第25話 アラクネ討伐
さっきまでは森林浴に丁度いいくらいの森だったけれど、ダンジョンの奥地はまさに樹海といった感じ。周囲は夜更けの様に薄暗く、茂みで視界も悪い。罠は少ないけれど死角が多く、僕の感知スキルで見たところ、その死角に待ち構えているモンスターがチラホラ居るのが分かる。
「ふんふん。所々にモンスターが隠れてるねー。居る場所教えるから先手必勝でやっちゃってよ」
感知スキルが無いと何処からモンスターが飛び出してくるのかとビクビクしながら進むことになるんだろうけど、僕の高精度な感知スキルがあれば問題は無い。待ち伏せしている場所が分かるんだから、こっちから先制攻撃すれば良いのだ。
「茂みにコボルトが隠れてるよ」
僕が指差し言うと、リュートは「任せて」と言い放ち、ブレイドファングの前衛3人は流れる様な動きで茂みに隠れるモンスターに切りかかる。
身軽なレイラが初撃を入れて怯ませ、リュートが追撃を加えて弱らせ、ガランの両断で止めを刺した。
「木の上にムカデっぽいのが居る。下を通った時に落ちてくるかも」
僕が指差し言うと、フィルシィは「打ち落とします」と言い放ち、魔法で石つぶてを出して放ち、巨大なムカデ型のモンスターを打ち落とす。
グネグネと暴れる大ムカデ。それをブレイドファングの前衛3人が囲んで攻撃。手慣れたコンビネーションで幾多の斬撃を食らわせ、モンスターを倒した。
先んじて実力を見せたブレイドファング。
それを見てリディルカとニーリェは感想を口に出す。
「良い連携だ。前衛アタッカーが3人も居るのに互いの動きの邪魔をせず、一人一人それぞれの攻撃を連続攻撃に昇華させている」
「あぁ。秀でた能力はねぇが、パーティーの練度は高い。きっと何度も練習したんだろうなぁ」
元Aランクと元Bランクの賛辞の声。ブレイドファングが褒められて、シシルーもなんだか嬉しそう。
ウキウキなシシルーはリトライズの面々に告げる。
「じゃあ次は、私達の実力を見せる番ですね」
僕達は静かに頷き、構えた。
いつも通り、シシルーが強化し、僕が周囲を探り、ニーリェが前で耐え、リディルカが魔法で掃討していく。
わんこそば感覚でモンスターを処理していく僕達は驚嘆の声を浴びる。
「やっぱり強えぇな、リトライズは」
「だね」
「俺達も負けてらんないな」
そんな調子で、互いの実力を見せあいながら、モンスターを倒して魔石を稼ぎ、時たま宝を回収しながら進んでいく。
そんなこんなで進んでいき、僕達はボスと対峙する所まで来た。
ここのボスはアラクネ。人間の下半身が蜘蛛になっている様なモンスター。巨大で全長10メートル以上はありそうだ。
ボスは単体ではなく周囲の茂みや木々には取り巻きの子グモが隠れ潜んでいる。子グモといっても1メートルくらいはある巨体、それがボスと接敵する事でにじり寄って来ていた。
ボスのフロアという事もあって、周囲の状況もさっきまでとは変わっている。
周囲に生えている木々はボスのサイズに合わせたかの様にサイズが大きく。僕達の頭上には幹と見紛う太さの枝が入り乱れ、取り巻きのモンスターがそれを足場にしてうごめいていた。
接敵してすぐにアラクネは上に飛び上がり、枝を足場に宙を右へ左へと飛び回る。
「アラクネはあの様に動き回り、姿をくらまして奇襲を仕掛けてくる。可奈芽はボスの位置を伝え続けて欲しい」
リディルカの指示に僕はすかさず答える。
「オッケー。ボスの居る所を指差しとくよ」
僕がアラクネの居る所を指差すと、今度はニーリェが構えながら皆に指示を出す。
「このボスは倒すまで取り巻きを呼び続ける。ボスの攻撃は魔法職に任せて、オレ含め、前衛は迫ってくるモンスターの対処を。シシルーは全員の強化魔法が途切れない様に。ロッツは回復に専念してくれ」
ニーリェの指示に「はい」「了解」「うん」同意の声が続き、その声と共に戦闘が始まった。
リディルカとフィルシィは僕の指差す方へ砲撃の様な火炎魔法を放っていく。
枝葉で視界が遮られていてボスの姿は見えないけれど、僕の感知スキルで何処に隠れているかはまるわかり。攻撃の多くは回避されているものの、回避に専念させる事で奇襲を未然に防いでいる上、たまに当たる事でダメージを蓄積させていく。
ニーリェとリュートとレイラとガランの前衛組は後衛組を囲む様に立ち、迫り来る子グモを切り捨てていく。
シシルーは全員に複数の強化魔法をかけ、それが切れない様かけ直しに専念し、ロッツはダメージを受けた前衛をこまめに回復していった。
たびたびアラクネが魔法で岩のトゲを飛ばしてきたり糸を飛ばしてきたりと遠距離攻撃を仕掛けてきたが、僕が事前に知らせる事でニーリェが盾で防いだり、リディルカが魔法で撃ち落としたり、僕が状況を把握する事で対処した。
そこからしばらく攻防が続く。
子グモは無限湧きという事もあって尽きる様子が無い。だけどボスのアラクネは着実に弱っている。動きは鈍り、さっきまで回避される事が多かった魔法攻撃がポンポン当たる様になってきていた。
そして決着の時が来る。
リディルカの魔法が直撃し、樹上を飛び回っていたアラクネは地に落ちた。体をガクガクと震わせ、明らかに弱っているのが分かる。
その隙を見逃さず、リディルカは言い放つ。
「止めだ!合わせたまえ、フィルシィ!」
「はい!」
フィルシィの掛け声と共に、リディルカとフィルシィは魔法を貯めて放った。
2人が放つ2つの火炎。それらは合わさり火力を増し、アラクネに直撃。止めの魔法攻撃を食らい、炎にまみれたアラクネは、ズズーンと重量感のある音と共に倒れ伏せた。
「やりましたね!」
リディルカと共同とは言え、自分の魔法が止めを刺したという事もあるんだろう。フィルシィは喜びの声を上げる。だが、
「まだだ!この場を離れろ!!」
ニーリェの警告が響く。
その瞬間、僕達が居る所の左右に巨大な岩盤が現れ、それらが突進してきた。地属性魔法のグランドプレッシャーだ。
聞いた事がある。モンスターの中には死に際に強力な攻撃を繰り出してくるものが居ると。そして、今しがた倒したアラクネがそのモンスターの一つだったのだ。
ニーリェがすぐに警告してくれたおかげでなんとか間に合いそうだと思ったが、僕は気付いた。フィルシィが出遅れている事に。このままでは左右から迫る岩盤に潰されてしまう。
(助けなきゃ)
そう考える前に体が動いていた。僕は突き飛ばして攻撃範囲から外すためにフィルシィに手を伸ばす。
それと同時に、もう1人の手がフィルシィに向かっていた。
シシルーだ。どうやら、僕とシシルーはフィルシィと助けるために同時に手を伸ばしていた様だ。
「あ」
このままだと1人を救うために2人が犠牲になっちゃうなと一瞬考え間抜けな声を上げたが、時すでに遅し。2人の手に押されフィルシィはグランドプレッシャーから逃れたけれど、僕とシシルーは岩盤にプチッと潰され、ダンジョンから弾かれる事となってしまった。




