第29話 なんか感じ悪いよー
次の日。僕達はアメティスタにある探索者ギルド、その中にあるダンジョンの入り口前まで来ていた。
そこには既にディクスの姿があって、他にも数名の人がたむろしていた。多分制服かなにかだろう、皆同じ感じの防具を身に着けている。
「お待たせー、兄ちゃん」
ニーリェが手を振り声をかけると、ディクスは気付き僕達の方に顔を向ける。
「お、来たか、ニーリェ」
「その人たちが今回一緒に行く人達?」
「あぁ。俺の団員達だ」
そう言うと、ディクスは共に居る団員に向けて手のひらをかざした。
それを合図に団員達はそれぞれ自己紹介をしていく。
「ベドゥイと申します。皆さん、協力して変異種の討伐をやり遂げましょう」
引き締まった体の短髪の男性団員だ。早朝にジョギングとかしてそうな、爽やかスポーツ青年といった感じ。
「ミルカです。もし困った事があれば、遠慮なく言ってくださいね」
ショートヘアーの女性団員だ。多分魔導士なんだろう、騎士団にしてはそこまで鍛えられた感じではなく、頭脳労働系の雰囲気が感じられる。
「ニルスンだ」
長髪で丸メガネの男性団員だ。こちらも実務よりも事務をやってそうな雰囲気。目つきが悪く、なんだか創作でよくある裏切り者キャラっぽい見た目だ。
「カルスであります。変異種は平和に暮らす民草にとっての脅威。リトライズの皆さん、自分達と共にその脅威を打倒しましょうぞ!」
生真面目そうで暑苦しそうな男性団員だ。真面目な委員長キャラと熱血漢な体育教師キャラが混じった感じで、関わると話すだけでカロリーが消費しそう。
一通り団員達の自己紹介が終わると、僕達も自分の名を告げていく。
「シシルーです。今回はよろしくお願いします」
「超絶至高の魔導士、リディルカである。我が魔法で見事変異種を倒してみせよう」
「オレはニーリェ。貴方達の団長の妹だ」
「僕は可奈芽だよ。変異種の討伐、頑張ろうねー」
と、一通り自己紹介が済んだところで、ニルスンはハァーと深いため息をつき、嫌味な感じで言葉を漏らす。
「リトライズ、Cランクパーティーですか・・・」
不満そうなニルスン。そんな様子を見て、ディクスは不満の理由を問う。
「そうだが、どうした?」
ニルスンはメガネをクイクイしながら嫌味な感じの話を続ける。
「私としては、ちゃんとAランクのパーティーに協力を仰ぐべきだと思っています。もしAランクが居なかったとしてもBランク。最低限実力が担保された者を協力者として選ぶべきでしょう」
「ちょっとー、なんか感じ悪いよー。せっかく協力しようってんだからさー、皆で頑張ろう、一緒に変異種をぶっ倒そうで良いじゃん」
突っかかって行った僕に、ニルスンはすかさず反論する。
「言っておきますが。変異種の討伐は通常のダンジョン探索とは異なります。変異種とは、いつダンジョンから出てくるか分からない人々にとっての脅威、決して放っておいてはならない存在です。特に、探索者への討伐依頼を出しても生き残る様な厄介な変異種は、何処に現れるのか、何をしてくるのか未知数。一刻も早く討伐しなければならないのです。それなのに、協力者にCランクパーティーを選んで、それでもし変異種の討伐を失敗し、変異種がダンジョンから出たりでもしたらどうするのですか?それで被害が出たら、苦しむのは我が国の国民なんですよ?いくら変異種がダンジョンから出てしまう事が稀だと言っても、手を抜いて良いとは思えません。出来る範囲で全力を尽くすべきでしょう」
スラスラと出てくる言葉に僕は圧倒される。
「う、うぅ・・・」
困った。嫌味な言い方してきたから言い返したろと思ったけれど、こいつの言い分は正論だ。反論できない。
言い返せそうにない僕の代わりにディクスが言い返す。
「言っておくが、リトライズの実力は確かだ。見たところ実力は下手なAランクよりも上、Aランクに拘るよりも実力に拘るべきだと俺は思う。それに、ひょっとしたらそこの可奈芽さんは今回の討伐に役立つかもしれんぞ?」
僕とニルスンは同時に反応する。
「僕が?」
「この人が?」
「あぁ。今回の変異種、報告によると戦っている最中にパーティメンバーがバラバラに飛ばされたという話でな。特殊な能力を有している可能性が高い。もしもの時のために優秀なサーチャーは多いに越したことはないだろう。可奈芽さんが優れたサーチャーである事も、リトライズを選んだ理由の一つなんだよ」
ディクスの説明を聞き、ニルスンは少し考えて言葉を返す。
「という事でしたら、まぁ・・・」
渋々納得といった感じ。
話に参加していない面々はヤレヤレといった表情を僕とニルスンに向けている。
ダンジョンに入る前に少し言い争いじみた事にはなったものの、予定通り僕達はアメティスタのダンジョンへと突入した。




