第12話 モルダー君問題の解決と、次への駄菓子錬金へ気合を入れる!
ブックマーク、評価、感想、誤字脱字報告ありがとうございます。
早起きして店の前の掃除をする私。
まだ行き交う人々は少なく、店の前を掃除する人の数もまばらな時間。
早起きは三文の徳と言うけど、徳はあるだろうか?
店の前を掃除するだけでも徳を積んでるようなものよね!
どうか我がロセット一族の店【錬金術工房クローバー】に、良いことが起きますように! そう願いを込めながら掃除を行っていると――。
「失礼」
「はい?」
そこには、貴族のお供にいそうな執事さんが立っていた。
なんだろう、うちの店になにか用かな?
「わたくし、モルダリス伯爵様の使いの者です。アンティ・ロセット様であらせられますね?」
「そうですが」
「どうぞ、我がモルダリス伯爵様へのご面会をと、思いまして」
「え? まだ朝ご飯も皆さんに食べさせてないから無理です」
「そこをなんとか」
「そもそも、行って何するんですか?」
怪しさ爆発!
モルダー君のお父さんとだろう……と言う事は分かっているけど、貴族とは命を助けたからと言って、安心してついていってはいけない。
そうお婆ちゃんに教わっている。
キッと睨みつつ告げると、執事さんは「困りましたね」と口にして眉を下げた。
「モルダー坊っちゃんのお礼をしたいのですが」
「よく言うわ。お手つきにして外に放り出してるだけじゃない」
「それは……」
「訳ありでもあんまりだわ。そんな伯爵に呼ばれても行かない。あの時のモルダー君、もう少しで死ぬところだったのよ⁉」
「重ね重ね……本当に申し訳なく……」
「どうしたアンティ」
私の騒ぎを聞きつけてか、ピエールが外に出てきた。
そして、モルダリス伯爵の使いである執事さんに厳しい目を向けると――。
「俺の婚約者に何用だ?」
「そ、それは」
「理由が言えないか?」
「若き天才錬金術師。ピエール・ドルガン様ですね?」
「そうだが?」
「どうか、どうかお願いでございます。アンティ様との婚約を白紙にして頂けたら」
「「断る‼」」
これには私とピエールの声が重なった。
一体何を言い出すんだこの爺様は‼
サッとピエールの後ろに隠れると、執事の爺様は溜め息を吐き「坊ちゃまにも困ったものです」と小さく呟いた。
「これは、我がモルダリス伯爵家の落ち度でもあるのですが……」
「落ち度しか無いな」
「そう言われても仕方ないかも知れません。モルダリス伯爵様の次男、モルスァ様が、どうしてもアンティ様を第三夫人にしたいと申し出ておりまして」
「下らん。この前のモルダー君も、そのモルスァのお手つきになった女性か? 要らなくなったら私市にポイと捨てるような男なのだろう」
「……はい」
「死ねって言っておいてください」
「死……わかりました。強烈な嫌悪感と同時にお断りを頂いたと伝えておきます」
「それと、今後そちらが困っても我がロセット家の商品は出しません。モルダリス伯爵家なんて最低だわ‼ 聞いていた内容より酷いもの‼」
「……モルスァ様だけが悪いんですよ。モルダリス伯爵は、モルスァ様に手を焼いております」
そんなの私の知ったことじゃない。
だからといってピエールとの婚約を白紙にしろと言うモルスァの頭がボサァッとしてるんじゃないの?
「再度言いますが、絶対白紙にしませんし、モルスァとか言う頭がピンクな人のところなんて行きません」
「アンティを嫁に貰いたいと言うのなら……。ロバニアータ・ロセットと、ピエール・ドルガンが相手となると伝えておけ」
「……とても勝てる相手じゃないと言っていたのに坊っちゃんめ。かしこまりました。モルスァ様にお伝えします」
「この事はモルダリス伯爵は知っているのか?」
「いえ、ご存知ではありません」
「俺の方から苦情を伝えておこう」
「……かしこまりました」
そう言うと執事さんは帰っていかれた。
塩、塩巻かなきゃ塩‼
朝から徳なんてなかった‼
起きたのは悲劇というべき内容だった‼
「私‼ピエール以外の人と結婚しないから!」
「俺もアンティを誰かにやるつもりはない。安心しろ」
「はぁ……早起きは三文の徳っていうのに、起きたのは悲劇だった」
「三文の……?まぁいい、ロバニアータ師匠にも伝えておこう」
こうして店の前の掃除を終わらせると、お店に入って次は中を掃除する。
その間にピエールがお婆ちゃんに話に行ったようだけど、暫くすると武装したお婆ちゃんが現れて私は箒を落とした。
「え?なになに?どうしたの?」
「モルダリス伯爵邸を爆破する」
「お婆ちゃん、一旦落ち着こう?」
「お前の母さんの時もそうじゃった‼あのモルスァめが‼今度は孫にまで毒牙を伸ばすか‼……モルダリス伯爵にはのう?次女なり孫なりに手を出すというのなら、屋敷を爆破すると予告しておったし、向こうもそれを了承したんじゃ。
つまり、これは〝我が家の当然の行為〟であるのじゃよ」
「お、お婆ちゃん」
「ひとっ走り行ってくるから、お前さん達は店を頼むぞい」
「お婆ちゃ――ん‼」
そう言うとお婆ちゃんは爆弾を大量に詰め込んだバッグを持って走っていった。
最早私の言葉など聞こえていない……。
「はぁ……」
「ピエール!」
「あのモルスァとか言う次男坊は、お前の母さんにも毒牙を伸ばそうとして、ロバニアータ師匠と話し合いの末、教会での神聖契約まで行っていたらしい」
「ええええ⁉」
「だから、当然の報いが起きる訳だ」
「うわぁ……」
「モルスァ……死んだな」
そう語るピエールと共に小さく頷く。
それから一時間もすれば、ドゴンドガンと揺れる程の音がして……。
お婆ちゃんが暴れてるんだろうな~と予想しつつ、最早誰にも止められない。
その音をBGMに、私達はアイテム作成を行う。
すると――。
◇◇◇◇
「いや――。一体何があったんです? 警備兵たちが走り回って町医者も走り回ってますよ。なんでもモルダリス伯爵邸を荒らす女性が現れたとか」
「「ああ……」」
「屋敷は半壊。特に次男坊は集中攻撃を受けて屋敷が消えたそうです」
「な、なるほどー」
「錬金術師を敵に回したんでしょうなぁ……。ああ、恐ろしい」
そう言ってワトソンさんは自分の仕事場へと向かい、アンジェちゃんは私のお手伝いを申し出てくれた。
お婆ちゃんの怒りが落ち着くまで……暫く掛かりそうだ。
その日はあまり錬金術に手が伸びず、結局中級のポーションとMPポーションを作るのと、既存のお薬を作るのが精々だった。
そして夜――お婆ちゃんは清々しい笑顔で帰ってきた。
「この時のために取っておいた、教会で交わした神聖契約書の写しがあってよかったよ」
「お婆ちゃんが捕まるかと思ってヒヤヒヤしたわ……」
「フフン。モルダリス伯爵はモルスァの行いにカンカンさ。修道院に入れることが決まって、私市に戻した女性たちにも手厚い保護をしてくれるそうだ。まだあの家には孫息子がいなかったからね」
「あれ、長男さんがいるんじゃ」
「病気で子が作れないらしい。だから、私市にいるモルダー君は、次期伯爵候補となるわけだ」
「わおう!」
あの時の子が、次期モルダリス伯爵家の当主候補になるなんて……。
しかも、聞けばモルスァの子供はモルダー君を除いて全員娘。
ゆえに、モルダー君に全てが掛かると言って過言ではなかったらしい。
しかも、男の子の孫がいることをお婆ちゃんから初めて聞いたモルダリス伯爵は、その生命を救った私に毒牙を伸ばしたとして、モルスァにキレたそうだ。
それが、最後の決め手となったらしい。
「規律の厳しい男性修道院に入れると言っていたから、アンティ、もう大丈夫じゃよ」
「お婆ちゃんありがとう‼」
「だが、屋敷が半壊したのなら……」
「ああ、タウンハウスでしばらく過ごすらしいから問題ないそうじゃ」
「な、なるほど」
――こうして、モルダー君も無事お爺ちゃんの元で過ごせるようになったし、問題はなくなったかな?
彼を助けたことで、功を成したのなら問題はない。
婚約を白紙にって言われた時はキレそうだったけど。
「でも、今日一日何も手つかずな感じだったなぁ」
「俺も師匠が気になってな……」
「おやおや、愛されているのう。心配せんでも、こちらが勝てる戦しかしないタイプじゃよ」
そう言うけど、お婆ちゃん負ける戦でも絶対するよね?
家族が絡むと人が変わるもの。
でも、そんなお婆ちゃんが大好き‼
「アンティ、幸せそうだな」
「だって、最高のお婆ちゃんを持てて幸せだなって思ったんだもの!」
「良いじゃろう良いじゃろう! アンティもいずれわしのようになるじゃぞ!」
「目標はお婆ちゃんよ! でも、偉大なる錬金術師は無理だから、甘いお薬で子供たちの救世主になるの‼」
「それでいい、アンティはそれが一番じゃ」
――こうして、モルダリス伯爵家問題は解決した。
解決というより、お婆ちゃんのゴリ押しで通したような、破壊で通したような。
でも、終わり良ければ全て良しよね‼
それからすぐに、タウンハウスに引っ越してきたモルダリス伯爵様に、私は謝罪を受け、更にモルダー君を救ったことで、困った時は力になると約束してくれた。
しかも、神聖契約までしてくれて……。
「私のような錬金術師の卵に……よろしいので?」
「君は我が家に希望をもたらした。モルダーという希望を」
「……ありがたく受け取ります」
他のお孫さんたちも、今はタウンハウスで過ごしているし、私市に出ていた女性たちも保護されて安心安全に暮らしているのだとか。
本当にモルスァが碌なことしてなかったんだな‼
規律の厳しい男性修道院で叩き直されれば良い‼
◇◇◇◇
そんなことを思いつつ、今日はそのモルダー君が遊びに来ている。
と言っても、鼻風邪を引いてしまい、うちに薬を買いに来たのだけど。
「白せんべいに、ジャムでお願い事を書いて……」
「これ、素晴らしい案ですね」
「ふふ。親も子も笑顔になれたら良いなと思って」
メリアさんはモルダー君のお母さん。
その方がモルダー君が飴を舐める前にと、二人で願い事を書いて、二人でひとつのせんべいを分け合って食べて微笑み合っている。
きっと、いつもそうやって、半分こしてきたんだろうなって分かる姿だった。
「風邪が治りますようにってお願い書いたから、モルダーの風邪もきっと治るわ」
「うん! おねぇちゃん、ありがとう!」
「どういたしまして!」
「ぽーしょんも、のんだほうがいいよ?」
「きみは?」
「アンジェ。ここではたらいてるの」
「すごいね‼ ぼくとおともだちになってくれる?」
「いいよー」
子供たちの微笑ましい姿。
それから度々、アンジェはモルダー君が来ては、おせんべいを使って文字や絵を書いて食べている。
食べ過ぎ厳禁だから、ひとり二枚までと決めてるけれど。
執事さんが見守る中、二人はライバルのようにしていて、微笑ましい。
これからも二人仲良くしていけたらいいな。
そう願いながら、私も一枚白せんべいに願い事を書く。
『アンジェとモルダーが今後も仲良くしていけますように』
そんな小さな願い事。
それを見ていたピエールからは頭を撫でられ、お婆ちゃんからは笑顔で「アンタらしいねぇ」と微笑まれた。
――さて、明日こそは私なりの新しい駄菓子な〝毒消し薬〟を作ろう!
スキルアップでレベルアップ!
目指せ〝火傷凍傷回復薬〟‼
そこを目標に頑張るぞ‼




