第2話 兄弟子登場⁉ 私の錬金術を否定しやがりましたね⁉
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あれからも、ひとつだけどポーションを作ることが出来た。
意外と「子供用粉ポーション」が売れまくって、作るのに時間が掛かっていたけれど、コツを掴んで早くなったのだ。
おかげで今は、さくさく作れるようになった! 私天才!
甘い子供用ポーションは子どもに大人気で、母親や父親が「ご褒美に」と言って買ってくれたり、「一日一回だけ」と決めて買っていかれる。
そんな様子を見るのも、嬉しかった。
それに、甘いお薬は精霊たちの大好物になって、我先にと手伝いを申し出てくれる子が多い。
小さな精霊たちは『手伝う!』『今日は何を作るの⁉』と嬉しそうで、私も頑張って励んでいるのだ!
その為、店兼作業部屋はいつもお客様や子どもさんが沢山訪れる様になった。
お婆ちゃんは苦笑いしながら「はぁ……余計な騒ぎを呼んで」と言ってるけれど、売上は倍増したから文句が言えない様子。
――お客さんが途切れたら私も錬金術に挑戦だ!
『アンティ、今日は何を作るの?』
「この前一本だけ作った大人用のポーションがあるでしょう? あれをもっと作れるように頑張るの」
『アンティは偉いわね~』
『こつこつが大事じゃのう』
『俺も手伝うよ!』
「ありがとうみんな!」
こうして、今回は「ポーション」を作り始める。
作り方はお婆ちゃんの使うポーション素材と同じ。
【乾燥】→【粉砕】→【祈りの涙】→【薬効成分抽出】→【分離】→【濃縮】→ラストの【安定化】してアイテム完成の手順は変わらないのだ!
「さてと、では皆さん、よろしくお願いします!」
『了解したわ!』
『ワシに任せろ』
こうして、錬金術の手順に合わせて、精霊たちが手伝ってくれる。
手順は間違わず、丁寧に作れている。
最後の祈りで、「大人の人も美味しく飲めるポーションになりましょうに」と願いを込めてポーション瓶にアイテムを注ぐイメージをして完成!
シュパン‼ という心地よい音と共に【安定化】まで終わらせて、黄金の光が消えると目の前には――【オレンジ色】したポーションが。
「昨日は薄い黄色でりんご味。今日はなんじゃ?」
「多分……オレンジだと思う」
「どれ、飲んでみようかのう」
「私はまだ大人のは飲めないから、お婆ちゃんお願いね。あとは精霊さんたちもお願いね?」
『任せて!』
『楽しみだわ!』
私はまだ成人してないから大人用は飲めない。
ほんの少し、手にとって舐める程度なら問題はないけど。
この異世界では十六歳で成人として認められる。
早く大人になりたいなぁ。
お婆ちゃんと精霊さんたちがコップに分け合い「オレンジ色のポーション」を飲む。お婆ちゃんは渋い顔をしていたけれど、精霊さん達はきゃっきゃと喜んでいた。
「間違いなく……オレンジジュースだね。しかも回復もしっかりしてる」
「良かった~!」
「アンティ」
「なに?」
「もう一度聞くが、本当に女神様の加護持ちじゃないだろうね?」
「女神様の加護って、王都に行かないとわからないんでしょ?」
「そりゃそうだが……」
「なら、王都にいってから神殿で調べればいいじゃん」
「やれやれ……。アンタのその力は、隠しても隠しようがないんじゃよ。恐らく女神様の加護持ち……。しかもアタシの勘だが、固有レアスキルだね?」
ギクリ。お婆ちゃん鋭い。
でも、私は言わない。女神様に言っちゃ駄目ってまだ言われてるから。
「どうなんだろう? わからない」
「まぁ、そうだろうねぇ。女神の加護持ちな上に固有レアスキル持ちだとしたら、錬金術教会も黙っていないだろうし、何よりお偉いさんたちが黙ってないよ。まぁ、アタシの孫ならさもありなん……ってところかのう?」
「さすがお婆ちゃん、頼りになる~!」
「はっはっは! 伊達に〝世界に名を馳せる大錬金術師〟……なんて言われちゃいないよ。それに、アタシも固有レアスキル持ちだからね」
「そうなんだ‼」
「秘密だよ?」
「うん!」
どんな固有レアスキルだろう?
やっぱり〝年齢秘密♡〟っていうくらいだから、年齢を操れるとか、美貌を操れるとか、そんな感じなのかな? ワクワクしちゃう!
「それって、若さの秘密と関係ある?」
「若さの秘密とは関係ないねぇ。アタシが美人だって? 当たり前じゃないか。アタシはいつだって美人なんじゃよ」
「喋り方がお婆ちゃんだけどね……」
「ははは! それくらいババアしてないと、どこぞの冒険者だなんだのが、うるさくてねぇ。男は美人には弱いもんじゃよ」
さすがお婆ちゃん……貫禄ある色気ですね!
出るとこ出て引っ込む所は引っ込んで……。
私もそんなお婆ちゃんみたいな美女になれるだろうか……。
「アンティはアタシの若い頃そっくりじゃよ。アンタも大きくなればアタシみたいな色気むんむんになるさ」
「うう……色気むんむんはいらないかな……。それより、このポーションは売りに出してみてもいいの?」
「ああ、個数用意できるようになれば売りに出していい」
「やった‼」
思わず飛び跳ねて喜ぶ私だったけれど、次の瞬間お婆ちゃんは爆弾を落とした。
それは――信じられないことを口にしたのだ。
「それから、今日からひとり、一緒に住む錬金術師が増えるよ」
「え⁉ 今日から?」
「そう、成人したてのアタシの元弟子……アンタでいう兄弟子さね」
「兄弟子……」
「ピエール・ドルガン。若き天才錬金術師として名を馳せている」
「な、なんでそんな人が……それで錬金釜を新しくひとつ用意してたのね!」
「いいじゃないかい。部屋は余ってるんだから。仲良くしろとは言わない、問題を起こすんじゃないよ。アンタはなんだかんだいっても可愛らしい美少女だ。ピエールもうっかり手を出さんとも限らんからねぇ」
「そういうなら断ってよ~~‼」
「誰がそんなちんちくりんに手を出しますか」
突然聞こえた声に猫のようにビクリとすると、後ろを振り返り……ドアが開いていた。そこには金髪碧眼の美青年が立っていて……ローブを見ると錬金術師だ。
「おや、来ていたのかいピエール」
「お久しぶりでございます師匠。……と、妹弟子」
「アンティですー!」
「なんでもいい。それより、この〝子供用粉ポーション〟とは? 初めて見ましたが」
「そりゃアンティが作った、子供用のポーションの改良版だよ。人気が高いのさ」
「飲んでみても?」
「か、かまわないけど」
「頂きましょう」
そう言うと早い。
革靴のいい音を響かせて作業場に入ってくると、紙コップを鞄から取り出してウンディーネに水を出してもらい、粉ポーションを混ぜて飲む。
途端、カッと目を見開いて「これは……甘い」と呟いている。
「アンティの作る錬金術アイテムは、何でもかんでも甘くなるんじゃよ」
「うう……。だって、苦い薬より甘い方が子供は喜ぶじゃない」
「フン、妹弟子の薬は……ただの駄菓子だな。薬じゃない。薬は苦いものだ。それを受け入れてこそ強くなれる。甘やかしてどうする」
「は⁉」
今なんと、おっしゃいましたか⁉
私の作った錬金術アイテムを〝薬じゃない〟と、ほざきやがりましたか⁉
「むきーー‼ 兄弟子とはいえ我慢ならない! 薬じゃないって何よーー‼」
「煩い、貴様はサルか? 薬じゃないっていったら薬じゃない。甘いのは邪道だ」
「仕方ないじゃない! 何作っても甘くなるんだから!」
「お前、錬金術師に向いてないんじゃないか? 菓子屋にでも転職しろ」
「なんですってーー‼」
「えええい‼ お前たち最初から喧嘩するんじゃないよ‼」
「うう……だってお婆ちゃん……。私の錬金術……普通と違うからやっぱり……」
ボロボロ涙を零し始めると、さすがの兄弟子もギョッとしたらしく、「いや、あの、その」と慌てていたけれど知らない‼
「あ、アンティ、言い過ぎ……」
「知らない‼ 兄弟子なんていらない! 大嫌い‼」
「あ……」
「アンティ、待ちな‼」
そう叫ぶとお婆ちゃんの静止も振り切り自分の部屋に駆け足で戻っていった……。
精霊たちはワラワラとついてきたけど――。
『ピエール、最低じゃなお主』
『アンティの作るお薬は、親と子の救世主になるお薬なのよ?』
『それも分からず否定して……ダッサ』
「うぐっ」
『アンティ、待って、ボクも、いく!』
皆が兄弟子に一言文句を言ってついてきてくれた……嬉しい。
そんなに私の作る錬金術は……普通とは違うけど、駄目なのかな……。
うう、悲しい。
でも、頑張って錬金術師になったんだもの。
諦めないけど……でも悲しい……。
胸がつぶれそうだった……。
『アンティ泣かないで?』
『可哀そうなアンティ……』
『涙はしょっぱいや。甘くないんだね』
『シルフ……。アンティが出すものは何でも甘いわけではないぞ』
「ふ、ふははっ。涙はしょっぱいよ……。でもありがとう……少し元気出た」
布団から顔を出してやっと微笑むと、下からお婆ちゃんが兄弟子を叱っている声が聞こえる。
バカタレの兄弟子、しっかり叱られろ‼
それにしても……。
そう思い自分の小さな両手を見る。私の作り出す錬金術アイテムは、薬じゃない……んだろうか?
ううん。それは違う。
私が作りたい錬金術アイテムは、普通と違うのは仕方ないこと。
でも、だからこそ――私は、子育てに、子供の病気に悩む親に寄り添える、そんな錬金術アイテムを作れるんだ。
「そうよ! 私の錬金アイテムは悩める親と、苦い薬で苦しむ子供を救うためのもの! 何と言われようと、私は親と子供が幸せになるための錬金術をするわ!」
『その意気よアンティ!』
『ワシらも応援するぞい』
『頑張れ、アンティ!』
「うん‼」
――例え兄弟子に〝駄菓子だ〟〝薬じゃない〟って言われようと、私は止まらない。
そうよ、止まらなくていいの。
私は私の追い求める錬金術師の姿がある。
前世の私は、駄菓子で子どもたちを笑顔にしてきた。
今世の私は、駄菓子味の錬金術で作る薬で、子どもたちを笑顔にするの!
例え否定されても止まらない! 止まれない!
「私は私の、親と子の救世主になるお薬を作ってみせるわ‼」




