第4話 異世界に来て初めての朝
僕は異世界で初めての朝を迎えた。
木の匂い、少し埃っぽい部屋、固めの枕、そんな慣れない寝床で目が覚めた。寝ぼけ眼で辺りを見回した後、伸びをしてベッドから降りる。
安宿という事もあって、寝床もそこまで質が良くない。おかげであまりスッキリせず、まだ眠い。僕は大きくあくびをして第一声を発する。
「・・・ねむ。早く生活を安定させて、もっと良い宿に泊まれる様にならなきゃなー。あぁ、ふかふかの布団が恋しい」
僕が声を上げると、待っていましたと言わんばかりに頭の中に声が響く。
(おはよーーー!!!)
寝起きでぽけーっとしている脳内に、突如絶叫の様な大音量が不意打ちをかける。それが目覚ましになり、僕は完全に目を覚ました。
(いきなり何!?何者!?)
癖の強い女性の声だ。特徴的な声だからすぐ分かる。昨日に話かけてきた神々とは別の神、新しい神が話しかけてきた様だ。
(あーしは土の神だよー。よーろしくぅ!)
(そしてあっしは石の神。今日は俺達がお助けするぜ!)
なんかもう一人来た。今度はやかましい感じの男の声だ。昨日は人数のせいでうるさかったけど、今日は個人レベルでうるさいのがきたなと思いつつ、僕は二人の神々に問う。
(昨日の豊穣神さんはどうしたの?)
(可奈芽ちゃんとお話しするのはかわりばんこにしよってなったんだー。だってさ、豊穣神ばっかり可奈芽ちゃんとお話しててずるいじゃん)
(おうともさ。話しかける奴が多すぎると困るって言ってたろ?だから今日は俺達二人が話すぜ。二人だけだし昨日よりかはうるさくないだろー?)
(いや、もうすでに昨日よりうるさいんだけど・・・)
僕の意見でその場が固まり、少し静寂が流れる。
(だそうだ、妹よ)
(あっははー、まいったねー)
昨日とノリが違いすぎる。僕はどうしようと困惑しつつも二人に聞いてみる。
(二人って事は他の神様は見てないの?)
(いんにゃ言葉を伝えてないだけで結構な数が見てるぞ。皆の声を聞かせてやろーか?他の奴らも可奈芽ちゃんと話したがってんぜ?)
(いや、やめとく。大勢の声が聞こえても捌ききれないしさ)
なんだか今日は騒がしくなりそうだと思いつつも、僕は宿を後にする。
今日はさっそくダンジョンに行ってみようと考えている。昨日街に来る前に聞いた話だと、アガットの近くにシナーブルという村があって、そこに初心者探索者がよく行くダンジョンがあるらしいのだ。今日は探索者ギルドへ行って登録を済ませ、装備を整えてそこへ向かうつもりだ。
探索者ギルドの場所は既に把握済み、僕は探索者になるべく探索者ギルドへと向かった。
探索者ギルド。異世界人目線だからだろう。そのレンガ作りの大きな建物にアンティークな雰囲気を感じる。
中もゲームやファンタジー作品でよく見る受付所といった感じで、なんか初見なのに見覚えがあり、つい目新しさよりも親近感が先に来る。
僕はさっそく受付の人に話しかける。
「あの探索者になりに来たんですけど」
「探索者登録ですね。ではこれに必要事項をあちらで記入して提出してください」
受付の人は僕に用紙を渡し、筆記用具が置かれた机で記入する様に促す。なんだかファンタジーって感じしないなぁ、元の世界の役所感強いなぁと思いながら用紙に必要事項を書いていると、頭の中でかまってちゃんなうるさい声が鳴る。
(可奈芽ちゃん可奈芽ちゃん。今日はダンジョン初挑戦って話だけど。どこ行くのー?)
(昨日いろんな神様と話してる時に、この街の近くにダンジョンがあるって聞いたんだ。だから今日はそこに行ってみようかなって)
(ほぉー、シナーブル村のダンジョンか。確かにあそこなら初心者向けで、初めてのダンジョンには最適だ。ベストな選択ってぇやつだな)
(うん、他の神様もそう言ってた)
頭の中でそのような会話をしている内に用紙への記入を終え、用紙を受付の人に提出すると、受付の人は「では少々お待ちください」と言い、用紙を持って奥の部屋へと入っていった。
椅子に座って呼ばれるのを待っている間、また頭の中にやかましい声が鳴る。
(ねーねー、可奈芽ちゃんはなんで探索者になりたいの?よかったら教えてくれない?あーし聞きたいなー)
(んー、特に理由はないんだけどね。僕の世界ではダンジョンなんてなかったし、命の保障もされているって事なら行ってみよっかなって思ってさ。はた迷惑なミスのせいで異世界に転生する事になっちゃったけど、どうせ別の世界に行くのなら、元の世界では出来ない事やりたいじゃん?)
(いいねいいねー、そういうポジティブな考え、あっしは好きだぜ)
(ポジティブってより、やけくそって感じだけどねー)
会話の最中、僕はふと気になった事があり、二人に聞いてみる。
(そういえばさ、この世界ではダンジョン探索を配信するって聞いたんだけど。それってどんなものがあるの?メインの視聴者は神様って言ってたし、今までも色んな配信を見てきたんでしょ?)
(色々あるよー、ダンジョンの深部を目指す王道の配信から、浅い所で探索する気楽に見れる配信。大勢で行ったり一人で行ったり、雑談をメインにしたり特定の地点到達までのタイムアタックを目指したり、あーしらにも好みがあるからねー、色んな神々の好みに合う様に、皆色んな配信をしてるって感じかなー。ちな、あーしはほのぼの雑談系が好きー)
(おう。だから可奈芽ちゃんも好きに配信すると良いと思うぜ?配信の中にはあっしらに見せるためじゃなく人間の出資者に向けて配信してるのもあるしな。神々へ見せるために配信するもよし、同じ人間に見せるために配信するもよしってなもんだ。ちなみにあっしはタイムアタック系がすきだぜ。あの各々が切磋琢磨している感じ、良いよなぁ)
(へぇー、そんな感じなんだ)
なるほど、ダンジョン配信というのはそもそも神々を楽しませるためのもの。そして神々にも様々な好みがあるから、ニーズに合わせるために多種多様な内容の配信がされているという訳か。
そうこう話していると「可奈芽さん。遊朝可奈芽さん」と僕を呼ぶ声。
僕が再び受付の人の元へ行くと、準備ができたのか奥の部屋へと案内された。
そこからの流れはとてもスムーズだった。魔法陣的な模様が刻まれた小部屋に案内されたかと思うと、光が収まるまでそこで立っていてくださいと言われ、魔法陣が光ってその光が収まるまで10秒程度、胸部レントゲン程度の手軽さで僕の顔写真の撮影と適正の測定が終わった様で、小部屋を出て数分で顔写真付きのカードが渡された。僕の世界の市役所よりずっと早い。天晴時短ファンタジーだ。
受け取った証明証となるカードを見てみると、表面には個人情報や顔写真といった運転免許証程度の情報、裏面には六角形のレーダーチャートが描かれている。どうやら僕の特性を表したものの様だ。
(へぇ、レベルだとかステータスとかそういうのはないんだね)
(うーん、他の世界がどうなのかはよく分かんないけど、能力の数値化みたいなものはあーしらの世界ではやってないねー。一応さっきやったように、体のマナの流れを測定して、どういった能力を伸ばしやすいかは分かるって感じかな)
(ほうほう)
書かれている項目は、攻撃、支援、マナ、武装、身体、感知の6つ。見ただけでは何が何やら。僕は攻撃と支援と武装の項目が低く、マナと身体が中くらい、感知だけが高いといった感じ。尖っている。パッと見ピーキーな玄人向けのキャラの様だ。
(これって良いの?悪いの?ってかこの項目ってどういう意味なの?)
(攻撃と支援は攻撃魔法と支援魔法の事だ。つまり可奈芽ちゃんは魔法の適正が低いって事だな。マナは魔法やスキルを使うための力で、それの容量や自然回復能力の事。見たところ、可奈芽ちゃんのそれは中央値ってとこだな。身体は体にマナを纏い巡らせて強化する力で、武装は装備を体の一部としてマナを纏わせて強化する力、この二つが高いと接近戦の適正ありって事になる。そんで可奈芽ちゃんの強みである感知だが、これは自分のマナを使って周囲の状況を感知する能力、つまり第六感って奴だな。ダンジョンの構造は常に変化しているし、罠も凶悪なものが多いから、ダンジョンの構造を把握したり、罠を看破したりできる感知スキルの適正が高い可奈芽ちゃんは重宝されるはずだぜ?)
(へぇ、結構良いんだ。やったね)
そんな会話を頭の中で繰り広げながら、僕は探索者ギルドを後にし、次なる目的地へと向かう。




