第19話 初めての王都
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王都の町並みは、凄いものだった。
まさに都会。住んでた街も王都から近いのでそれなりに都会な方だったけど、王都と比べると断然違う。
「これが王都……」
「まずは俺の工房を引き払うところからだな」
「俺も着いてってやるよ、暇だしな。アンティ嬢みたいな可愛い子がいると良からぬ輩も湧くだろ」
「助かる」
良からぬ輩ってなに⁉
そんな人達には遭遇したくないんですが‼
ビクビクしつつ錬金術師のローブに身を包み馬車の外に出る。
馬車は帰るときまで貸し切っているため、王都の中でも使えるのだ。
王都の道広いなぁ。
たどり着いた工房はこじんまりとしていて、鍵を開けて中に入ると、ピエールの錬金術用の道具がたくさんあった。
それらをひとつずつアイテムボックスに入れていく。
その作業を手伝っていると、奥から人が出てきた。
「あれ、ピエールおかえりぃ」
「ただいまユナン」
「あれー?なんで工房の中、綺麗にしてるの?」
「ああ、俺は今度から隣町を拠点にするんでな」
「え、私も無論ついて行っていいよね?」
「お前はただの幼馴染で転がり込んできた居候だろ。仕方なく置いていたが、この工房は今日で引き払うぞ」
「え⁉」
どうやらピエールの幼馴染さんらしい。
女性だけど、綺麗……という訳ではない。
なんだか、男遊びが激しそうな、ピエールの嫌いな女性タイプだと感じた。
「なら私も住ませてよ!」
「無理だ。俺は師匠の家に婿に入った」
「婿⁉」
「こちらが妻だ」
「初めまして~」
「はぁ⁉ガキじゃん‼アンタ、アタシに興味がないと思ってたらそっち系だったの⁉」
「お前に誰が興味を持つか。汚らしい」
そこまで言われたユナンさんは呆然としている。
気があるとでも思ってたのかな?
ピエールの好みからは真逆のタイプに見えるけど……。
「他に男は腐るほどいるだろ。そっちに行け」
「だって、ここの方が落ち着くし一人部屋もらえたし……」
「それも終わりだ。今日引き払う」
「ウソでしょ~~‼」
「ピエール、こっちの荷物まとめておいたぜ」
「助かる」
ユナンさんを無視して男性陣はちゃっちゃと片付けていく。
コウジさんも無視してるって事は、あまりいい噂を聞かない女性なのかもしれない。
関わらないでおこうと思いつつアイテム整理をしていると――。
「ねぇお嬢さん? 私も住んでいいわよね?」
「私の家ではないので」
「でもでも、お家の人に頼んだりとか?」
「無理ですね。お婆ちゃん、貴女が来たら追い出すと思います」
「ちょっと何よ、こんなに頼んでるのに」
「頼む相手を間違うな」
「頭足りねぇ奴っているよな。さっさと引き払おうぜ」
「なによ馬鹿‼ 私というものがいながら、」
「近所の人に聞いても、俺の苦労をねぎらってくれるほどお前の評判悪いもんな。追い出さないのかと何度も聞かれて、奴は居着いて出ていかないから困ってると散々街の人には話してあるからな」
――やっぱりね。
ピエールの好みじゃないし、だとしたら無理を言って押し通して住んでたのか……。
家賃払ってたのかな? あの様子だと払ってなさそうだけど。
「ね――困るのよ。住むところが無くなったらアタシ」
「人に寄生するのも終わりだな。自分の足で生きていけ」
「そうそう、このピエールの嫁さんだって自分で稼いで仕事してるってのに」
「……もういい。出てく」
「そうしてくれ」
そう言うと女性は荷物をまとめに行ったのだろう。
片付けが終わる頃、女性も出てきて挨拶もせず去っていった。
お世話になってた人に挨拶もしないなんて……ろくな人生歩まなさそう。
◇◇◇◇
「良かったの?ユナンさんって人」
「正直迷惑被ってたんだ。出ていってくれてホッとしてる」
「そうなんだ」
「嬢ちゃん、ユナンはな……娼婦なんだよ」
「なっ⁉」
驚き声を上げてピエールを見ると「俺とは一切関係はない」と言ったのでホッとした。そりゃ関係があったら、お婆ちゃんが調べ尽くして結婚なんて許さないか。
「後は大家にここを使っていた契約書の解約をして終わりだな」
「家賃はどうしてたんだ?」
「前払いで渡しておいた。今月一度帰る予定だったから丁度いい」
その足で馬車に乗り込み住宅地に入ると、大きな屋敷の前に止まりピエールだけが出ていく。私には中でコウジさんと待っているようにとのことだった。
それから十分後、ピエールは戻ってきて、契約書の解約が終わったと教えてくれた。
「結婚したから嫁の婿に入ったって言ったら驚かれてな。相手はって聞かれたから、ロバニアータ師匠の孫だって言ったら納得されたよ」
「流石お婆ちゃん……名が通ってるんだね」
「この王都でロバニアータの名を知らない奴がいたらモグリだ。彫刻も幾つか建ってる人だぞ」
「彫刻まで……」
お婆ちゃんの偉大さを改めて知った気分だ。
その後、ノンストップで教会に向かい、私の加護鑑定とスキル鑑定を行う。
と言っても、持ってきてもらった『女神のご加護のある水晶』に手を乗せるだけなんだけど……。この水晶は、教会で死ぬまで保管され、身分証明となるらしい。
早速触ってみると、とんでもない金の輝きが発せられ、光が収まると神官さんも呆然としていた。
「お、おわり……ました?」
「はっ!終わりました……。実に貴女は女神様に愛されているようだ……」
「そう、ですね?」
「恐らくこちらで調べるのに一ヶ月少しは掛かるでしょう。終わりましたらお伝えいたしますので、再度教会に足を運んでください」
「わかりました。ありがとうございます」
「それと、結婚しているんです。指輪を買いたいんですが」
「ご案内します」
――異世界転生人ってバレなきゃいいけど。
そんなドキドキ感を味わいつつ、夫婦用の指輪を購入してお互いの薬指につける。
なんだか別の意味でどきどきしたけど、これが結婚という意味かと感動した。
そんな事を祈りつつ私達はやるべきことを全てやって、後は一泊して帰るだけだ。
コウジさんのおすすめ宿に泊まるけれど、夫婦部屋と一人部屋しか空いていないそうで――。
「いいじゃん、お前ら夫婦だし、夫婦部屋使えよ」
「ばっ‼」
「そうね、それでいいと思うわ」
「なっ‼」
慌てるピエールを他所に私達は鍵をもらい、部屋へと入っていく。
何故かピエールは顔を真っ赤にして部屋の隅っこにいたけれど、何を考えているのやら……。
「神聖契約」
「そうだった‼」
「それがあるから安心ですね?」
「そう……でありたい」
「神聖契約では、どこまでしていいってなってるの?」
「シテイイって……その……キスまでならとロバニアータ師匠からは……」
「ああ、そこまではいいのね」
「お前……もっと恥じらいを‼」
「私もキスまでならいいと思うわ。その先は駄目だけど」
「そう……なのか?」
予想外みたいな顔されてるけど……私、中の人は貴方よりも歳上なんですよ。
年齢は秘密、女性は何時までも二十歳でいたいんです。
なので、寛大な心を持ってピエールには……ね?
「だから、あまりガチガチにならなくていいと思うよ? ただ、十二歳に手を出すのは流石に厳しいと思うから、もう少し大きくなるまで待ってくれる? 倫理的な問題もあるし」
「わかった。俺も実は倫理的な問題があると……思ってたんだ。君を好きだという気持ちに偽りはない‼ただ、君の年齢が幼いから……流石にと」
「私も同じ考えだよ。大人になったら沢山しようね?」
「たく……っ! そ、そうだな‼」
こうして、お互いが夫婦になった事で問題だったと思われる〝倫理的問題〟は片付いた。流石に社会的に見ても……ね。
我慢してもらいましょう‼
こうしてお互い軽いシャワーが付いていたので、身ぎれいにしてから同じベッドで眠りにつき、翌朝気持ちよく目が覚めて帰宅することになった。
――ところがである。
今から馬車でお婆ちゃんの待つ街に帰ろうとしていた時のことだった。
「ピエール‼本当に私を捨てていくの‼」
現れたのはユナンさんだ。
捨てるも何も、貴女とは何も関係ないはずだけどなぁ。
「ピエールどうするんだ」
「決まってるだろ。置いていく」
「ちょっと‼少しくらい家主に頭を下げるとかなんとかあるでしょ‼」
「まず貴様は人に寄生しないと生きていけないのをなんとかしろ。子供でもあるまいし、見ていて情けない」
「酷い……」
「言っておくが、俺の師匠はロバニアータ師匠だぞ?お前が逃げ散らかしてロバニアータ師匠の前から消えたのは……自覚あるだろうな?」
「え、お婆ちゃんのお弟子さんだったの?」
「一週間だけな」
「それじゃ姉弟子とも言えないわ」
「な……」
私にそう言われるとは思わなかったらしい。
そもそも、錬金術師の卵として来ていたのに、何故ここまで落ちぶれたのか……。
思わず呆れきってジト目で見つめると、ユナンはたじろぎつつ目を泳がせた。
「そう難しい教育はされていない。MPを増やすために蒸留水を作る作業をし続けていただけだ。なのにコイツは自分を過大評価して……ひとりで独り立ちしてみせるとか豪語して出ていったが……」
「娼婦に転げ落ちていったって訳だな」
「馬鹿な人ね」
「う、煩い‼」
「性根が腐ってる人をお婆ちゃんは育てないし、一緒にも住まないわ。悪いけど貴女とはここでお別れですね」
笑顔で告げるとユナンさんは顔を引きつかせながら「アンタもアタシを見捨てるのね⁉」とキレてきた。
見捨てるも何も、昨日知り合ったばかりですけど?
それも考えられない頭をしていらっしゃるらしい。
私達が困っているところに巡回中の兵士さんがやってきて、ギャンギャン騒ぐユナンさんを掴んで驚くユナンさん。
そこで、ピエールがロバニアータの弟子であることを告げ、「この女性がしつこく自分を一緒に住ませろと言うので困っている」事を告げると、ユナンさんは「私を捨てる気⁉」とまた理由のわからない事を言い出す。
「俺と彼女の間には何もありません。正直困っています」
「なるほど。付き纏いかもしれませんな」
「連れていきましょう」
「離しやがれ‼畜生‼ロバニアータ糞婆なんて死んじまえ‼」
「国家反逆罪だ。すぐ牢に入れろ」
「いやあああ‼」
そう言って連れて行かれるユナン。
国家反逆罪とはなんだろう?
そう思っていると、この国では、お婆ちゃんを悪く言う者は厳しく取り締まる事になっているらしい。
何でも国王陛下を助けたお婆ちゃんの功績はとても大きいのだとか。
飄々としているお婆ちゃんだけど、偉人なんだなぁ……。
何時もニコニコして「困ったのう」と笑っているお婆ちゃんが想像された。
「アンティ、言っておくが……」
「なに?」
「ロバニアータ師匠は、お前の前ではあんな感じだが、王都に入った途端、偉人に相応しい姿に変わるからな?」
「そ、そうなんだ」
「まあ、孫の前でくらいは可愛いお婆ちゃんでいたいだろうよ」
「それもそうだな」
――そういうものなのかな?
――そうだといいな‼
難しく考えるのはやめよう、お婆ちゃんはお婆ちゃん。
今はそれでいいわ。
「さて、ユナンの事も片付いたし帰ろう」
「だな。あのまま着いてきてもロバニアータさんを前にした途端逃げ散らかすだけだと思うしな」
「言えてるな」
「一体何があったんだろう……」
そんな事を考えつつ馬車に乗り込み、私達は住んでいる街まで帰っていったのであった。ほんの一泊二日程度の小旅行だったけれど、お婆ちゃんは寂しかったようで。
帰宅してからずっと私を抱きしめて過ごしつつ、私は錬金術に励んだのは言うまでもない訳だけど――。
「そういえば、蒼龍の牙の方々のアイテム作らなきゃ」
「ああ、そうだね。アタシも王都に送る傷薬作らないとだ」
――こうしていつもの日常を取り戻しつつも、後日王都では問題が発生することになる。




