第26話 気にしすぎー!
ダンジョンで倒された事で、僕達は真っ裸で探索者ギルドの帰還地点まで戻される事となった。
僕とシシルーは一糸まとわぬ姿で向かい合う。
「アハハー、やっちゃったねー」
「ですねー」
倒されてしまったものの、気持ちはそこまで重くない。
ソロだったらここで全ての持ち物を失っていたとこだけど、今は仲間が居る。仲間がダンジョンに残っていれば、装備とかを回収して貰って全ロスを回避する事ができるんだ。ニーリェとリディルカが残っているし、ブレイドファングだって一緒なんだ。ボスも倒しているし、戦力は問題ない。僕とシシルーの装備は皆が持って帰ってくれるだろう。
「とりま、出よっか」
「はい」
予め用意していた替えの服に着替え、タブレット型の魔道具をレンタルし、僕とシシルーはその魔道具で今のリトライズの配信を確認する。
魔道具に映し出された映像には、ブレイドファングの皆と共にダンジョンを引き返していくニーリェとリディルカが映し出されていた。
皆は所々でリュートとレイラの感知スキルで周囲を探りながら、ゆっくりと帰路を歩んでいる。皆は無事で、順調に帰還している。ひとまず安心だ。
「戻ってくるのにもう少しかかりそうだし、ちょっと話ししない?ブレイドファングの皆とシシルーって昔どんな感じだったのか、ちょっと気になるんだよね」
僕はシシルーに教えて欲しいなと期待の眼差しを向けた。
対してシシルーはしょうがないなと僕の期待に応え、昔話を始める。
「私とブレイドファングの皆は昔からの友達なんです。私たちは皆、小さい頃から探索者になる事を夢見ていて、昔はよく皆で冒険ごっこで遊ぶ仲でした」
「へぇ、あの4人が幼馴染だったんだねぇ」
「探索者になれる年齢になると、私達はすぐに探索者登録を済ませて、探索者パーティーブレイドファングとして活動を始めました。最初は順調で、Cランクまではすぐだった。けれどそこからは全然で、ボスを堅実に倒したり、ダンジョン奥地の探索を安定させたりができなかった。CランクからBランクの壁はとても高かった。ブレイドファングはCランクで停滞してしまったんです」
(ねぇねぇ神様。CランクからBランクになるのってそんなに大変なの?)
(Bランクに上がれるかどうかが探索者の収入だけで生活できるかどうかの目安だからな。一般的にCランクより上に上がれないなら、探索者を本業にするのは厳しいって言われている)
(なるほどー。そこらがダンジョン配信者として食っていけるかどうかの境目なんだねぇ。専業でやれるかどうかの境目ならそりゃあ高いか)
シシルーは悔しそうな悲しそうな、何とも言えない表情で話しを続ける。
「可奈芽さんもご存じの通り。私は回復魔法が苦手で、少しのキズを治すのにも長い時間が必用になります。だから、私達は回復させようとする度に足を止めざるを得なませんでした。一緒にダンジョンに行くたびに思い知らされた。探索を重ねるたびに痛感した。もし支援が私じゃなければっていっつも思ってた。私が抜けて、私以外の支援がこのパーティーに入れば皆はBランクに上がれるんじゃないかって、ずっと悩んでた」
「そっかー、それでシシルーは自分が抜けようって考えちゃったんだ」
「はい。皆は気にしなくていいよって言ってくれて、引き留めもしてくれたんですけど、私はそれを振り払う様にパーティーを離れちゃったんです。私が抜けて、皆の一流の探索者になる夢が叶うならそれもいいかなって。でも、私が抜けても何も良くならなくて、むしろ悪くなってて」
「そんでリュートに再開した時の気まずさに繋がったと」
シシルーはコクリと頷いた。
(ねぇ神様。シシルーがパーティーに残ってたら、ブレイドファングは今より良くなってたのかな?)
(良くはならないだろーねー。シシルーちゃんが居た頃のブレイドファングって、皆でよく楽し気に話してて、あーしらからの評価はそこそこ高かったけど、ダンジョン探索はあんまし上手くいってなかったからね)
(やっぱ、評価手当だけじゃあ探索者を続けるの厳しい感じかぁ。やるせないね)
「私時々思うんです。あのままブレイドファングに残って、皆で夢を諦めて、探索者だった頃をいい思い出として故郷に帰る。そんな未来もあったんじゃないかなって」
寂しげな表情で話すシシルー。
そんなシシルーに僕は捨てられそうな子犬の様な目を向ける。
「シシルー、探索者辞めたくなっちゃったの?ホームシックっちゃったの?」
僕は辞めないで欲しいを表情で伝える。
そんな僕を見て、シシルーはクスクスと笑う。
「大丈夫。辞める気はありませんよ。リトライズの皆はもう私の大事な仲間。今はリトライズの皆と一流の探索者になりたいと思ってます」
「えへへぇ、よかったー」
「でも、私は考えずにはいられないんです。私が抜けたせいで、ブレイドファングの皆は探索者を辞めるにやめられなくなってるんじゃないかって。私が言った言葉が、私は抜けるけど皆は夢を叶えてねって言葉が、皆を縛ってるんじゃないかって」
どうしても気にしてしまうシシルー。自分はもっと良くできたんじゃないか、もっと良い未来になっていたんじゃないかと、つい思い浮かんでしまうんだろう。
僕はそんなシシルーにビシィと指差し、言い放つ。
「気にしすぎー!」
突然の事に目をパチクリさせるシシルーに、僕はさらに追撃の言葉を投げかける。
「一流の探索者になるのはブレイドファング皆の夢だったんだよね?皆の夢だったから、皆は頑張ってねってエールを送った。そうだよね?」
「はい」
「そんなの普通の事じゃん。ブレイドファング皆の夢だったんだからさ。それで皆が頑張り過ぎちゃって、空回りしちゃってたとしても、責任を感じる事じゃない。どうしても気になるなら、直接会って話してみれば良い。今生の別れって訳じゃないんだしさ。喧嘩別れした訳でもないし、気軽にね」
「ですよね。確かに、私はあれこれ考え過ぎていたのかもしれません。後でゆっくりとブレイドファングの皆と話してみる事にします」
心なしかシシルーの表情は穏やかで、僕との話でシシルーの気が晴れた様に見える。今のシシルーに必要だったのは、気にしすぎても仕方がないよというちょっとした言葉だったのかもしれない。
そんなシシルーに僕は笑顔でサムズアップを向けた。




