第9話 ダンジョンリベンジ
僕たちは各々の準備をし、ダンジョンの前に集まった。
僕は前回と同じように簡素な服にちょっとした武器防具とザ・初心者装備といった出で立ち。
シシルーはなにかの魔法とかが込められてそうな模様が刺繍された白いローブ姿。魔導士らしく大きな杖を持ってきている。
ニーリェはちょっとした飾りをつけたプレートメイル。人が全身隠れそうな大きな盾に片手斧とゴツイ装備で固めている。
リディルカは貴族服の様な豪華そうな明らかに探索に向かないだろう服装。なにかの魔道具であろう指輪や腕輪をジャラジャラと身に着け、指揮棒の様な小さな杖を持っている。
ダンジョンに入ってすぐに、シシルーは配信の魔道具の準備をしながら言う。
「じゃあ配信始めるよー」
「分かったー」
「おう」
「うむ」
3人の同意の言葉の後、魔道具は宙に浮き配信が始まった。
「シシルー・ディーカーです」
「ニーリェ・ドーランズだぜ」
「リディルカ・ハーヴェントである」
「遊朝可奈芽だよ」
「今日はこの4人の臨時パーティーで、ここシナーブルのダンジョンに挑みたいと思います」
僕以外の3人は配信魔道具に向けてポーズをとっている。きっと始める時にするお決まりとかなんかだろう。僕はとりあえずダブルピースをやっておいた。
「それじゃあ早速<サーチ>やっちゃうねー」
「はい。おねがいします」
「おう。たのんだぜ」
「期待しておるぞ」
僕は集中してスキルで周囲の状況を感知する。これで周辺のモンスターと罠の場所はバッチリだ。
そして、今度は自分の番と言わんばかりにシシルーが杖を構えた。
「じゃあ、体力強化の魔法をかけるね」
杖がオレンジ色に光りその光が宙に放たれると、その光は僕達の体に纏う様に張り付きやがて消えた。なにやら温かみのある光だった。
なんとなく体力が満ちるのを感じる。
「これで疲れにくくなるよ」
「ありがとー」
「サンキュー」
「感謝する」
準備も万端という事で、僕達は先へと進んでいく。
少し行った所で僕は進む道の先にモンスターが居るのを察知した。「この先にモンスターが居るよ」と伝えると、ニーリェは頷き、盾と斧を構えながらモンスターが居る方へとにじり寄っていく。
姿を見せたモンスターの正体はオークだった。一度は倒された相手、嫌が応にも身構えてしまう。
「ここはオレに任せな」
ニーリェはこの程度かと言わんばかりの余裕の表情で向かっていく。シシルーもリディルカも同様で一切動じている様子は無い。
オークもこちらに気付き走ってくる。そしてニーリェに向け石斧を振り下ろすが、その石斧は弾かれた。ニーリェが盾で受けると同時に弾き返したのだ。
そしてバランスを崩したオークにニーリェは斧の一撃を加え、怯んだ所に間髪入れずに追加攻撃。ニーリェはオークをアッサリと倒してしまった。余裕の撃破だ。
オークを倒したニーリェは振り返り笑顔を見せた。
「いっちょあがりぃ」
強い。多分ここらで初見殺し的なモンスターを余裕で倒してしまった。違う個体かもしれないが、かたきを討ってもらった気分だ。僕は「おー」と感心の声を上げながら拍手でニーリェの強さを称え、ニーリェは少し照れた表情を見せた。
さらに進んでいくと、今度は3体のモンスター、ネズミ型やイノシシ型の僕が倒した事がある相手ではあるけれど、複数でたむろっていて多数を同時に相手にしなければならない。さらに近くに罠があって不用意に近づけない状態。
それを伝えると今度はリディルカが前に出た。
「ここはこのリディルカに任せたまえ」
リディルカは指揮する様に杖を振り、宙に雷の槍を作り出し、それをモンスターに向けて放った。
雷の槍は一体のモンスターに突き刺さると、バチバチという音を鳴らして爆ぜ、周りのモンスターを消し炭にしてしまった。ついでに罠も壊したのか罠が無くなっている。
と倒したのもつかの間、雷撃の音を聞いたのか、別のモンスターがこちらに向かってきている。
「向こうから追加でモンスターが来てるよ」
僕が来ている方を指差し言うと、すぐさまリディルカはそちらの方を向き「お次はこれだ」の声と共に向かってくる複数のグレーラットに青白い光弾を放ち、一瞬でモンスターを氷塊に変えた。
流石は元Aランクパーティーのメンバー、余裕の処理だ。
このパーティーメンバー、皆強い。
リディルカは元Aランクパーティーの名に恥じず、強力な魔法で複数のモンスターを一撃で殲滅してくれるし、ついでに罠も破壊してくれる。
ニーリェはスキルは全然使っていないけれど、攻撃を盾で弾き斧の一撃で屠るという基本戦術がしっかりしていて、純粋に強く頼りがいがある。
シシルーはモンスターこそ倒さないものの、体力を強化してくれたおかげで全然疲れないからガンガン進めるし、所々で武器防具の強化もしてくれる縁の下の力持ち。
そして僕がモンスターや罠を感知するから不意打ちや罠にハマる事もないと。
僕の足取りは軽い。今回は仲間が居て、その仲間が強いという安心感が気持ちを大きくさせていたのだ。
(上機嫌だな)
(だってさ、皆ベテラン探索者で元Aランクパーティーの人までいるんだよ?イケイケにもなるよ)
(でも油断は禁物だぜ?ダンジョンでは不意にやられる事も多いからなぁ)
(ダイジョブダイジョブ。モンスターは余裕で倒せて、僕のスキルで不意打ちも罠も問題なし。これもう勝ちでしょ、勝ち確でしょ)
と調子に乗りながら進んでいると、感知スキルで少し先に人の気配を感じた。その人は一人でなにやら走っている様子。僕は何事かと思い意識を向けてみた。
「なんか少し先で誰かが走ってるみたい。あ!その後ろにモンスターがいっぱい居る。一人でモンスターから逃げてるっぽい」
それを聞いたシシルーは皆に聞く。
「ピンチみたいですけど、どうします?」
ニーリェは即決。
「助けようぜ。ここらの敵なら余裕だし、多少数いても助けれるしさ」
僕もそれに続いて答える。
「僕も出来るなら助けてあげたいな」
ここで助けなくても追われている人は死にはしない。この世界のダンジョンは命が保証されていて、倒されても全ロスするだけで死なないのは分かっている。でも、そんな世界だからこそ人を助けれる人でありたい。僕はそう思う。
皆が助けようとする意思を固めた様子を見てリディルカは笑みを浮かべ、ポーズを決めて言い放つ。
「では助けに行こうか、ヒーローの如く颯爽とな」
僕達が現場に向かうと、そこには初心者装備を身に着けた探索者が全力で走っていた。その後ろにはわらわらとモンスターの群れ、さっきまで倒してきた雑魚モンスターではあるが、数が多い。
その探索者は僕達を見つけるや「助けてくださーい」と叫び僕達の方に向かってくる。
「あ!待って!危ない!!」
僕は気づいた。そのまま探索者が進むと罠を踏んでしまう。どんな罠かは分からないけれど、罠次第ではこの人は倒されて全ロスしてしまうかもしれない。そう思った瞬間、僕は意識するよりも先に体が動いていた。僕はその人を庇い、代わりにその罠を踏んだ。
罠を踏んだ瞬間、景色が変わった。
洞窟っぽい作りから同じダンジョンである事は分かる。だけど場所が違う。さっき居たのは通路だったけれど、今は僕一人で広い空間に居る。
そして僕の目の前には火を纏った巨大なトカゲの姿があった。赤いウロコ、所々から炎が毛の様に生え、熱気を帯びながら僕に威嚇の視線を向けている。大きさも軽自動車くらいあって、今にも僕を飲み込んでしまいそうだ。
一目見て分かる。脅威度はオークの比ではない。
(これ、ヤバくね?)




