第20話 宴
ダンジョン探索を終えた後、僕達はロザリンに食事にお呼ばれされた。
案内された店はちょっとした祝い事とかで使われる店らしく、個室を貸し切るタイプでちょっとお高めな感じ。料理の値段が書いて無くて自分で利用するとなると不安だけど、好きな物をおごってくれるとの事なので、僕は遠慮なく頼む事にした。
そして料理の注文を済ませると、ロザリンは僕達に向けて話す。
「さてと。お料理が来る前に、リトライズの皆さんに見てもらいたいものがあるんですの」
僕はロザリンに聞き返す。
「見てもらいたいもの?」
「これですわ」
と言うと、ロザリンは配信を見るためのタブレット型の魔道具を取り出し、続けて僕達に向けて手をかざす。
「ご存知、リディルカとわたくしはライバル同士。なので当然、リトライズと極炎の光星もまたライバル。であればリトライズのメンバーもわたくしのライバル同然。ならば、わたくしの真の実力を知ってもらわなくてはいけませんわ」
今度はリディルカの方に向く。
「リディルカも、わたくしの本気の戦いを見るのは久しぶりですよね。わたくし、卒業してからもっと強くなったんですのよ」
「知っている。毎回配信を見ているからな」
穏やかな笑顔をロザリンに向けて言うリディルカ。
ロザリンは少し驚いた表情を見せた後、テレテレと髪をいじる。
「そう、見ているんですのね・・・」
ロザリンはすぐに自身の照れを振り払い、僕にタブレット型魔道具を押し付けた。
「と、とにかく見てくださいまし」
僕達はタブレット型魔道具で極炎の光星の過去配信を見始めた。
映像は最初からクライマックス。今からボス戦が始まろうとしている場面だ。
相手は巨大な蛇型の水龍リヴァイアサン。ボスフロアの大半は池みたいになっていて、ボスはそこに浸かって頭と尻尾だけを出している。
ボスと対峙する極炎の光星。ロザリンはボスを見てニヤリと笑い、言い放つ。
「さぁ、行きますわよ!」
挨拶代わりと言わんばかりにロザリンは火球を放つが、リヴァイアサンはすぐに水の中に潜り回避、火球は池の水に着弾して消えてしまった。
リヴァイアサンは再度頭を出し、ロザリン達に向けて咆哮。すると複数の水の砲弾が宙に浮かび、一斉にロザリン達に襲い掛かる。
「ルドリ!」
ロザリンは双子の片方の名前を言い放つ。するとルドリは魔法で周囲に障壁を張り、水の砲弾を防ぎきった。
リヴァイアサンは尻尾で薙ぎ払いを試みる。
魔法の障壁は近接攻撃を防ぐのには向いておらず、尻尾の攻撃を防ぎきる事は出来ない。このままでは直撃だ。
「ダッド!リドル!」
ロザリンの声と共にダッドが前に出た。そして「フン!」と力強い掛け声と共に丸太の様に太い尻尾の一撃を受け止めた。そしてすぐに、リドルが回復魔法で尻尾の受け止めた際のダメージを回復させる。
予め作戦を話し合っていたんだろう。ロザリン達は最低限の掛け合いでボスの攻撃に対応している。
ロザリンは魔法で炎の刃を放つが、リヴァイアサンは口から滝の様な水を放ち、ロザリンの魔法を消火してしまう。ロザリンは再度魔法を放つが、またもや水に潜り躱される。
リヴァイアサンは再び水砲を放つが、障壁で阻まれ、噛みつこうと襲い掛かるが、その牙はダッドに止められ、リヴァイアサンはダッドに殴り飛ばされる。弾き飛ばせてはいるものの、ダメージを受けている様子は無い。
「これではラチが明きませんわね。アレをやりますわ!」
ロザリンの声に他の3人は頷き、各々構える。
ロザリンは杖を強く握りマナを練って、強い魔法を放つための準備を始める。ルドリは障壁を強化しさらに防御を固め、ダッドは物理攻撃に備えて集中、リドルは即座に回復魔法を放てる様にして待機。
ロザリン以外の3人はリヴァイアサンの猛攻を凌いでいく。水魔法はルドリの障壁で防ぎ、物理攻撃はダッドが壁となり、少しのダメージでもリドルがすぐに回復させる。
そして20数秒後、準備が出来たのかロザリンはニヤリと笑う。
「準備できましてよ!」
ロザリンの言葉と共に、リドルは味方全員に火属性耐性を付与。水魔法を使う相手だというのに水属性耐性を捨てた。
それを確認したロザリンは魔法を発動させる。
ロザリンの頭上にはゴウゴウと燃える熱の塊。それはまるで太陽。燃え盛る光星がロザリンの頭上に顕現した。
熱で空気が歪んでいる。池からぽつぽつと泡が出て沸騰している。茹でられたリヴァイアサンが苦しんでいる。動画で見ても分かる圧倒的熱量。
ロザリンが魔法を発動した瞬間、熱がこの場を支配した。
「バーンフレア!」
ロザリンの言葉と共に、燃え盛る光星はリヴァイアサンに向かって突進していく。
リヴァイアサンは茹でられて苦しみながらも水魔法をロザリンの魔法に撃つが、水魔法は光星に届く前に蒸発して消えていく。焼け石に水どころじゃない。
リヴァイアサンはがむしゃらに抵抗するが、光星の進行を止める事は出来ない。元いた池も蒸発しきって陸になり、リヴァイアサンは水の外へ追いやられた。
そして燃え盛る光星は、そのままリヴァイアサンを押しつぶし決着をつけた。
ここで動画は終わった。
(いやぁー、すごかったねー。水中に居るボスをあんな風に倒すなんて。ファンになる気持ちも分かるよ)
火の神もテンションを上げている。
(だろだろー。上位のボスすらも一撃のもとに焼き尽くす大魔法。あの爽快感。これぞ極炎の光星。これぞ火属性魔法の名手ロザリンだ!)
(ってかリディルカってロザリンさんよりも強いんだよね?パなくね?ウチのメインアタッカー)
(だろうな。ルガード魔法学校って名門らしいし、そのトップとなりゃあ、下手すりゃ世界でも5本の指に入るんじゃねぇか?)
(マジかー、結構とんでもない人が僕の仲間だったんだねぇ)
動画も見終わり、料理も届いた、僕達は雑談をしながら料理を食べていく。
「いやはやー、圧巻だったねぇロザリンさん。リヴァイアサンは火属性が効きにくいから、普通は火属性魔法を使う人は相手にするのを避けるのに、それをあんな風に倒すなんてさ」
「ふふん。そうでしょう?火属性魔法でわたくしの右に出る者は居ませんわ」
「へぇー、ダッドさんの感知スキルって少し先の未来とか見えるんだー。先を読んで戦う格闘家かぁ。いいなー、かっこいいなー」
「いやいや、可奈芽さんの方が凄いっスよ。あんなに早く高精度で周囲の状況を把握できるなんて、そんなの色んなパーティーに引っ張りだこになりますって」
「良いですよねー、回復魔法。私の回復魔法なんて、ちょっとした傷を治すのに10分~20分はかかっちゃいますよ」
「いや、強化魔法で味方を強くして無傷でダンジョン攻略なんてやってるシシルーさんの方が凄いでしょ」
「うんうん」
と戦闘での話題で盛り上がったり。
「え!ロザリンの父親って魔道具のシェア60%のあの会社の社長さん!?」
「えぇ。貴方の装備もうちが作っているものですわ。お買い上げありがとうございますね」
「へぇー、リディルカって昔は清楚なお嬢さん系の口調だったんだー」
「そうですわ。入学して間もない頃はとても可憐でおしとやかなお嬢様でしたの」
「ふ、昔の事だ」
と世間話したりと、皆でワイワイ話しながら食事をしていった。
最初こそツンツンと突っかかって来たロザリンだったけれど、わだかまりも解け、一緒に話しをしながら食事をし、ぐっと仲も良くなった。
ロザリンはツンツンしながらライバルですわと言うだろうけど、僕は思う。ロザリン、ダッド、ルドリ、リドルの4人は友達だ。




