第1章 ドキドキさせる少女
「うわぁ!村上先輩じゃないすか!?」
優愛は昇降口付近で声を上げる。その声はビックリしているようで少々裏返っていた。
「優愛ぁ、生きてて良かったぁ!」
「えぇ!私死ぬ予定無いんですけれど」
少し困惑気味な彼女に、昇降口から顔を出した優月が顔を赤くする。
可愛いなぁ。
そんな感情は幼少期から何度も思ってきた。彼女の良い所は何より優しい所だ。怒ったとしても言葉で傷付けたりすらしない人だ。天使のような少女、それが優愛なのだ。小学校時代も全く喧嘩はなかった。
「あ、優月くん!久し振りだねぇ」
その時、そんな声が優月の胸を突き刺す。
「あ…ああ、ゆ、優愛ちゃん…、ひ、久し振りだね」
まさか彼女の方から話しかけてくるとは。心なしか少し新学期の憂鬱な気分が晴れたような気がした。
「優月くん、元気だった?」
優月くん、改めて呼ばれると緊張する。目の前の村上美咲も優愛と同じ小学校出身だ。それでも彼女には先輩と付けている。
それに対して優月には『くん』を付けている。この些細な違いに優月は胸がドキドキするのを感じた。
「げ、元気だったよ」
「ふふ、それは何より」
そう言って艷やかな唇が動きを止める。その細い眉の下、柔らかな丸い瞳が優月だけを捉える。彼女の瞳には優月だけが写っているのだろうか?
「じゃあ、村上先輩さようなら!」
「ばいばい!優愛。気を付けて帰ってね」
「はぁーい」
そう言って優愛はひとりで歩いて行った。優月は自然と足早に歩を進める。そして無防備なその背中との距離は徐々に縮まっていく。
一度話しかけられた優月に抵抗は無かった。彼は小さく口を開いた。
「あ、あの優愛ちゃん…」
すると優愛が「ん?」と首を回す。自然と彼女の瞳と優月の目はかち合う。
少し大人びた彼女の仕草は、優月の緊張を更に高ぶらせる。
「どうかしたの?」
「あ、あの…」
「喉乾いてる?さっきから声が掠れてるよ?」
と言うと優愛は足を止める。
人の流れの中、ふたりの足だけがその中を留まる。
「お水飲んだ?」
「の、飲んでないよ」
「じゃあ、飲んできたら?顔も赤いし声の掠れも治るかもよ」
「…時間ないし大丈夫だよ」
ふたつとも優愛に対する緊張のせいだ。全ての元凶というべき相手はこちらを見て肩を揺らす。
「そう?」
それだけ言って優月が歩き出すのを待つ。彼が歩き出すと優愛も足を動かす。
「優愛ちゃん、部活は…」
本題を切り出そうとしたその時だった。
突然、彼女の柔らかい手が優月の方へ触れる。ビックリした!と優月は足を止める。
次の瞬間に襲ったのは、何とも言えない柔らかい匂いだった。とても上品な匂い。香水なのか体臭なのか分からないが。
「かわいい…」
すると優愛が目をキラキラと光らせる。優月も習ってその匂いの主を見る。
(あの人、確かドラムとかいうのやってた…)
目の前にはサイドテールの物腰柔らかそうな女の子がいた。その少女はこちらへ向くこともなく通り過ぎて行った。
「それで、どうしたの?」
そのとき、再び優愛が話しを再会させた。
恋愛小説としてお楽しみ下さい!
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