第6話 探索者デビュー
シナーブルの洞窟は妙な違和感を感じる構造だった。壁や天井は土と岩で構成された自然物の様な作りなのに、内部構造は人工物の様な人が通りやすい作りになっている。自然の洞窟というと人がまともに通れない構造なんて当たり前にあるのが普通なのに、それがないのだ。
「ふーん、ダンジョンってこうなってるのかー」
僕がダンジョンの中を見渡していると、土の神は急かす様に言う。
(さっそく配信の準備だよ、可奈芽ちゃん)
「あぁそうか、配信するんだった」
僕は店で買った配信用の魔道具を手に持ち眺めてみる。外見は羽が生えたカメラだけど、スイッチらしきものがない。魔法陣的な模様が刻まれていて、ビー玉くらいの魔石らしき石が組み込まれているけれど、使い方はさっぱりだ。
(えっと、これはどうすればいいの?)
(魔石がついているところに手を当てて、配信を始める様に念じてみな)
石の神に言われた通り、魔石が組み込まれている所に手を当てて念じてみると、その魔道具は羽の部分を羽ばたかせて宙に浮き、レンズの部分を僕に向けて滞空した。
(これでいいのかな?)
(うん。配信を始めた事だし。挨拶してからダンジョン探索をはじめよっか。あのレンズの所が目の役割になってるから、そこに向けて挨拶してね)
僕はコホンと前置きの咳をして、宙を浮く魔道具に向けて挨拶してみる。
「今日から探索者になった遊朝可奈芽です。えっと、その、がんばります」
何を言えばいいのか分からず、ぎこちない笑顔と挨拶で配信を始める事になってしまった。ちょっと恥ずかしい。
(なんというか、これって神様以外にも色んな人に見られてるんでしょ?見られてると思うとなんか恥ずいね)
(大丈夫大丈夫。無名配信者の初配信なんてそうそう見られねぇって)
(それはそれで恥ずいなぁ)
そんなやり取りをしつつ、僕はダンジョンを進んでいく。
少し歩いたところで神様が語り掛けてきた。
(そうそう可奈芽ちゃん。せっかくの感知スキル適正なんだし、それ使っていこうよ)
(店で買った腕輪の魔道具を着けて、壁の向こうに何があるのかとか、どこにモンスターが居てどこに罠があるのかとか、集中して見ようとしてみな。感知スキルの<サーチ>が発動するはずだぜ)
確か僕には感知スキルとやらに適正があるらしい。聞いた話だと、適正のあるスキルであれば、魔道具の補助があればすぐに使える様になるとの事。つまり感知系スキルの魔道具を持っている僕はすぐにスキルを使えるらしい。
僕は腕輪を着けて集中する。すると少し先の床から危険そうな雰囲気を感じたり、曲がり角の先に何かが居る様な気配を感じたり、なんとなく分かる様になった。見えてないのに見えている感じ。変な感覚でちょっと酔う。
(ほぇー、これ凄いね。ちょっと頭がグルグルするけど、どこになにがあるのかなんとなく分かる)
そして感知スキルを発動して分かった。ここから少し行った所の曲がり角にモンスターが居る。僕は息を整え剣を構えてにじり寄っていく。
曲がり角の先に居たのはドブネズミの様な姿のモンスター。姿はネズミだが、大きさは中型犬くらいで妙に大きくて気持ち悪い。
そのモンスターはこちらに気付いていない様で尻を向けている。
(あれがモンスター?)
(グレーラット。代表的な下級モンスターだな。そこまで強くないから可奈芽ちゃんでも十分やれるだろう)
魔物は生き物の様な姿と動きをしているが、全く生物感を感じない。不気味の谷現象という奴だろうか、生物でない物が生き物の真似事をしている様な、そんな不気味さを感じる存在だ。
生理的な嫌悪感を感じる反面、生き物じゃないと確信させるそれは喜ばしくもあった。
(これなら抵抗感なくやれそうかな)
そんなモンスターを観察していると、グレーラットは僕に気付いたのか振り向き僕に向かって突撃してきた。
僕は迎え撃つべく、構えたまま相手の動きに集中する。動きはそこまで早くない、十分対応できる。
2~3メートルくらいまで距離が縮まると、グレーラットは噛みつこうと飛び掛かってきた。僕はグレーラットの攻撃をヒョイと避け、グレーラットの背を思い切り切りつけた。するとグレーラットはその場に倒れ、血を流す事もなく、風に吹かれる砂山の様にサラサラと消えていった。そして、その場に砂粒と見紛う程度の小さな魔石を残し、グレーラットは完全に消え去った。
僕は構えと緊張を解き、大きく息を吐いた。
「よし。初のモンスター討伐大せいこーう!」
僕は初のモンスター討伐の喜びを噛みしめガッツポーズを決める。
(おめでとー)
(いいね)
神様も祝ってくれている。お世辞な雰囲気もあるけれど、悪い気はしない。
勝利の余韻も終え、僕はグレーラットが落とした魔石を拾い上げて眺める。
(小さいなー。まぁ最初のモンスターだし、こんなもんなのかなぁ)
(小魔石だねー。透明感もそこまでないから、あんまり価値はなさそう)
確かに、良く見ると透明感がなくて濁っている様にも見える。魔石というのは大きくて透明感がある程価値が高いとの事。なので今手に入った魔石の価値はお察しといった所か。
僕はそのまま順調にダンジョンを進んでいく。感知スキルのおかげで不意打ちの心配もないし、所々にある罠にもひっかからない。ダンジョンに入ってまだ間もないけれど、それでも感知スキルの重要性が肌で実感できた。
僕はまたグレーラットを見つけ、今度は気付かれないうちに背後から一刺し、反撃を許さず止めを刺す。
次に腰の高さくらいの植物のモンスターが蔦をうねらせ襲ってきたが、蔦の攻撃を剣で薙ぎ払い両断。
イノシシの様なモンスターが突進してくるが、それを難なく躱し、剣で切りつけ葬る。
複数を相手にしない様に立ち回っている事もあって苦戦する事なく進んでいく。
(いいねいいね、順調だね)
(どんどん行こー)
順調な進行に神様もイケイケムードになっている。
僕もだんだんと調子に乗って来たそんな時、土の神がふと思い出した感じに言う。
(そうそう、可奈芽ちゃん。ダンジョンでは、たまにそこに釣り合わない特別強いモンスターが出現する事があるから、注意してね)
(へぇー、どんなの?)
僕は質問をしつつも、先へ進むため剣を構えてモンスターが居る所に向かい、そのモンスターと対峙する。
そこに居たモンスターは石斧を持った巨大な豚の獣人。いわゆるオークと呼ばれる存在だろう。そして一目見て分かる。こいつはここで戦う様なレベルのモンスターじゃない。
確信はしているが、一応聞いてみる。
(こんなの?)
(そんなのー)
答えを聞くや、僕は即座にくるりと180度回り全力疾走、逃亡を選んだ。
オークは僕を追ってくる。見た目よりもずっと早い。全力で走っているのに、すぐ後ろを咆哮を上げながらついてきている。
僕は全力疾走しながらも思考を巡らす。
(これどーすんの!?これどーすんの!!?)
(とにかく全力で逃げてー!)
(逃げるしかない)
神様も逃げの一手との意見。言われるまでもなく僕は全力で逃亡を図る。
(あ、逃げる時にも罠には注意し・・・)
と石の神が注意しようとしたその瞬間、僕が踏みしめた床からカチリと不穏な音が鳴った。
(うん、多分今踏んだ)
逃げるのに夢中で注意が散漫になっていたせいで罠を踏んでしまった様だ。
足元の床が光り、僕の体に電撃の様なエフェクトがまとわりつくと、僕の体はピクリとも動かなくなってしまった。ゲームとかである麻痺状態といった所か。
体を動かそうとしても、走っている途中のポーズで止まってしまってどうにもできない。そしてオークはそんな僕との距離を詰めてくる。
(あー、これはもうダメっぽいねー)
(次回に期待だな)
神様も諦めてしまっている。これはもう無理そうだ。
「そんなー」
情けない断末魔を上げる僕に向け、オークは石斧を振り下ろした。
ギリギリで誰かが助けてくれるなんて事もなく、何か奇跡が起きる事もなく、強力な一撃をモロに食らい、僕は倒されてしまった。




