第3章 部活に悩む
優月は絵を描きながら想大と話していた。
「優愛さん、美術部に入るんだって?」
「うん。そうらしいよ」
優月はそう言いながらも口角が少し上がる。本当に優愛と同じ部活になれるとは。更に仲良くなれるかもしれない。
「それは楽しみだな」
「うん!」
優月も嬉しそうに頷いた。
優愛と同じ部活で一緒に絵が描けることが楽しみだった。
だが、それはただの幻想だった…。
「え、こうですか?」
優愛は細い棒のようなものを太鼓へ振り下ろす。ぱん!と風船が弾けるように音が響いた。
「そう。腕じゃなくて手首を使うの」
「分かりました」
優愛は自然に頷いた。
何故自分はここに来ているのだろうか?
それは先輩らしき女の子に『吹奏楽部の見学に来て』と誘われたからだ。聞く限り人数不足で困っているらしい。
確かに今、目の前にいる3年生の女の子は、打楽器パートなのだが1人だけらしい。
打楽器とは、タンバリンやトライアングルなどの叩く楽器である。吹奏楽コンクールでは、ティンパニという楽器やビブラフォンやマリンバ、シロフォンなどの鍵盤楽器。また文化祭や演奏会ではドラムセットやコンガ、ボンゴなどを使うらしい。
「基礎打ちは大体できてるね。すごいね」
「ありがとうございます」
優愛は小さく頭を下げた。その様子を見た先輩は嬉しそうに口元を緩めた。
「あとは、このドラムスティックって言うんだけれど、持ち方は注意してね。親指と人差し指に力を入れて他は添えるように持つ。それとロールっていう演奏の時は下の方を握るけど、普通の時はやや上の方で叩くから」
「はい」
すると少女は満足そうに笑った。
「あと、ロールって何ですか?」
優愛が気になったことを率直に訊ねる。
「ロールはね、英語で『転がる』っていう意味なの。ロール奏法は基礎のひとつで音を繋げるように打つことだよ」
そう言って自身のドラムスティックを構える。
「お手本…見たい?」
「はい。見てみたいです」
「少し待っててね」
すると穏やかな瞳が突然剣呑な光を取り込んだ。
彼女は手首を震わせ、スティックを擦るように打つ。じゃ、じゃらららら…と切れ目の見つからない連打が響く。
「じゃあ、見せるよ」
「お願いします」
すると少女はスティックを小さめに振る。縮こまったような音は、振りを大きくするにつれて、少しずつ大きな音へと変わっていく。
じゃらららららららららら…!
その小さな瞳は打面だけを捉えていた。みるみるうちに膨らんでいく音に優愛の目が煌めく。
うまい。よく分からないのにそんな事を思っていた。
じゃっ!!その音からピタリと音が止む。その音さえ雑音はなかった。
「あ、ありがとうございました!」
優愛が礼を言うと少女は「最後まで聴いてくれてありがとう」と可愛らしい笑みを浮かべた。その笑みに優愛の頬は思わず熱くなる。カッコいいな、と思うほどに。
「じゃあ、他の楽器もやってみようか?」
「はい!」
優愛はそれっきり打楽器に興味を持ち出した。
美術部に入るか?
吹奏楽部に入るか?
悩んでしまう。迷ってしまった…。
読んでくれたら評価していただけたら嬉しいです。
好評だったら続編出します!!