第3話 最初の街アガット
アガットの街へと行く道中、僕は話したがりの神々からこの世界の事を色々と教えてもらった。
この世界、というよりこの国というべきか。今僕が居るカーラという国は共和制を敷いている国で、絶対王政の様な絶対的な権力者が居る国ではない事。
今いるカーラ共和国はいくつもの島で構成される島国である事。
この世界の文明レベルが、ゲームとかでよくある様な中世あたりである事。
この世界には、魔王がいたり大きな戦争をしていたりといった世界的な危機は起きておらず、平和な時を刻んでいるという事。
この世界にはマナというものを動力とする道具、魔道具なるものがある事。
この世界の通貨や、挨拶等のコミュニケーション、良く食べられている料理などなど、色々と話していった。
話ながら歩いていると、遠くにいくつもの人工物が見え始めた。様々な建造物が建てられていて、綺麗に管理されているのが遠目でも見て取れ、遠くからでも人の営みが感じられる。
(あれが、アガット?)
(はい。カーラ共和国の各島々や外国へと向かう際の中継地点となる都市。港町アガットです)
アガットへと近づくと都市の全容が見えてくる。建てられているのは中世ヨーロッパ的な雰囲気の建物。昔の雰囲気が残るノスタルジックな街とかいう内容でネット動画とかでこんな感じの建物を見た事がある。色々なダンジョンの中継地点というだけあってとても規模の大きい都市だ。遠目から見ているが端から端までが見渡せない。都市の周りには高い壁などはなく、それが必要のない平和さを物語っていた。
と、いざアガットの街へと入ろうとした時、僕はふと気づいた。
(あ、そういえばお金どうしよう)
とても重要な事なのにすっかり頭から抜けていた。この世界でも生活のためには資金は必要になるだろう。でも僕はこの世界には来たばかりで、すっからかんのすかんぴん。当然備えなどあるはずはない。
(それなら、換金できる魔石を持っていると思うのですが、どこかにありませんか?可奈芽さん)
自分の服をまさぐってみると、ポケットの一つに硬い石の様な質感のものがある。取り出してみると、半透明な紫色のアメジストめいた石だった。
(これが魔石?あのダンジョンで手に入るっていう)
(はい。まぁ魔石だけだとそこまでの大金にはなりませんが)
(いや、中魔石だから結構な金になるだろ)
(いやいや、少ないでしょ)
(でも結構な大金だと思うがなぁ)
どっちつかずの言い合いに僕はツッコミのモーションをかます。
(どっちだよ・・・)
神々で意見が割れていて困惑する。
僕が持っているこの魔石とやらは、はした金にしかならないのか大金に変わるのか、いったいどっちなんだろう。
(だって、せいぜい4ヶ月分の生活費にしかならないのですよ?これから生活をしていくのに十分な資金ではないでしょうに)
(それ一つで4ヶ月分の生活費にもなるのだから、結構な大金だと思うが?)
意見が出揃った事で合点がいった。
(あー、そういう事ね)
確かに、4ヶ月分の生活費って一度に貰う分には大金だけど、しばらくの生活費となると心もとないか。神様からアドバイスを貰えるといっても、こういった認識のズレで意見が違える事もあるのか、面倒くさいなと思いながらもアガットの街へと入っていく。
街中は大層な賑わいを見せていて、人も絶え間なく流れていた。重要そうな大きな多くの建物が建てられ、色んな商品が売られているいくつもの店舗が在り、生前は祭りの時くらいにしか見なかった露店もそこら中にある。文化や文明レベルは違えども分かる。この街アガットは主要な都市の一つだ。そう確信させるくらいの活気がこの街にはあった。
(ほぇー、すっごい)
僕はお上りさん丸出しといった感じでキョロキョロと周りを見ながら歩いて行く。ここまで賑わっている街並みであれば、歩き回っているだけでも十分楽しい。だが観光客気分でいる訳にはいかない。僕には生業が必要なんだ。
(ねぇねぇ神様、魔石を換金する所ってどこか知らない?)
(あー、すみません。私はそういった細かい所はちょっと・・・)
(ワシも街の構造がどうなっとるかは流石に知らんな)
(我も・・・)
どうやら神々のスケールで見ると、都市の中身までは細かすぎて把握できないらしい。配信を見て人間の生活はある程度知ってはいる様だけど、生活そのものはエアプという事か。まぁ分からないものは仕方ない。僕は街の人に換金施設の場所を聞きいてそこへと向かった。
換金所は探索者が良く利用するからか探索者ギルドの向かいにあり、そこでダンジョンで得た魔石や宝とお金を交換できるとの事だ。
僕は換金所に入ると、店主のおっちゃんに「魔石の換金をしたいんだけど」と言い魔石を見せた。
「はい、いいですよ」
そう言うと、店主のおっちゃんはルーペ越しに魔石を見て吟味する。
「ほぅ。これは上物の中魔石だね。これなら5万フィルで買い取るよ」
5万フィル。この世界では1フィル10円くらいらしいから、50万くらいか。なるほど確かに、大金ではあるが、見ず知らずの土地でしばらく生活するには心もとない額だ。
「それじゃあお願いします。あぁ後、宿を探してるんだけど、安めな宿屋とか知らない?」
「それなら、ここを出て右を進んだ突き当りに新入り探索者がよく使う宿があるから、そこ行くと良いよ」
「右いって突き当りね、分かった。ありがとね」
僕は店主のおっちゃんからお金を受け取り、店を後にして紹介された宿に行った。
その宿は一言で言うなれば、可もなく不可もなく。特別豪勢でもなく、かと言ってボロでもなく。一晩停まるならいいんじゃないくらいの塩梅な宿だった。
辺りは薄暗くなっており、そろそろ日が落ちそうな頃合い。異世界に来たばかりでやりたい事は色々あるけれど、見知らぬ土地で根を詰めすぎるのは良くない。今日は宿をとって早めに休む事にしよう。
異世界に来たばかりで直にでもやっておきたい事は他にも色々とあるが、辺りはだんだんと夕焼けに染まろうとしており、そろそろ宿をとっておきたい頃合いになっていた。
今日は異世界に来たばかりなんだ。見知らぬ土地で根を詰めすぎるのは良くない。今日は早めに宿をとって休む事にしよう。
僕は手続きを済ませ、自分の部屋に入り、ベットを椅子代わりに座り深呼吸。寝る場所を確保して気持ちが落ち着いたからか、僕の口からため息が漏れる。
(異世界かぁ。ほんとどうなることやらだよ)
(安心してください可奈芽さん。私達神々がお助けしますよ)
(そうだぜ、俺達が手伝うんだから人生安泰ってもんだ)
(うんうん)
神々はやる気十分といった感じだ。構いたいだけって感じもするけれど、僕を手助けしようとする気概は確かな様子。本人がやりたがっている様だし、今後も所々で神様に助けを求めるとしよう。
(ははは、期待してるー)
明日に備え今日は早めに寝よう。僕は街で買ってきたパンと水で軽い食事を終えると、寝支度をして床に就いた。
(じゃあ、おやすみー)
(お疲れ様です)
(おつー)
(おやすみー)
寝る前の挨拶をすると頭の中で響く声も止み、僕はそのまま眠りについた。




