第1話 甘い薬とお婆ちゃん
新連載です。
〝駄菓子錬金術〟アンティの奮闘記を、是非応援よろしくお願いしますm(_ _)m
私の名前は、アンティ・ロセット。
異世界転生者で、錬金術師の卵をしている。
転生前は、駄菓子屋に勤めていたけれど、ある日不運が起きて死亡してしまった。
そして、この世界に異世界転生したわけだけど、今年齢は十二歳になる。
黒く長い髪をポニーテールにして、猫のような丸く青い目。それが今回の私だ。
私の作るアイテムは、全てがお菓子の味になるというギフトを持っている。
何度作ってもお菓子の味のお薬ができてしまう。
素材は師匠である祖母と同じ素材を使っているのだけど、甘いお菓子にできてしまうのだ。いわゆる駄菓子。前世の力半端ない。しかも砂糖不使用で甘い。
でも、この力は異世界転生する際、女神様から【固有レアスキル】として授かったもの。
知っているのは私だけだけど、他のみんなには女神様から「今は秘密♡」と言われているため、言うことはしない。
そのため、偉大なる錬金術師である祖母ですら不思議がる始末。
「恐らく大層立派な女神から加護を受けてるんじゃないのかい?」
と聞く祖母に私は笑顔で――。
「わからない」
と、笑顔で告げる。
子供の笑顔とは無垢で残酷なのだ。
でも、悪いことばかりではない。
お薬嫌いな子どもたちの救世主になるべく、私はお菓子の味の薬を作っていく。
そんな私の祖母は、ロバニアータ・ロセット。
私の祖母で、年齢は不明♡だそうだ。
「世界に名を馳せる大錬金術師」……と言われる程の腕の持ち主で、スタイルも抜群にいい。
十二の孫がいるとは思えぬ若さを保っており、魔女と噂されることも。
偉大な大錬金術師だけど、孫にはツンデレだと思う。
お婆ちゃんは、私のために、色々精霊と契約させてくれたけど、私の護衛兼お手伝い役の精霊たちが私を気に入る始末。
「これもアタシの血かねぇ」と苦笑いしつつ、私の小さな夢「お薬嫌いな子供のおクスを作るよ」を応援している優しいお婆ちゃんだ。
とは言え、私は錬金術師の卵。
今日はポーション作りに励んでるわけだけど……。
「ん~~」
「どうしたんだいアンティ」
「お客様からね? 子供用ポーションは必須だけど、日持ちしないから改良できないかって言われたの」
「ああ、そんな客がいたね」
「子どものための子供ポーションが日持ちしないから家に置かれない……っていうのだけは避けたいの。それで、どうしようかなって思って考えたんだけど……」
「けど?」
そう言うと、私は子供用ポーション瓶を眺めつつ、眉を顰めた。
普通の大人用ポーションは長持ちするけれど、子供用は長持ちしない理由。
それは効能の違いだ。
大人用のポーションは多少効能が強くても、問題はないけれど……。
子供用は作る工程の【祈りの涙】という作業で、効能を下げなくてはならない決まりがある。
それを何とかしたい……。
「といっても、ポーションっていうのは飲み物だからねぇ」
「飲み物っていう概念を、捨てたらどうかしら」
「は? 飲み物じゃないポーションかい?」
お婆ちゃんがかなり驚いている。
確かにポーションとは飲み物であるべきなんだけど、私は違う考えで行こうと思っていた。
「家にあってもかさばらない。さっと使えるポーション……。あのお菓子とかどうかしら……」
「おやおや、また駄菓子でも作るんじゃろう?」
「駄菓子じゃありませーん。お薬でーす」
「ははは! アンタの作るアイテムはアタシと同じ素材を使っていても、何故か駄菓子になるからのう」
「甘くなるだけですー。確かにお菓子になっちゃうけど、それでも効能はあるでしょう?」
「そうだじゃな。それについては文句の付け所がないよ」
そう、効能はあるのだ。例え見た目が駄菓子でも。
その為、私は考えに考えた末――ひとつの方法を思いついた。
「粉のポーション……作ってみよう」
「粉のポーション?」
「そう、水に入れたらさっと溶けて、それを子供に飲ませられれば、かさばらないし、その上日持ちもする。そういう子供用ポーションが作れたら、きっと子どもたちだって親だって助かるわ!」
「アタシもそれは気になるね……作ってみたらどうだい?」
「うん!」
こうして私はフワフワ飛んでいた精霊たちに声を掛けた。
「シルフーにウンディーネーにサラマンダー達~。手伝ってくれるー?」
『いいよー』
『あら、何を作るのかしら?』
『甘いお薬ならたべてみたいわい』
「子供用ポーション。でも今回はかなり違うポーションにしようと思ってるの。きっと甘いから試作品は手伝ってくれたらプレゼントするわ!」
そういえば精霊たちは気合を入れてくれた。
さぁ、作っていこう。
ポーションの材料は基本的に薬草店の店主が定期的に持ってきてくれる。
契約って大事だよね。
「採取に行きたい」っていったら、お婆ちゃんに「薬草店の店主が定期的に運んでくる薬草で結構。外は危険だから行くんじゃないよ」と口酸っぱく注意されたのは懐かしい話。
子供用ポーションの材料を眼の前に置き、私は気合を入れて魔力を身体に流し始める。ポーションくらいなら魔力操作で作れるのだ。
錬金術の基本手順はこんな感じ。
【乾燥】→【粉砕】→【祈りの涙】→【薬効成分抽出】→【分離】→【濃縮】→ラストの【安定化】してアイテム完成。
すべての工程で、錬金術師の願いに精霊が手助けをする構造になっている。
その為、精霊と仲良しでないと、力を貸してもらえないのだ。
私の考えている子供用ポーションは、粉ポーション。
所謂、水に溶かして飲むジュース。
できあがったひとつひとつは、何故かひとつずつ袋に入っていたりするので、それも女神様の加護のお陰だと思ってる。
「さてと、では皆さん、よろしくお願いします!」
『了解だよ!』
『任せろ』
こうして、錬金術の手順に合わせて、精霊たちが手伝ってくれる。
【乾燥】ならシフル、【粉砕】ならミニチュアタイタン。
【祈りの涙】ならウンディーネ……と言った感じで手伝ってくれて、安定化には私の魔力だけを使う。
その時は、心がとても大事なんだってお婆ちゃんが教えてくれた。
「女神様に安定するように願うんだよ」って言ってたけど、多分それが全ての元凶……いやいや、私の固有レアスキルに関係してる気がする。
シュンシュンシュン……と音を立てつつ魔力を安定させつつ作っていく様を、お婆ちゃんは楽しそうに見つめている。
最初はこの錬金術の一通りすら出来なかった頃が懐かしい。
十歳から頑張って、二年でここまで来たんだ。
卵の中の卵から、少しだけ成長した感じが好き。
シュパン‼ という心地よい音と共に【安定化】まで終わらせて、黄金の光が消えると目の前には――【銀の袋】に入ったアイテムが。
振ってみるとサラサラと音がする。
「失敗は……してないかな?」
「どれどれ、子供用ポーションなのかどうか、水に溶かして飲んでみようかね」
「あ、裏面に水の量書いてある。100ccの水でいいみたい」
「ウンディーネ。出してくれるかい?」
『はーい』
コップにお水を入れて、粉のお子様用ポーションを入れて混ぜてみる。
水にサッと溶けて直ぐに子供用ポーションに変わったのは、大きな収穫だ。
私が作るアイテムは、味は全部一緒になるわけじゃないけど、粉が紫色だった。
今回はグレープ味のようだ。
まずは私が飲んでみる。うん、前世で飲んだ駄菓子の粉ジュースの味がする。
体力は……回復しているから問題なさそう。
続いてお婆ちゃんが一口飲む。
「これは……高級果実のグレープ味じゃな……」
「そうみたい。苦い薬草から作ると、子供用ポーションも苦いから、小さい子供は特に飲みたがらないっていう問題もあったの。これなら、体力を回復させたい子供が喜んで飲むと思うし、かさばらないし、日持ちもするわ」
「は――……考えたもんじゃわい」
「だって、お薬を飲むなら甘いほうが断然いいでしょう?」
「そういう考えは素敵だけど、『良薬口に苦し』って言葉もあるんじゃよ」
「私は子供たちが飲みやすければ、それでいいと思うわ。お薬が飲めるなら、断然美味しいほうがいいもの」
「まぁ、飲み切るのが前提ならそっちのほうがいいのかも知れないねぇ」
こうしてコップを机に置くと、ワラワラと小さな精霊たちが子供用ポーションを飲んで『甘い!』『美味しい~!』と目を輝かせて言ってくれてる。
それが何よりも嬉しい。
「私の力じゃ、錬金術師には向いてないのかも知れないけど……」
「まぁ、作るものが全て駄菓子になるからねぇ……。でも、そういう薬もあっていいんじゃないのかい? 『子殿のための優しいお薬屋さん』って奴がいても、錬金術はひとつの形に縛られることはないんじゃ。好きにやりな」
「ありがとうお婆ちゃん! 大好き‼」
その後、成功した粉末子供用ポーションは、【錬金術工房クローバー】の店内に並ぶことになり、子供用ポーションは飛ぶように売れた。
すると、ひとりの子を持つお母さんから声をかけられた。
「ねぇアンティちゃん?」
「はい?」
「他にも、大人用のポーションも甘いの作れるかい? あと、子供用のお薬で甘いのとか」
「頑張って作ってみます!」
「助かるよ。薬は飲まなないと意味がないのに、苦い薬ばかりじゃ子供は飲まなくて親も大変なの……。アンティちゃんの甘いお薬は、きっと子を持つ親の救世主になるわ」
「わ――‼ そう言ってもらえると嬉しいです! 頑張りますね!」
そんな風に応援されて私は目を輝かせる。
嬉しい! 駄菓子なんて邪見されることもあるけど、【子供を持つ親の救世主】なんて言われたら嬉しい!
俄然やる気が出たわ‼
前世の知識が役に立ているのなら、どんどん作っていこう!
今やっと作れるようになったんだから、失敗を恐れず次々作るよ‼
失敗しても、産業廃棄物になるだけだけど……それも何故か、私の場合【ざらめ】になるんだよね。なんで砂糖なの?
「アンティ」
「どうしたの? お婆ちゃん」
「これからも頑張るとええ。ちょっとお婆ちゃん、アンタが誇らしく思えたよ」
「へへへ……嬉しい。頑張るね!」
お婆ちゃんに誇らしいと言ってもらえて嬉しい。
子供用ポーションの次は、普通のポーション作ってみようかな?
どんな味になるだろう。楽しみだなぁ‼
ドキドキしながら、その日は一日子供用粉ポーションを作り続けてスキルを磨いた一日。
そして、小さなお客様は感想も伝えに来てくれた!
「アンティの粉ポーション美味しい!」
「一日一杯は飲まないとだよな!」
「ご褒美に子供用粉ポーションをママが作ってくれるの!」
「良かったねぇ! 作った甲斐があるよ‼」
――こうして、私の【子供を持つ親の救世主】の道とも言える錬金術が始まった。
それは、大人もきっと笑顔に変えることが出来る魔法の錬金術。
甘いは正義。
美味しいは正義!
明日の味はなんだろう!
楽しみだなぁ‼




