拒否
心臓がパンクしそうになるまで漕いだ。
口から大きく息を吐きながら、早く!
もっと早く!と漕いだ……
その日は特に何も予定もなかった。
中学からの友人ミサからLINEが届く。
―――ミサとのLINE―――
ミサ/今どこ?
私/いつもんとこ〜
ミサ/ああねw5分で行くわ
私/OK
――――――
近所の駄菓子屋でチューペット咥えながら左右を見てるとミサがピンクの自転車でやってくる。
「よっ!」
「うす!」
「あ、私も買おっおばちゃーん!コレとガリガリくんね!」
小銭を渡しながら振り返りさっそく私の隣にガタッと座る。
古い三人掛けベンチが派手に軋む。
「昨日の動画観た?」
「おいおい、どの動画か主語から語ろうか
(笑)」
2人はいつものようにおしゃべりに夢中になる。
この時間が高校2年の2人には大事なのだ。
家族にも学校にも関係のない、塾や部活などのストレスからの解放なのだ……
ふざけ合うこの時間が""今""でも愛しい。
気が緩んでいたのは確かだった。
夕焼け空の下、なんの中身もない絵空事を時間に縛られず語れる、この時だからだったのだ。
「ねえ、達磨坂行かん?」
「今から?」
「うん、暇やし競走したいんよー気持ちイイやろし?」
「いいよ!行こ〜!」
2人がふざけあいながら坂を上っていく。
―――達磨坂―――
地元の人は知っているが、急勾配な為、下る時はほとんどの住民が徒歩に切り替える。
たまにチャレンジャーな若者がこの坂からスケボーや自転車で下るが、手前のカーブでブレーキを踏むのが鉄板だ。
「あそこのカーブ手前までだよね?」
「へえービビっとるやん(笑)」
「いやいや!ビビってはないわっ!1番下まで行けるけど?」
「ほお?言うたな?(笑)」
「んじゃ下着いたの遅いほうがジュース奢りってことで。」
「おおっ!なら負けられん!」
「よーい!」
ペダルを1回転。廻し、唾を飲む。
「どーん!」
夕焼けに一瞬で2人の影が延びていく……
コマ送りで数秒が進む。
カーブを曲がる位置までが長いような気がした……
そして目の前のミサが飛んだ。
カーブで曲がると思ってたのに、何かによろめき直進した。
カーブの横は落差があり、そこから落ちたら3階から落ちるのと同じ高さだ。
昔から知ってる場所だからこそ、そこから落ちたらどうなるか。は、予想が着く……
が、………………
今起きた事を私の頭が受け入れられなかった……
私は達磨坂を下った。それしか頭になかった。
何も無かった。そう、今私は坂を下っただけ……
家に帰る途中なだけ……
ハンドルを持つ手がなぜか、震えてる……
しっかり持たないと。
どうしたんだろう?心臓が痛い……
早く帰らないと。早く。早く。
後ろから誰かが追いかけてくるような感覚……
逃げる?何から?
わからない!わからない!
汗なのか涙なのかわからないものが私の頬を濡らすが、ペダルを漕ぐ力をさらに加速させ風に乾いていった……
ここにいたらダメだ。と私の残穢が呟いた。