第27話 もー、なんというか、もー!
「それはそうとシシルー。ちょっと聞きたいんだけどさ」
僕としてはもう一つ聞いておきたい事があるんだ。
「なぁに?可奈芽さん」
「ズバリ!シシルーってリュートさんの事が好きだったりする?」
「ふぇ!?」
シシルーは唐突な指摘に慌てながらも顔を赤らめていく。
「な!なんでそれを!?」
どうやら図星の様だ。シシルーは自らの頬に手を当て、恥ずかし気にモジモジしている。
「二人を見ててなんとなくねー。ま、女の感ってやつかな」
実際は僕が感づいた訳じゃなく、神様から聞いた話だ。事前に昔にシシルーとリュートが配信内でイチャついていたという話を聞いていたからこそ、僕は確信めいた表情で指摘しているのだ。
「そっか、分かっちゃうか」
上を向きフゥッと小さなため息 シシルーはそのまま続けて話す。
「はい。私、ずっと昔からリュートの事が好きなんです」
モジモジしながら答えるシシルー。図星を突かれて恥ずかしい気持ちはあるけれど、隠さなければならない事でもないしな、といった感じか。
「きっかけは何?教えて教えて?」
恋バナという事でウキウキしながら僕は聞き、シシルーは少し照れながらも語り出す。
「昔、私は引っ込み思案で、あまり家から出ず一人で人形遊びをする様な子供でした。皆と一緒に遊びたい気持ちはあったけれど、不安な気持ちが邪魔をして一緒に遊ぼうって言えない、そんな子供。そんな私を、リュートは一緒に遊ぼうって連れだしてくれたんです。それからブレイドファングの皆と一緒に遊ぶようになって、一人だった私の日常は変わりました。最初の頃は話すのもリュートとばかりでしたけど、一緒に遊んでいくうちに他の皆とも話す事が増えて、次第に仲良くなって、ブレイドファングの皆と私で仲良し5人組みたいになっていったんです。リュートは歳の近い子供全員に声をかけていただけみたいで、特に私が特別だった訳じゃないみたいなんですけど。それでも、私にとっては特別でした。一緒に遊んでいくうちに、色々話していくうちに、どんどん惹かれていって・・・」
「ふむふむ、一緒に遊んでいる内に自然にかー。いいねー、そういうの。まさに幼馴染の恋って感じ」
幼馴染のフワフワした恋に胸をキュンとさせる僕だったが、すぐに不満そうな表情に切り替わって、ぶーたれた声を放つ。
「でもさー。つまりシシルーは、好きな人の夢ために好きな人から離れたって事だよね?」
「まぁ、そうですね」
「もー、なんというか、もー!せっかく思い人が近くに居たのにさ、それなのにさ!思い人の夢のために身を引くなんて、ダメだよそんなのー。シシルーは好きって気持ちも伝えてないんでしょ?」
シシルーは悪い事した訳でもないのになんだか申し訳なさそう。
「はい・・・」
「好きって気持ちがあるなら早めに伝えなきゃ。ただでさえブレイドファングは男女一緒のパーティーなんだしさ。急がないと先越されちゃうよ?皆が戻って来てすぐにでも気持ちは伝えるべきだと、僕は思うね」
「で、でも突然好きですって言うのも・・・。ほら、ムードとかもありますし」
「だったら次に会う約束をしておく事。モヤモヤしたまま何もしないのが一番ダメだからね。分かった?」
「あ、はい」
と僕がシシルーの説得をしていた丁度その時、ダンジョンに潜っていた皆が帰ってきた。あの後は得に問題も無かった様で、僕とシシルーが倒された以外は無事な帰還だ。
姿が見えるや否や、僕は手を振り皆の元へ近づいていく。
「おつかれー」
「おっつー」
「待たせたな。可奈芽、シシルー」
「ごめんねー私のせいでやられちゃって」
「こまった時はお互い様ですよ」
と各々言葉を交わした後、リュートは僕に握手を求め、僕もそれに応える。
「リトライズの皆さん。今回は一緒に来て頂いてありがとうございます。ダンジョンの深部での探索が出来たのも、ボスの討伐が出来たのも、リトライズの皆さんのお陰です。俺達だけじゃあボスの討伐なんて到底出来ませんでした。それにフィルシィを庇って頂いて、本当にありがとうございました」
「いいっていいって。僕達もコラボ配信できて楽しかったしさ」
僕は握手に応えて言葉を返すと、クイックイッと顔を動かしながらシシルーに向けてアイコンタクトで合図を送った。
それを察し、シシルーはリュートの傍に寄り、上目づかいで話す。
「ねぇリュート。また皆で一緒にダンジョンに行かない?今日は半端になっちゃったし、別のダンジョンでリベンジ、みたいな?」
そんなシシルーにリュートは爽やかに返す。
「あぁ、また行こう」
リュートは快く同意してくれた。
その答えにシシルーの表情がほころぶと、リュートに追加のお願いを伝える。
「それと、ダンジョンだけじゃなくて、また皆と一緒に遊びに行きたい。昔みたいに、一緒に美味しいもの食べたり、一緒に街の観光したり、私、パーティーは抜けちゃったけれど、皆とはそんな関係を続けていたいんだ」
シシルーは心情を吐露する。
皆とは離れ離れになったけど、関係は続けていたい。昔の様に、たまに一緒に遊びたい。そんな気持ちを。
そんなシシルーにレイラが抱きつき、甘える様に言う。
「もちろんだよシシルー。アタシも昔みたいに一緒に遊びたかったー」
続いてブレイドファングの面々が口を開く。
「私もパーティから離れてしまって、もう会えないのかなって寂しかったです」
「また一緒に街歩きしようぜ、シシルー」
「パーティーから抜けたからって、人間関係まで離れる必要はないと思いますよ」
さらに続いてニーリェとリディルカが口を開く。
「一緒にダンジョン探索に行ったんだから、もう仲間みてぇなもんだ。遊びにいくときにたオレ達も誘ってくれよな」
「うむ。共にダンジョンに向かった者同士が新たな仲間になる。これぞ冒険の良き所だな」
その後、今度いつコラボ配信する?とか、どこに遊びに行こっか?とか、ワイワイと話し、盛り上がる僕達。
リトライズとブレイドファングの皆が話すこの場は、穏やかな空気が溢れ、気さくな笑顔に満たされたのだった。
そんなこんなで。別のパーティーではあるけれど、ブレイドファングの皆は新たな仲間として共に切磋琢磨する事となった。
僕達と別れた後のブレイドファングはスタイルを元に戻し、ゆったりと雑談メインで進める方針となった。仲良く雑談しながらの配信スタイルに戻った事で神様の評価も戻っていき、収入と強化を得た事で、ブレイドファングの配信はだんだんと安定する様になっていった。
相変わらずBランクへの道のりは長そうだけど、とりあえずは探索者を続けていけそうといった感じらしい。
そして僕達リトライズの配信も少しだけ変わった。
シシルーがブレイドファングの皆、特にリュートの話をたびたび口に出す様になった。いつも丁寧な言葉遣いのシシルーが、リュートの話となるとたびたび砕けた言葉遣いに変わる。そんなアクセントが配信に加わったのだった。




