第15話 子供用MPポーション作成と、睡眠回復薬。そしてバレた事……
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思いがけず〝気付け薬〟が売れた翌日からは酷かった。
あの青年から聞いてきたのだろう。
〝気付け薬〟が、ものすごく売れたのだ。
受験シーズンが終わる一ヶ月……私は必死に〝気付け薬〟を作り続けた……。
スキルもみるみる上がった。
おかげで〝火傷凍傷回復薬〟を作れるまでには成長した!
嬉しい、嬉しいけどなんか、いや、でも人助けは出来ている‼
――受験って大変だもんね。
前世を思い出し、当時の辛さを思い出せば……この人助けはとても尊いのだと思う。ポーションも、とても売れた。
彼らは風邪など引いている暇などないのだ。
もしうっすら風邪気味だと思った場合用に、彼らは風邪薬も買っていった。
おかげで日々、MPがなくなるまで必死にアイテムを作り続ける日々が続いた。
駄目だ。
これは、子供用MPポーションを作るべきだと考えた。
主に私用だけど、お婆ちゃんの許可がいる‼
「あの、お婆ちゃん?」
「どうしたんだい?もうアイテム作りは終わったのかい?」
「あと少し……。ねぇお婆ちゃん。私に子供用MPポーション作らせてくれない?」
「子供用MPポーション?子供用ポーションがあるんだから、発明するなとは言わないが」
「じゃあ作っていいのね‼」
「あの量のお客さんが来てたらねぇ……。甘い薬はアンタしか作れない。それを考えたら仕方ないだろうねぇ。いいよ、作ってみな」
「ありがとう‼」
実は案はすでにある。
粉ジュースがあるなら、液体を水で割るジュースがあっても良いはずだ。
そう、乳酸菌飲料である‼
乳酸菌飲料があればなんとかなる‼
薬草に関しても勉強した。
大人用のMPポーションを弱くした子供用MPポーションの案は、すでに頭の中にあるのだ‼
でも、大本は結局、薬草なのだ。
味と見た目がそれに変わるだけで……。
結局使うのは、目の前にずらっとある薬草なんだけどね。
作ると駄菓子や子供向けのジュースになるのは、私の持っている固有レアスキルの力があってこそ。
「さぁ作ろう、子供用MPポーション‼」
失敗してもいい、今日くらいはなんとかなる。
すでにアイテムは明日の分まで用意した!
今日は残りのMPを自分のために使う!
気合を入れていこう……。できれば一発、それで作りたい。
いつも通りの工程をしつつ、鑑定も常に行う。
【濃縮】……ここまでは順調に子供用MPポーションだわ。
よしよし、私の勝利が見えてきた。
後は集中して……【安定化】‼
『子供大好き乳酸菌飲料の原液ボトルが出来上がりますように……水で割るタイプができますように……‼』
脳内でそのパッケージを想像しながら心の底から祈りを込める‼
すると――ジュバン‼ という凄い音が聞こえて……金の光がいつも以上に凄くて……‼ 流石のお婆ちゃんとピエールも手を止めて駆け寄り、光が落ち着くと……ゴトリ。とボトルが落ちた。
そこには、見覚えのある形の原液入りの乳酸菌飲料。
お、お、おおおおお‼
できたぞ、できたぞおおおおお‼
「出来たわ‼子供用MPポーションの、原液‼」
「「原液⁉」」
「紙コップ頂戴な?」
「あ、ああ」
ピエールから紙コップをもらい、精霊さんたちの分も用意して乳酸菌飲料を注ぐ。
私は薄めが好きだから、少し薄めに作るのだ。
そこにウンディーネに水を入れてもらい出来上がり。
全員で飲むと――ああ、懐かしいあの頃の身体にピースだわ。
涙を流しつつ美味しさと、自分のMP回復を感じて……ホッと安堵の息を吐く。
「凄いね……。本当に少しだがMPが回復してるよ」
「子供用……MPポーションか……」
「これは私用だから、売らないけどね」
「だろうな」
「だが、どうするかねぇ。作ったもんは仕方ないが、一応アタシ達でアイテムを作って錬金術学会に出す必要があるねぇ」
え! 錬金術学会に出さないといけなかったの⁉
でも、そうか、初めて作るアイテムだから出さないといけないのか。
「お願い、お婆ちゃん出して?」
「やれやれ。仕方ないねぇ」
「年に一度の錬金術学会は来年でしたね」
「その時に出すから、それまでは好きに使っておきな」
「ありがとう!」
今後は、朝、昼、晩と子供用MPポーションを飲んでいこう。
飲み過ぎ厳禁だけどね。
一日三本くらいなら大丈夫なのだ。
この乳酸菌飲料があれば、忙しい時期も乗り越えられる‼
MPも若干回復した!
今のうちに、心もとないアイテムを作成しておいて、明日に備えよう!
受験シーズンも落ち着き始めるはずだもの!
こうして、受験シーズンの間は、受験生に優しい私として頑張り続けた。
きっと女神に見えているに違いないと思うほど、何故か拝まれた。
意味がわからないけど、彼らいわく「受験生の恋人」と呼ばれていることを後日知ったピエールがブチギレていたのは内緒だ。
私は彼らの恋人になった記憶は一切ないのだけれど。
それから暫くして受験シーズンは終わりを迎えた。
〝気付け薬〟などのアイテムの売上が落ちる頃の私はというと――。
〝気付け薬〟ではスキルが上がらない状態までレベルが上がりきっていた。
「棚から牡丹餅」
「棚から……なんだって?」
「ううん、思いがけずスキルレベル上がったな~って思って」
「確かにそうだな。受験シーズンはどこも戦争だと聞いていたが、ここまでとは」
「知らない所でたくさんの恋人が出来てたことに驚きました」
「あれは名称だ。実際に恋人と思ってるやつがいたら……爆弾ぶん投げる」
「過激♡そこが好き♡」
とにかくも、やっと自由時間が取れそうだ。
今度こそ、今度こそ‼ 〝睡眠回復〟を作るんだ!
やっと手に入れた自由時間、逃してなるもんか‼
◇◇◇◇
翌日から私は〝睡眠回復〟の作成に取り掛かった。
気分もすこぶる良い。
ず――っと気付け薬作ってたから、別のアイテムを作れるのが楽しみで仕方ない‼
ああ、これってもしかして〝エール錬金術師〟と似たような感覚なのかな。
あれは楽しくない。刺激がない。駄目だ、私には向かない。
そんな事を考えつつ、材料を集めて、フンスと息を吐く。
〝睡眠回復〟は本当に口に入れてサッと解けるような甘さがある駄菓子が良い。
その事を考えた場合、たどり着いたアイテムがある。
小さくて、甘くて、口の中に入れて噛めばサッと溶ける駄菓子……。
それを作ろう。
目の前の材料をまずはいつも通りの手順で粉砕したりと、精霊さんたちの力を借りて作っていく。
安定化させて、脳内に浮かばせたあの駄菓子……。
これなら絶対作れる‼ きっと冒険者の役に立つはず‼
金の光が落ち着き、小さな瓶がコトリ。と落ちると、私は〝ソレ〟を確かめる。
「出来た……金平糖」
「こんぺ……なんだって?」
「甘いお菓子だよ。精霊さんたちもアンジェちゃんもおいで~。あまーいお菓子だよ」
「わーい‼」
『あまいの――‼』
『最近ず――っと求めてたの!新しい甘味を‼』
『ワシはお酢昆布でも良かったがのう……』
『お爺ちゃん黙ってて』
ラムウに対して周りの精霊たち酷い言い草である。
落ち込んだラムウの頭を人差し指で撫でつつ、金平糖をひとつ手渡す。
涙を流しつつ少しかじる姿が可愛らしい。
『こ、これは‼』
『私達も――‼』
「皆で食べよう。カリっと噛んだらすっと溶けるからね」
「本当だね……。甘くて……それでいて上品だよ」
「美味しい……」
「これどう?〝睡眠回復〟には使えそう?」
「使えるじゃないか?なんというか……いつまでも苦いので涙が出そうな、いつもの俺達の作る錬金アイテムとは違うが、これはこれでありだろう」
「良かった‼」
「これも、来年には受験生のお供になるんだねぇ……」
「あ――。眠気対策」
思わず遠い目をする私。
ピエールも思わず遠い目をしていた。
「流石にこれは、一ヶ月にひとり一個までにします。徹夜毎日してまで勉強するのは、身体に悪いもの」
「それもそうだな」
「用法用量は正しくね‼」
笑顔で言いつつも、受験生は聞かないんだろうなぁ……。
彼らは受験に受かることに必死だからなぁ……。
その時は、封印しよう。そうしよう。
◇◇◇◇
こうして残るは私が最も求めていたアイテム。
〝火傷凍傷回復薬〟だけだ。
とりあえず、今は……だけど。
明日は〝睡眠回復〟をもう少し作って、最後に〝火傷凍傷回復薬〟を作ろう。
味、見た目も考えないと……。
どんな駄菓子がいいだろうか……。
痛みの間、少しでも甘さで気が紛れればそれに越したことはない。
そうなると、今出してないやつで甘い駄菓子が良い。
お婆ちゃんは今日は買い出しに行ってくれていて、ワトソンさんたちも帰った後、私とピエールだけで過ごしていた。
「ん~~……」
「また駄菓子のことか?」
「そう」
「ちなみにな?」
「うん」
「師匠からお前の錬金術は〝駄菓子〟と聞いているが」
「うん?」
「この世界には、〝駄菓子〟という認識はない」
え⁉ この世界には駄菓子という認識がない?
どういう事⁉
バッとピエールを見ると、にっこりとした笑顔で――。
「どこでそんな知識、仕入れてきたんだ? お前はどこで、何を見てきた」
「あ……」
「それとも、魂自体が……別の世界からやってきたのか?」
ピエールの鋭い言葉に思わず言葉が出ずにぐっと拳を握りしめる。
異世界から来たなんて、信じてくれないだろう。
でも、それ以外……答えようがなくて……。
「ピ、ピエール……実は……っ‼」
「いや、何も言わなくて良い」
「え?」
「薄っすらそんな気はしてた。だが、お前はお前であって、それ以上でもそれ以下でもないのは確かだろう」
「……ピエール」
「むしろ、お前は知らない世界に迷い込んだ。そこで今必死に戦って育っている。それが俺は誇らしい。駄菓子錬金なんて、お前しか作れないアイテムだし、何より女神の加護を持ってるだろう?」
「……うん」
「更に言えば、固有レアスキルもだろう?」
「……うん」
ここまで言い当てられてはどうしようもない。
私は素直に白状した。
「ピエールには……バレてたんだね」
「ロバニアータ師匠にもだ」
「そっか……それでも私を、受け入れてくれてたんだね……」
「お前の魂が異世界の人間であっても、お前の素直さ、明るさ、実直さは変わらん。何があってこの世界に来て、何を成すのかはお前が決めることだ」
「うん……」
「好きに生きろ。だが、俺はお前の婚約者だ。俺からは離れず……傍にいろ」
「……ありが……とう」
ありがたかった。
こんなにも私を受け入れてくれてるとは思わなかった。
お婆ちゃんも、ピエールも。
きっと不思議にずっと思っていただろうに……ありがとう‼
「ちゃんと……恩返し……できたら、いいなって……思って」
「泣くなアンティ」
「う、うん……っ」
「お前も……心だけは、寂しいときもあっただろう?」
「うん……っ」
「この事はロバニアータ師匠には言わないでおくから、俺とお前の秘密にしよう」
「ありがとう……大好きピエール……っ」
「俺もだ」
こうして、私は初めてこの世界に来て、本当の私を理解する人に出会えた。
それが――婚約者というありがたさ。
秘密の共犯者……。
でも、きっとピエールなら守ってくれる。
そう信じられた。
「いつもの笑顔で……。お前はお前らしく生きよう」
「うん、ありがとうピエール。安心しちゃった」
「そうか」
ぎゅっと抱きしめられて幸せな気分のまま、頭を撫でられる。
成人するまであと数年。
ピエールは待ってくれるだろう。
無論、やむを得ない事情がある場合は、早く結婚することもできるけど。
「安心したらお腹すいちゃったね!明日こそは〝火傷凍傷回復薬〟作るよ!」
「その意気だ」
「ピエール」
「ん?」
「やっぱり貴方、私の知ってる男性で一番素敵だわ‼」
「ばっ‼」
顔を真っ赤に染める彼に微笑み、私は明日の錬金術に意識を向け、そして今ある幸せに感謝したのだった。




