第40話 属性無効
セーナペのダンジョンの中層大空洞。壁と天井がクリスタルで覆われた煌びやかで広大な空間、僕の感知スキルは本気を出せば500メートルくらいをくらい調べる事ができるけれど、それでも果てが見えない。洞窟の中という事を忘れてしまいそうな広さ。視界も開けていて、遮るものはちょっとした岩やクリスタルがある程度。肉眼でもある程度の距離なら見通せそうだ。
「とりま、例の変異種は近くにいないっぽいね」
感知スキルで周囲を調べてみたけれど、変異種の姿はない。
「ロザリンさんが先に倒しちゃったとか?」
「うーん。ロザリン達も範囲内に見えないし、変異種にせよ、ロザリン達にせよ、僕の感知スキルの範囲外だと思うよ」
「オレらよりも早く進んでたんだし、早く倒しすぎて暇になって、奥地の探索に行ってたりしてな」
「それはないだろう。ロザリンならば、このリディルカに勝利宣言するために待ち構えているだろうからな」
「あー、やりそー」
確かに。ロザリンのあの性格だと、先に倒したのならその勝利を見せつけたがるだろう。僕達が来るのを待って「わたくしの勝ちでしてよ」とか言っているのが目に浮かぶ。
僕達は目標である変異種を探し大空洞を進んでいく。
この大空洞には他のダンジョンとは異なるある特徴がある。普通のダンジョンだとモンスターはそいつに見つかった時にこっちに向かって襲って来るもので、見つからない限り向かって来る事はない。けれど、ここでは大空洞内のモンスターが同じく大空洞内の探索者へと遠くからもにじり寄ってくる。殲滅力の低いパーティーだと処理が追い付かず圧殺される難所になる所だ。
だけど僕達なら問題ない。リディルカはモンスターが出てくる度に的確な威力の魔法を放ち倒していく。広範囲火力であればリディルカはこの世界でも上位の実力者。ちょっとした群れが連続で来た所でどうという事はない。むしろ広々としてやり易そうだ。
そして少し進んだ所で、今回の討伐対象ベヒモスメタルゴーレム42の姿が見えてきた。まるで自分こそがこの階層の主かと言わんばかりに堂々と歩いている。
「居た!例の変異種だ」
「お、居たか。じゃあ先を越されてはいねぇって事だな」
「うん。近くに人は居ないっぽい」
「では、先制攻撃と行くとしよう」
リディルカの言葉に「うん」「はい」「了解」と各々賛同し、僕達は変異種へと距離を詰めていく。
近づいていき、ベヒモスメタルゴーレム42の姿が肉眼で確認できる様になると、その巨大さがより実感できた。図体は見上げる程大きく、歩く度にズシンズシンと音が響く。一軒家が歩き回っている様な重量感だ。少なくとも洞窟内に居て良いサイズじゃない。
そんな相手に向けてリディルカは巨大な雷の刃を放ち、直撃させた。
が、ベヒモスメタルゴーレム42は全くの無傷。一切のダメージが無かった。ただヘイトを買っただけらしく、ベヒモスメタルゴーレム42は僕達の方へと突進してくる。
「無傷?となると、これはただの耐性じゃないな。何かある。可奈芽よ、調べてみてくれ」
「おっけー」
自慢の魔法が効かない事に少し驚くリディルカだったけれど、自身の経験からか全くの無傷なのはおかしいという考えに至った様だ。僕はそれに応じて感知スキルの範囲を絞り、相手の詳細を探ってみた。
僕の頭の中に相手のステータスが流れ込んでくる。
膨大な体力、強靭な防御力、意外と低い攻撃力やほぼゼロなマナ容量といった情報が感じ取れ、そして問題の能力。電撃属性の無効が判明した。
ベヒモスメタルゴーレム42の突進を皆で避けた後、僕は告げる。
「あいつ、電撃効かないってさ」
「え!?無効!?耐性じゃなくて?」
無効がよっぽど珍しいのかシシルーは驚愕し、ニーリェが何かを思い出す。
「そういや兄ちゃんが言ってたな。自分らに回される様な強い変異種には特定の魔法が効かない奴もよくいるって」
「こ奴もそのタイプという訳か。では、これならばどうだ」
リディルカは次の一手を放つ。複数の風の刃が込められた竜巻を発生させ、それで相手を包む。
ベヒモスメタルゴーレム42は動きは鈍いため避ける事は出来ず、そのまま風の刃に切り刻まれたかと思ったけれど、相手は尚も無傷。
「え?」
風属性が効かない事に僕は驚き狼狽えた。さっき見た時に風属性無効なんてなかった。何か変だ。僕は慌てながらも再度相手の詳細を探る。すると、さっきまで電撃属性無効だったのが風属性無効に変わっているのが分かった。ついさっき耐性が変わったのだ。
「こいつ風無効に変わってる!」
「ふむ。無効の対象を変えれるのか。なるほどなるほど」
僕とシシルーはどうしよどうしよと慌て気味、ニーリェは真剣な表情で相手を睨み、リディルカは興味深そうに観察している。
そんな僕達にベヒモスメタルゴーレム42は長い鼻での薙ぎ払いをかましてきた。
それをニーリェは盾で受け止め僕達を守る。感知スキルで見たステータス通り威力は意外と低い様で、でかい図体の割にニーリェもそこらのモンスターの攻撃と同じ様な感覚で受け止めれているみたいだ。
攻撃を受け止めたままニーリェは僕達に聞く。
「どうする?リディルカの魔法が効かないんじゃ流石に無理じゃね?」
ニーリェは受け止めた鼻を払い飛ばし、素早い動きで相手の足元へと踏み込み斧での斬撃、即座に戻るヒットアンドアウェイの攻撃を食らわせた。
一応キズはついている。ダメージはある様だ。けれど小さすぎる。果物ナイフでゾウを倒そうとするくらい途方もない。
「オレの攻撃じゃキリねーし。俺達と極炎の光星で戦うにしても魔法無しじゃキツイ。ここはロザリン達と合流して撤退でもいいと思うぜ?」
「待ってくれ。もう一つ試したい」
撤退を提案するニーリェに待ったをかけ、リディルカは再度魔法攻撃を試みる。
今度は風の刃と電撃の槍の2連射。十分な貯めがないから威力はさっきほどではないけれど、別々な属性の連撃だ。
今度はダメージがあった。貯めが少ない分倒せる程ではないものの、キズはついているし少しだけど相手はグラリと怯んだ。
「おー、効いてる効いてる」
調べてみるに、今は電撃無効になっていて、風属性は効く様になっている。風属性が効くときにそれを当てたって感じだ。
「やはりな。奴はこちらが魔法を放つ際の貯めの瞬間にそれに対応した属性を無効にする様だ。だから違う属性をタイミングをずらして撃てば通用する」
リディルカは自分の仮説が通用してご満悦。だけど状況は未だに苦しい。
シシルーは不安そうに言う。
「でも、これでもキリなくないですか?そろそろ他のモンスターも集まってくる頃ですし」
確かにそうだ。この変異種の厄介な点は戦っている最中に他のモンスターが湧いて来る所。実質時間がかかればかかる程強化される様なものなのだ。
ベヒモスメタルゴーレム42の攻撃はたいして脅威ではない。ニーリェであればいくらでも受け止めてくれるだろう。けれどこのまま続けると相手はこの変異種だけとはいかなくなる。
戦いつつもこれからどうしようかと考えていた丁度その時、僕達の背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「むー。先を越されてしまいましたわー」
ロザリンだ。どうやら今到着した様で、僕達が先に変異種と戦っているのを見て敗北を悟り、残念そうにうなだれている。
「まぁまぁお嬢。また次がありますって。今回は大人しくリトライズの皆さんの強さを目に焼きつけましょうや」
「第一リディルカさんに負けるなんていつもの事でしょう?」
「そうそう」
他3人の言葉にムッと頬を膨らますロザリン。
そんな自身の敗北を受け入れている感じのロザリン達にリディルカは一切迷う事なく提案を言い放つ。
「ロザリンよ。こいつを倒すのに協力頼めるか?」




