第24話 雑談しながら
僕達は話しながらダンジョンを進んでいく。
所々でモンスターも出てきたが、浅い所だからモンスターも強くなく、ここのダンジョンには罠も少ない。僕の優秀な感知スキルも相まって片手間で対処しながら進む事ができていた。
そんな中、レイラが話を切り出す。
「にしても、最近のシシルーってすごいよね。ちょっと前まで駆け出しのDランクだったのに、ボス討伐とかの実績を重ねて、もうBランクに手が届きそうなんだからさ」
「それは他の皆が凄いだけだよ。可奈芽さんが周囲の状況を察知してくれて、ニーリェさんが守ってくれて、リディルカさんがすぐにモンスターを倒してくれるから、私みたいな回復が苦手な支援でもやっていけるんだ」
謙遜するシシルー。それに対し、そんな事ないよと続いて話す僕達リトライズ。
「いやいや、シシルーだって凄いもんだぜ?豊富で強力な強化魔法があるからこそ、ノーダメージで進むって戦略が成り立ってるんだしさ」
「うむ。苦手な事も得意分野で補えば良いのだ。シシルーにはそれが出来る実力があるのだから」
「うんうん。相性が良かったんだよ、僕達」
その後も会話ははずみ、
「え!リディルカさんってあのルガード魔法学校出身のトップだったんですか!?道理で強い筈だぁ」
「ふふん。リディルカは超絶至高の魔導士だからな」
とか
「へぇ、ニーリェさんって騎士の家系出身なんで」
「あぁ。ちょっと事情があってな。探索者になる事にしたんだ」
とか
「ロッツさんは何処の出身なんですか?」
「オベルジーヌです。ブレイドファングの皆さんとはそこで一緒になって、そこからパーティーに入る事になったんです」
それぞれ個人個人の話で盛り上がっていたかと思うと、
「皆は最近話題のあのお菓子、食べました?」
「うん。食べた食べた。美味しいよね、アレ」
「ダンジョン探索終わったら皆で一緒に食べに行かない?」
「良いねー」
といった世間話へと円滑に会話が切り替わっていく。
会って間もない僕達だけど、会話を交えてダンジョンを共に進んでいく事で、すっかり打ち解けていた。
皆普段からよく話しているんだろう。会話に淀みが無い。賑やかで、微笑ましく、それだけでエンタメになりそうな楽しさがそこにあった。
そんな様子を見た僕はある事を確信する。
「ねぇ。ブレイドファングっていつもは一気にダンジョンの奥に突き抜けるスタイルなんだよね?」
僕の質問にリュートはキョトンとした顔で返す。
「あぁ。そうだけど、どうしたんだ?」
「僕思うんだけどさ。ブレイドファングって、お話ししながらゆったり進むスタイルの方が合ってない?皆よく話すタイプみたいだしさ。神様もそんな楽しくお話ししながらの配信を評価してたんだと思うよ?」
僕の提案を聞いたリュートは「うーん」と少し考える。
「やっぱり、そっちの方が合ってんのかなぁ。シシルーがパーティーから抜けて、シシルーの思いを無駄にしないためにって上位ランクになるための努力を続けてきたけど、なんとなく空回りしてる感じはしてたんだよな」
「うん。もし配信の雑談部分が評価されてたんだったら、それを生かすべきだと思う。攻略メインの配信に変えて、評価が落ちて続けるのがしんどくなるくらいなら、雑談メインの配信を続けながら上位ランクを目指した方がブレイドファングに合ってるんじゃないかなって思ってさ。どうかな?」
リュートは即答する。
「そうだな。上位ランクを目指すために気を張っててうまくいかなかったんだ。可奈芽さんの言う通り、今度から、今回みたいにゆっくり話しながら進む感じでいってみようか」
リュートの言葉に「分かった」「了解」「はい」「うん」と言葉が続く。
ブレイドファングの面々も空回りしているという感覚はあったんだろう。元々のスタイルが雑談メインだったという事もあり、すんなりと方針転換は決まった。
そして方針転換が決まるや否や、レイラがシシルーの腕を掴み言う。
「雑談メインでやるんだったらさ、シシルーも一緒にやんない?6人パーティーでも副業込みならいけるっしょ」
僕もシシルーのもう片方の腕を掴み言う。
「ちょっとー、引き抜こうとしないでよー。僕達の大事な仲間なんだからさー」
僕とレイラに腕を掴まれ、ユラユラと体を揺らすシシルー。困りながらも、嬉しそうな表情でアハハと笑う。
シシルーの笑顔につられ、他の皆に笑いが伝播する。
そんな笑顔が溢れる中、リュートが優しくたしなめる様に言う。
「こらこら、レイラ。シシルーはもう新しいパーティーで新しい仲間と頑張ってるんだから、無理に引き戻そうとしたら困らせちゃうだろ」
それを聞いたレイラは「はーい」と言い腕から手を放す。
リュートは言葉を続ける。
「シシルー。俺達も諦めずに一流の探索者を目指すから、お互い頑張ろうな」
「うん。パーティーは違うけど、一緒に一流の探索者になろうね」
シシルーは微笑み、言葉を返した。
もうリュートと再開した時のぎこちなさは無い。きっと皆と久しぶりに話して、気持ちも落ち着いたんだろう。モヤモヤが晴れた様でなによりだ。
そうこうしていると、僕達はダンジョンの奥地の境目まで来ていた。ここからは難易度が上がり、ハイキング感覚とはいかなくなる。
感知スキルで先を見通してる僕は代表して皆に告げる。
「ここから先は奥地だから、気を引き締めて行こう」
僕の言葉に「おう!」「あぁ!」「はい!」「うん!」と声が続き、僕達はダンジョンの奥地へと足を踏み入れた。




