第15話 スラーク遺跡のダンジョン
次の日。僕達はオバランの中央に鎮座する遺跡、スラーク遺跡へと向かった。
オバランのダンジョンは遺跡の中にあり、オバラン支部の探索者ギルドはその遺跡の前に建てられている。その遺跡は観光目的の一般公開もされていて、観光の受付も探索者ギルドと同じ建物で行われている様だ。
今日はダンジョンに行く前に、少し遺跡の見学をする予定。僕達は見学の受付の方に向かっていると、横からロザリンの声が飛び込んでくる。
「あらあら、リディルカ。そちらはダンジョンの受付ではなくてよ。それとも最高の魔導士になる目標は諦めたのかしら?」
ロザリンの背後には同じパーティーだろう人物が3人。一人は前に会ったダッドという男。他二人は双子の様だ。瓜二つな顔をしていて、顔や体格は中性的で性別は分からない。
装備を見るに、ロザリンが攻撃魔法系の魔導士、双子が支援系の魔導士で、ダッドが武闘家系の前衛といった所か。
挑発的に言ってきたロザリンに、リディルカは気軽な感じで返す。
「やぁロザリン。ダンジョンに行く前に、少し遺跡の見学をと思ってな。ダンジョンは見学が終わった後に行く予定だ」
気さくに答えるリディルカ。それが気に入らないのか、ロザリンはツンツンとしている。
「ふん。随分と余裕ですこと」
そんな態度を見せるロザリンにダッドは言う。
「お嬢。素直に言えばいいじゃないっスか。憧れのリディルカさんには自分の目標にふさわしい人でいてほしいって。また学生時代の時の様な関係になりましょうって」
「ちょ、黙りなさいダッド!」
ダッドに続いて残りの双子も言う。
「そうそう、今日オバランのダンジョンに行くのを決めたのも、お嬢がリトライズの配信を見て、今日にここに来るって分かったからでしょう?」
「お嬢もさっきまでずっと、まだ来ませんの?まだ来ませんの?ってソワソワしながら待っていたじゃないですか」
「もー、貴方達までー」
パーティーメンバーに気軽な感じであれこれ言われ、ロザリンはそれに顔を膨らませて不満の意思表示。
ロザリンの事をお嬢と呼んでいる事から、他3人はロザリンよりも下の立場みたいだけど、発言に遠慮する様子は無い。立場は違えど言いたい事を堂々を言える関係らしい。
そんなわちゃわちゃしているロザリンに僕は呆れた様子で聞く。
「で、結局何の用なの?まさか、わざわざリディルカにしっかりしろと発破をかけに来たの?」
ロザリンは胸を張って答える。
「当然ですわ。リディルカはわたくしのライバル。超えるべき壁でしたのに。それが勝手に低くなっているなんて、許せませんもの」
「あ、そこは素直なんだ・・・」
素直になれないタイプなら、もっとツンデレ的な事答えが返ってくるかと思っていたけれど、変な所で素直だ。
ロザリンはリディルカをビシィと指差し言い放つ。
「わたくし達のパーティー、極炎の光星は今Bランク。後3回の上位ボス討伐実績があれば、Aランク昇格の審査が受けられますの。リディルカも早くAランクパーティーに戻ってくださいまし、貴方にはそれだけの実力があるのですから」
そう言ってロザリン達はダンジョンへと向かっていった。
そんなロザリン達を見送り、シシルーとニーリェは感想を話す。
「うーん。真面目そうな人ではあるんですけどね」
「悪い奴じゃねぇけど、融通が利かねぇって感じだな」
リディルカは申し訳なさそうに僕達に言う。
「会うたびに突っかかって来ているが、あまりロザリンを悪く思わないでくれんか?あの子も不器用な性格なのだ」
僕は気にしてないよと言わんばかりに笑い、答える。
「僕は結構好きだよ、ああいう感じの人。空回りもしてるけど、頑張っている人は応援したくなるよね」
シシルーもニーリェも静かに頷き、同様の考えである事を示した。
そんなやり取りを終えた後、僕達は予定通り遺跡の見学へ向かった。
僕は遺跡とかにはあまり興味はなかったけれど、シシルーははしゃいで所々指差しながら早口で語っている。リディルカは感心を持って聞いているが、ニーリェは何が何やら分からないといった感じだ。
リトライズの皆と石造りの遺跡の中を見て回る最中、僕は神様に聞いてみた。
(ねぇねぇ、神様。ロザリンのパーティーがどんなのか知りたいんだけど、だれかロザリンの配信とか見てたりしない?)
その問いに火の神が応える。
(俺はよく見てるぜ。ロザリンのパーティー、極炎の光星はとにかくロザリンの高火力の炎魔法が印象的だな。武闘家が感知スキルで周囲を探りつつモンスターの攻撃を捌き、ロザリンの火力でモンスターを仕留める。2人の支援はそれを徹底的にサポートするって感じで、良くも悪くもロザリンの火力ありきのパーティーだな)
(ほうほう、リディルカのライバルって言うだけあって、ロザリンさんってやっぱ強いんだね)
続いて本の神が語る。
(それと、ロザリンと他の三人は主従関係ではあるんだけど、それを感じさせない軽いやりとりとかも人気だよ。人気と実力、両方を備えた良いパーティーだねー。火の神もそうだけど、ファンになってる神も結構いるよー)
(へぇ、ロザリン達、配信でもあのノリなんだ)
一通り見学した後、僕達はダンジョンへと向かった。
構造は遺跡を模した構造になっていて、石造りの壁や床や天井、壁画等もあり、ついさっき見た様な光景が広がっている。だけど、遺跡とは違い複雑に入り組んでいて不規則、AⅠ生成画像の様な妙な不気味さを感じさせる。
入ってすぐにニーリェは僕に聞いてくる。
「どんな感じだ?可奈芽ちゃん」
僕は感知スキルで周囲を把握した。
モンスターの数は少ないものの、やたらと罠が多い。しかも床だけではなく天井や壁、宙に浮いているものまである。
「うん。聞いてた通り、めっちゃ罠あるね。なんか罠のある場所も変則的だし」
僕はさらに意識を集中させ、罠の性質も暴いていく。
罠は多いだけでなく、一つ一つが凶悪みたいだ。一つの罠で複数の効果が複合している罠や、食らうと魔法やスキルを封印される罠、広範囲を巻き込む攻撃を射出する罠、魔法を撃つ等の特定の行動に誘発して発動する罠もある様で、シナーブルでリディルカがやった様な魔法で罠を破壊するごり押しはここでは出来そうにない。
この世界のダンジョンはただ強いだけでは攻略できないというのがよく分かる。
「でも、可奈芽さんが居れば大丈夫ですよね?」
シシルーが僕に期待の眼差しを向け、僕はシシルーにサムズアップを向けて言う。
「もち!」
「うむ。可奈芽が居ればこのダンジョンもおそるるに足らず。いざ行かん」
リディルカの言葉と共に僕達は探索へと向かった。
罠は非常に凶悪で一度でも食らったら終わるレベルのものではあるものの、僕にかかれば全てお見通し、モンスターが強くない分、ここの方が僕としては有難い。
僕達は順調にダンジョンを進んでいき、3層へと向かった。今日は3層で探索を行い、魔石や宝を探していく予定だ。
そして3層に到着した所で、僕の頭の中に火の神の声が響く。
(大変だ!ロザリンがパーティーと離れ離れになった!)
(はいぃ!?)
なにやらロザリンの所で何かがあったらしい。




