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神様リスナーと転生者  作者: キャズ


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第2話 目覚めて突然うるさいな

 僕が再び目を覚ますとそこには一面の青空があった。体を起こして辺りを見渡すと緑の大地が広がっている、どうやら僕は草原のど真ん中で寝ていた様だ。

 近くに小川が流れているのが見えたので、僕は水を鏡代わりに自分の顔がどうなっているのかを確かめてみた。くりんとした大きな目、真っ白で透き通った肌、赤茶色のショートボブ、元の自分の顔ではないが、僕が設定した通りの容姿がそこに映し出されていた。どこぞの民族衣装の様な服装もなかなかに様になっている。

 僕は表情を変えたりポーズを変えたりで自分の新しい容姿を堪能していく。


「いいじゃんいいじゃん。元の僕も悪くなかったけど、せっかく生まれ変わるんだし、心機一転って感じ。転生はこうでなきゃ。結構ポイント必要だったけどオーダーメイドボディ注文して正解だね」


 と自分の姿に見惚れていると、突然僕の頭の中に女性の声が鳴り響いた。おっとりとした落ち着いた印象を受ける声だ。


(あ、起きたみたいですね。おはようございまーす)


(え?誰ぇ?)


 頭の中に流れた声にとっさに思考で質問すると答えが返ってくる。


(私はこの世界の豊穣神です。異世界から来た貴方を支え導くために貴方の心に直接語りかけています)


(あぁ、あの神々のお告げとかいうのか。つまり貴方がこの世界の事ややるべき事を色々と教えてくれるって事?)


(そうですそうです)


 突然の異世界で一人ぼっちにならなかった事と、サポートしてくれるであろう神が話しやすそうな事に安堵していると、今度は男性の声が鳴り響く。荒々しく豪快な印象を受ける声だ。


(おはよう!俺は祭の神。バッチリ面倒見てやるぜ)


(なんか別の人来た!?)


 唐突に別の神が来た事に困惑しつつも僕は思い返す。そういえば、色んな神様のサポート受けられるって良くない?ってノリで、お告げを貰う神様の項目に大量のチェックを入れたんだった。

 つまり、あの項目にチェックを入れた神々が今の様に頭の中で話して支援してくれるという事だろう。納得と同時に嫌な予感で悪寒が走る。


(おぉ始まっとる始まっとる・・・)

(我は光の神!・・・)

(やほやほー!・・・)


「何これうるさ!」


 頭の中でわらわらと鳴り響くいくつもの声。音量は大きくないが、声が雑音に変わり果てる程の数に驚き、つい感想が口に出てしまった。

 どれだけの数かも把握できないほどの、声、声、声。もはや何を言っているのかも分からない。頭の中で鳴り響いている事もあって、もう頭が痛くなってきた。


(まってまって、ステイステイ。僕は10人の言葉を同時に聞き分けるなんて芸当できないからさ。話すのは一人ずつ。とりえず、最初話しかけてくれた豊穣神さん。どうぞ)


 僕の一声でひとまず頭の中の静けさは取り戻した。その静寂の中で豊穣神が話始める。


(あらあら、大変な事になってますねぇ。こんなに大勢の神々からお告げを受ける人なんて、私初めて見ましたよ)


(って事は、普通はお告げを貰うにしても一人一柱だったりするの?)


(そうですね。普通は一柱のお告げだって受けられないものですし。でも大勢の神の支援を貰ってもこんな風になるって事、説明されなかったのですか?)


 ポイントボーナスの悲劇。豊富な転生特典のポイントと転生前の例の神の説明不足が、頭の騒音という問題を産み出してしまった様だ。なんと不親切な。カスタマーサポートがあれば苦情を書き込んでいた所だ。僕は不満げなうなり声を上げながらうなだれる。

 豊穣神はその様子を察し、子供をなだめる様な優しい口調で言う。


(まぁまぁ、元気出して。今回は私がちゃんとサポートしてあげるからね)


(豊穣神さん・・・。ありがてぇありがてぇ)


 僕は豊穣神の温かみに感銘の涙を流す。流石は豊穣神、ついお母さんと呼んでしまいそうな程の包容力だ。

 そんなやり取りを終えた後、わらわらと集まっていた色んな神々の自己紹介を聞いてから、一番話しやすそうな豊穣神をメインにこれからの方針を話し合う事にした。


(うーん。とりま生活をなんとかしなきゃだよね。どっか住む場所でも見つけなきゃにっちもさっちもいかないし)


 異世界から来た僕は当然ながら天涯孤独、行く当て無し、身分証明なしのないないづくしだ。とにかく生活拠点は確保したい所。

 指針を示す僕に豊穣神は丁寧に答える。


(それなら少し西にいった所、あぁ可奈芽さんから見て左ですね、アガットという街があります。まずはそこに行くと良いでしょう。あそこなら旅人も多いですし、宿もすぐ見つかると思いますよ)


(ふむふむ。いわゆる、始まりの街ってやつだね。分かった、行ってみるよ)


 近くの街の場所も分かったし、僕はさっそく街の方へと歩き始めた。


(おう、アガットは街の各ダンジョン中継地点みてーな所だからな)


(探索者の拠点といったらあの街だよな)


(うんうん、そうだね)


 脳内音声を奏でる神々は、話したがりなのか隙あらば会話に入り込もうとしてくる。一応声が被らない様に気を遣ってくれているから聞き取れない事はないが、やっぱり大勢の声が脳内で流れるのは煩かった。

 そんな神々の脳内音声で僕はある事を思い出す。


(そういえば、この世界にはダンジョンがあって、そのダンジョン探索を配信する文化があるって見たんだけど。それってどういう事なの?ダンジョンなのに命が保障されているってのも気になるし)


(それはですね。この世界では各地にダンジョンと呼ばれる異界化したした空間があり、その中で宝や魔石を回収する事が盛んに行われています。ダンジョンには魔物や罠が大量にあるのですが、そこで命を落とす様な事になっても死ぬ事はありません。私達神々の加護によって自動的にダンジョンの外に帰還する事になります。まぁ、集めたアイテムや持って行った道具等は失う事になりますが)


(なるほどー、死ぬんじゃなくて全ロスか。ローグライク的なあれだね)


(それで、配信というのは、そのダンジョン探索の様子を配信して私達神々に見てもらおうというもので、要は神々への捧げものとして配信している訳です。捧げられた配信の内容次第で、追加の報酬や様々な加護が受けられたりもしますよ)


 変な文化だと思ったが、神事の類だったか。この世界の人からすれば、歌ったり踊ったりを捧げる方が変な文化に見えるのかな?そんな事を考えつつも、僕は豊穣神に質問する。


(そのダンジョンを探索するの。探索者っていうのかな?僕もなれたりする?)


(なるのはそう難しくないのですが、生活していけるだけの稼ぎを得ようとしたら大変といった感じですね。なる敷居が低い分、ダンジョンの浅い所で手に入る宝や魔石の価値は低いですし、競合する人が多いので、配信の人気で利益を得るのも難しい様です)


 死のリスク無しでダンジョン探索ができるというと気楽に探索者をやれる印象だったが、それはそれで世知辛い事情がある様だ。まさに動画配信者って感じ。


(あぁ後さ、さっきから皆やたらと僕と話そうとしてる感じだけどさ。神のお告げってこんなに話し続けるものなの?困った時に、あそこに行けばいいとか何々をしろとかなんとか、アドバイスだけをして去っていくイメージだったんだけど)


(それはですね。この世界の神々は人の子と話したいという欲求が溜まっているからです。私達は普段から人の子が奉納してくれる配信を見ているのですが、それはあくまで映像が届いているだけ、こちらで何を言おうと人の子らに届く事はありません。私達は映像を見ながらあんな事を言いたい、こんな事を伝えたいと、伝えたいのに伝わらないモヤモヤとした気持ちで日々配信を見ていた。そんな時、可奈芽さんという私達の声が伝わる人が現れた訳です)


(そっか。普段は奉納されてる動画を見ているだけで、コメントをしても伝わらなくて寂しいなって思ってたら、異世界からコメント返ししてくれる人が来てはしゃいじゃってると)


(あはは、お恥ずかしながら)


 僕は顎に手を当て少し考えると、頭の中でわいわいやっている神々に告げる。


(僕はこの世界に来たばかりでまだ右も左もわからないんだ。だから色々と教えてほしい。街につくまでに色んな事を話して教えてくれると嬉しいな)


 僕の言葉に頭の中の神々が沸いた。

 困った時には呼んでくれだとか、ダンジョン探索のサポートなら任せろだとか、神々が各々自分の得意分野をアピールしてくる。最初は煩くてうっとおしく思えたけれど、今は突然有名人になった気分で悪い気はしない。自己肯定感が満たされるのを感じる。

 僕は神々と話ながらアガットという街へ向かい歩いて行く。前途多難ではあるけれど、少なくとも退屈はしなさそうだ。

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