第16話 私にあった、まさかの落とし穴と、火傷凍傷回復薬〟完成‼
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魂がこの世界とは違う。
それを理解した上で、私を受け入れてくれる家族と、婚約者であるピエールに感謝しながら私はついに――〝火傷凍傷回復薬〟に挑む。
まずは、回復系で言えば一段落といったアイテムだ。
無論、傷薬とか色々まだあるけれど、駄菓子では作れないので難しいのだ。
何故なら……まさに諸刃の刃だからだ。
駄菓子で作れるアイテムは作れるけど、傷薬とかは作れないという弊害があったのだ。これにはお婆ちゃんもピエールも驚いていた。
ゆえに、傷薬などの回復アイテムはピエールが。私は口に含む回復アイテムを。
そういう流れに自然となるのは必然で。
「適材適所だね」
「そうそう、適材適所だ」
「うぐう……。まさか塗り薬系が作れないなんて……思ってもなかった……」
「まぁ、そこは俺がなんとかするから」
「ごめんねピエール……」
「飲み薬は頑張ってくれ」
「はい……」
「とはいえ、アンティはまだヒヨコになった程度じゃからのう。わしも何かと手伝うから、全員でこの【錬金術工房クローバー】を盛り上げていこうではないか」
「そうですね」
「頑張ります」
お婆ちゃんの店を潰すわけにはいかない。
頑張らねば‼
私に出来ることと言えば、本当に口に入れるアイテムを作ることだけになったけれど、それらを色々進めるためにもまだまだ頑張らないといけない。
まだ〝火傷凍傷回復薬〟も残っているし、〝上級ポーション〟に〝上級MPポーション〟というのも残っている。
これらは一般市民でも買うのだ。
せめて〝上級ポーション〟に〝上級MPポーション〟が作れるようになれば、私も一応一人前として認められるようになる。
――無論そこまでは長いけど……。
「アンティは一部のアイテムを飛ばしてスキルを上げていくことになるじゃろう。その上で、自分のMPと相談しながら、そしてスキルレベルと相談しながら、アイテムを作っていくとええぞ」
「そうしてみる」
「でも、今年ももうすぐ終わりですね」
「そうじゃな……受験シーズンは年末に行われるからのう。今年も残るところ、あと一週間というところじゃな」
「せめて今日中に〝火傷凍傷回復薬〟は成功させて、年越しを迎えたいわね」
年越しはいつも両親と共に過ごしてきた。
今年からはお婆ちゃんにピエールといった面子で、今後は続いていくんだろう。
錬金術師が本当に独り立ちできるようになるのは、基本的に五年は掛かると言われている。だからこそ、卵になるのが早い者たちが多いのだ。
私も成人する頃には独り立ちという感じになるだろうけど、そうなる前に独り立ちするものもいる。
基本的に総数は多くないけど、師匠である錬金術師や、兄弟子、姉弟子と結婚する者たちは独り立ちが早い。
夫婦となって自分たちの工房を持つからだ。
そういえば……。
「ピエールの工房は今どうなってるの?」
「今は無人だ。掃除は頼んであるから心配はない」
「そうなんだ」
「そもそも、俺はお前のところに婿に来るからな。来年王都に行った際には、工房を畳んでくるつもりだ」
「え、そうなの?」
「アタシ達と一緒の工房で生活することを……決めたんだとよ」
「え⁉」
「師匠が言ったんですよ?今更アンティを連れて王都に戻るのは許さんって」
「ば、それは秘密っていっただろ‼」
「あっ‼」
そう言われると嬉しい‼
思わずお婆ちゃんに抱きつき「ありがとうお婆ちゃん‼」と告げると「祖母ってのは孫には甘いもんじゃよ」と呆れられた。
うん、でも見た目は全然年取ってないけどねお婆ちゃん。
本当に、お婆ちゃんの固有スキルは年齢を操るとかじゃないんですかね?
「さて、来年にはピエールもこの内で本格始動だ。アンティ、アンタの気持ち次第で、いつでも婿にとりな」
「え⁉」
「婚約者同士だろう? 師匠が許可を出したり、やむを得ない事情が出た場合、さっさと結婚するのが錬金術だよ。特にアンタの場合、他の錬金ギルドから狙われても可笑しくないスキルだ。早く結婚して身を固めて、夫という立場に守られたほうがいい」
「そうだな。この国では、夫婦を引き離す事は法律でも禁止されている。夫がいるのに、他所への引き抜きはご法度。夫婦揃って……なんて甘い言葉もあるが、特権として夫のほうが妻より多少言葉の重さがあるため、夫が駄目だと言えば相手は引き下がらないといけない」
「そういう決まりがあったのね」
「ああ、だから、ここぞという時に結婚してしまうのもありだ」
「その時はお願いするわ。まだ身の安全は確保されてる方だと思いたいし」
確かに、徐々にではあるけど、私の甘い駄菓子錬金術は少しずつ広がってきている。
駄菓子錬金術は、異世界の魂を持つ私しか作ることができない固有レアスキルだ。
それを狙う者が現れても……可笑しくはない。
あれこれ狙われる前に、結婚してしまうのもありかもしれないなぁ。
「結婚は来年考えます。私の駄菓子錬金術も広がりつつあるし、厄介事に巻き込まれる前にピエールの懐に入っちゃおうかな」
「それがいいかもな。安心しろ、お前が成人するまでは手出しはしない。神聖契約を結んだからな」
「徹底してるー」
「当たり前じゃろ? 子供を作るのは成人してからっていう国の決まりがあるから」
「確かに」
この国は意外と規則や法律が多い。
法律を破れば罰せられるし、規則を破ったら罰金だし、結構厳しいのだ。
「でも、年末の王家のダンスパーティには行かなくていいの?」
「それがのう……」
「今年は何故か、無くなったんだ」
「え、なんで?」
「王子と王女の身体が不調らしい」
「それで、王室錬金術師や医師たちが駆け回っていると聞く」
「そうなんだ……無事だといいね」
この国の王子と王女は双子で私と同じ年齢だ。
大変仲が良いと有名なのだけど、ご病気ならば早く治ることを祈るのみだ。
さて、会話をしながら風邪薬は作り終えたことだし……早速取り掛かりますか!
◇◇◇◇
用意した薬草は、今までで一番薬草の種類が多い……それが〝火傷凍傷回復薬〟である。身体の内側から治していくもので、皮膚再生ができる代物だ。
本当に酷い火傷でも、身体に薬が入りさえすれば元に戻る、超強力な薬。
子供にも一応使えるけど、使った後は大人でも一週間絶対安静が求められるのだ。
見た目はすぐに治るものの、失った皮膚や失った細胞を瞬時に戻すため、細胞を安定化させるためにも、絶対安静が必要だと言われている。
そして、何より他の錬金術のアイテムと比べても……高額だ。
あまり〝ざらめ〟にはしたくはない。
だからこそ、私はきっちりこの日のためにイメージトレーニングをしていた。
――作る駄菓子は決めてきたのだ。
「さて、気合を入れ直して……。早速作ります!」
「頑張るんじゃよ」
「大きな山場だな……俺は二回ほど失敗した」
「うう……。やる前に失敗の話しないでよ~」
「す、すまん」
「でも安心した。ピエールでも失敗したのね。俄然やる気出たわ」
天才錬金術師と呼ばれるピエールですら二回失敗したアイテム。
〝火傷凍傷回復薬〟はそれだけMPを吸われて持っていかれると聞いたことがある。
始める前に子供用MPポーションを飲んでMPを少し戻しておいて、いざ、挑む‼
いつも通りの手順を踏んでるのに、MPの吸い上げが凄い‼
これは、〝個数を多く作れない〟って錬金術の本に書いてあった通りだわ。
持っていかれるMPの多さは今までで一番凄い。
まさに、どこぞの掃除機を思い出す!
ギュイイイイン……と吸われるMPに汗が流れ落ちる。
ここは心を強く持って……最後の安定化に持ち込む‼
キイイイイン……パン‼ という甲高い音と共に、金の魔力が煙のように吹き出しながらも……コト。と落ちたのは……丸い小さな缶だった。それが五個ほど。
精霊さんたちも息切れをしていて、よほどこの子達も疲れたのだと分かった。
「で、きた」
「凄いな……一発か」
「へぇ……。流石だねぇ。アンタのお母さんも一発クリアしてたよ」
「流石お母さん」
「これも……駄菓子なのか?」
「うん、精霊さんたちも疲れたよね。一個あげるね」
そう言って小さな缶をキュッと開けると、中から現れたのは――〝キャラメル〟だ。
甘い香りに急ぎ集まる精霊さんたちは、こぞって一口、また一口と齧って幸せそうにしていた。
「俺達も」
「そうじゃな」
「歯にくっつくから気をつけてね」
「了解した」
注意を促し、〝火傷凍傷回復薬〟のキャラメルを食べる。
口いっぱいに広がる甘い幸せな味……。
食べる前に鑑定したけど、しっかりと〝火傷凍傷回復薬〟と出ていたから大丈夫だ。
「どう?」
「……ふ――……どう言えばいいだろうね」
「ああ、どう言えばいいでしょうね」
「え、なになに?不味いことした?」
「いや、普通の〝火傷凍傷回復薬〟は、吐き気を催すほどに不味いんじゃよ。飲んでも胃液とともに口から吐き出そうになる……。そんな苦行のアイテムなんじゃ」
「それが、ここまで美味しい味になると思うと……ちょっと駄菓子錬金強すぎやしないか? こんなの、町医者どころか、王国の医者ですら喉から手が出るほど欲しがるぞ」
「ええええ……」
「それこそ、火傷や凍傷は女性でも男性でも、死活問題じゃ。そうならぬように、アクセサリーを使って冒険者は自分の身体を保護するが……」
「問題は、一般人なんだよ」
確かに、煮えたぎった湯が掛かって大火傷をした……とか。
あちらの世界で言う消防士さんがこちらの世界にもいるけど、彼らにもまた使うアイテムのひとつではある。
「少しずつでいいからこれでスキルを上げて、MPの減りが緩やかになってきた頃、王国の消防隊に寄付という形で送るのも良いかもしれんな」
「確かに。国を守るために炎と戦う彼らには必須ですよね」
「後は、魔物討伐隊だな。彼らは炎を吐く魔物や、氷を吐く魔物と戦い、よく飲んでいると聞く」
「分かったわ。両方に寄付できるように頑張る」
「来年の目標は決まったのう」
「無事、一回は作れたんだ。その年で作れるのがレアなんだけどな?」
「まぁ……いいじゃん‼作れたならそれでよし‼」
笑顔で作れたことを喜び、ホッと安堵することができた。
でも、このアイテムはただの始まりでしかなく。
年明けから、私達はバタバタと動くことになろうとは……想像していなかった。




