
「お酒の味はしないと思うわ。でも、飲んだらお酒かなって思う感じだと思う」
「へぇ……。試してみようかね」
「俺も飲ませてもらいます」
「精霊さんたちはどうする?」
『僕達甘いのが良いー』
『睡眠回復薬で我慢してあげるー‼』
ああ、金平糖ね。
精霊さん達はアレが好きだなぁ。
そんな事を思いつつ、ひとつ商品棚から取り出し、精霊さんたちに与えていく。
喜び勇んで食べる姿は可愛らしい。
すると――。
「うっま‼」
「美味しい……っ‼」
「え? アタシの知ってるトマトとは味が違うよ? 酸味や苦みがないよ?」
「そのために作った上級MPポーションだからね」
「極上のワインに匹敵する味だぞ?」
「それは良かったわ」
「「良くない」」
「なんで?」
「こんな、こんなの飲んだら……病みつきになっちまうじゃないかい⁉」
「すでに師匠は病みつきになりそうな顔をしてますが」
「アンタもだよ。これは美味しいねぇ……どんどん作っておくれ‼」
どうやらお気に召したらしい。
良かった……というべきか、なんというべきか。
取り敢えずどんどん作っていくことにする。
「アンジェちゃん、薬草庫から」
「じょうきゅうMPポーションのやくそうおぼえた。とってくる‼」
こうして二人三脚での〝上級MPポーション〟作りがスタートした。
私だって飲みたい‼
でも、お子様だから飲めない‼
大人になったら飲んでやる――‼
そんな心の叫びを無視するかのように、お婆ちゃんとピエールは開けて飲んでいく。
ううう……羨ましい。
「最高の至福の時間……っていうのは、こういう事を言うんだろうねぇ」
「美味しいですね。MPも一気に回復しますし」
「こりゃ~MP持ちのジョブは嬉しいだろうねぇ」
「嬉しいでしょうねぇ」
「もう!そっちは傷薬とか依頼来てるでしょ!頑張って作ってよね!」
「了解だよ」
「手は抜きません」
むう……そういうと本当に手を抜かないんだよな。
とはいえ。本当に羨ましい。
こっそり飲みたくても、子供用ではないので飲めない。
子供が普通のポーションや上級ポーションを飲むと、悪酔いするのだ。
だから子供は飲めないとされている。
悪酔いしても飲みたい……と思わなくはないけれど……。
倫理的によろしくないのだ‼
大人になった時、三人で乾杯しよう……‼
それを目標に頑張るぞ‼
そこから一ヶ月――私は〝上級MPポーション〟を作り続けた。
無論上級ポーションも作っていたり、他のアイテムも作っていたけれど、基本は上級MPポーション。
蒼龍の牙から届く依頼の品をひたすら作る時間だ。
後は、アニーダ薬草店からも依頼が届く。
その度に作ってスキルを上げていったのは言うまでもない。
「俺がアンティの年齢の時、あそこまでMPなかったですね」
「あの子は顧客が二件ついてるからね……。効率よくMPを上げないと間に合わないのさ」
「〝駄菓子錬金術師〟恐るべし……」
「ううう……たまには息抜きしたいよう」
「でも依頼の納品の締め切りが~~じゃろう?」
「そうなのよ――‼」
『頑張れアンティ‼』
『負けるな、アンティ‼』
『僕らも、睡眠回復薬がついてる‼』
『甘い報酬のためにがんばるぞー』
「私もご褒美がほしい――‼」
ずっと家に缶詰は駄目だわ!
心の健康的にもよろしくない‼
気晴らしがしたい。気晴らしがしたいけど……むう、納品の締切が……。
「はぁ……」
「まぁ、確かにずっと家の中にいるのもアンティには酷だろうねぇ」
「買い物も最近は行けてないですからね」
「たまには買い物デートでも行ってきてあげたらどうだい?」
「気晴らしになるように週一は買い物デートするか?」
「するうう‼」
ヘロヘロになりつつ叫ぶと、ピエールがくすりと笑い、「なら今度の土曜はデートにいこう」と言ってくれたのでやる気が出た。
土曜は三日後……。
それまでひたすら頑張るぞ‼
「絶対だからね‼ご褒美くださいね⁉」
「アンタ達、してもキスまでだよ」
「キッ、な、倫理的に反します‼」
「ううう……ピエールのその真面目なところ……好きぃ!」
惚れた弱みというべきか、気づいたら惚れまくってたと言うべきか。
彼の倫理的価値観と私の価値観は合致するので助かる。
どんどん作って納品に間に合うように頑張ろう!
そう思えた瞬間でもあった。
そして待ちに待った土曜――。
「お婆ちゃんいってきまーす」
「行ってきます」
「あいよ、デート楽しんでおいで」
街歩きデート。スタートです‼
その通りの先で、私をじっと観察する赤髪の冒険者の影に、まだ誰も気づいてはいなかった。




