第13話 ツンツンお嬢ロザリン
港町オバラン。カーラ共和国は複数の島によって構成された国であり、その内の一つの島にある港町だ。アガットと同じくらいの規模の大きな都市で、真ん中に古めかしい巨大建造物が鎮座していた。
僕達リトライズはその港町にやって来た。
僕は船から降り、港から出ると伸びをする。
「ふぃー、ついたー」
頭の中で豊穣神の声が響く。
(今日はオバランのダンジョンにいくのですか?)
(うん。リディルカがさ、僕達ならここに挑戦できるんじゃないかって)
(なるほど、オバランのダンジョンは強力な罠が発生する事で有名な所。君の感知スキルの性能ならいけるとふんだか)
光の神が喋り、続いて土の神が言う。
(おー。期待されてるねー、可奈芽ちゃん)
オバランの都市の真ん中には都市を象徴する巨大遺跡があり、その遺跡の中にダンジョンがあるらしい。今回はそのダンジョンに潜る予定だ。
オバランのダンジョンは罠の強力さが有名なダンジョンで、引っかかったら即アウトな罠が多く発生するため、感知スキルに秀でた者がメンバーに居なければまともに探索できないとの事。つまり僕に期待しているという事なのだ。ちょっぴり照れちゃうね。
僕達は到着の余韻に浸りながら気軽にだべる。
「小腹も空いてきたし、どっか食いに行かね?」
「さんせーい。何食べる?港町だし、やっぱり海鮮とか?」
ニーリェの提案に僕はノリノリで回答。
「アハハ、可奈芽ちゃん。港町に行ったら海鮮なんて言ってたら、私達海鮮ばっかり食べる事になっちゃうって」
「だったらこのリディルカに任せるが良い。手頃でいい店を知っている」
シシルーが軽いツッコミを入れた後、リディルカが行先を決めた。
「あっ、そうそう、せっかくオバランに来たんですし、ダンジョンに行く前にダンジョンの外の方、遺跡も見て回りたいんだけど。良いですか?」
「観光かー。いいねー、行こ行こー」
シシルーの提案にも僕はノリノリで賛同。
そんな他愛のない話をしていると、背後から僕の知らない女性の声が投げつけられた。
「あらあら、そこに居るのはリディルカじゃありませんか」
どうやらリディルカの知り合いの様だ。
振り向くと金髪で青目で左右にドリルを付けた様な縦ロールの、いかにもでコッテコテのお嬢様な少女がそこに居た。とても気が強そうで、ハキハキと物を言いそうな雰囲気がある。
「おぉロザリンではないか。久しいな」
僕はリディルカに聞いてみる。
「知り合い?」
「うむ。この子はロザリン・ベルオーンこのリディルカの魔法学校時代の友人でな」
リディルカの友達と聞いて僕達は「僕は可奈芽。よろしくー」「ニーリェだ。よろしくな」「シシルーです。よろしくねー」と自己紹介。
友人として紹介したリディルカだったが、ロザリンは即座に否定する。
「友人じゃありません、ライバルですわ。ラ・イ・バ・ル。貴方は学校で常に1位でわたくしは2位を取り続けて、ずっと競い合っていたではありませんか」
「そうだったなぁ。懐かしい。試験の時も、試合の時も常にこのリディルカと競い、切磋琢磨していたものだ」
ロザリンは突っかかってはくるものの、リディルカに対する悪感情は感じない。友人でもあり、ライバルでもある関係と言った所か。
ロザリンとリディルカが話し合っている中、今度は男の声が聞こえてくる。
「お嬢ー。いきなりどっか行かないでくださいよー」
筋骨隆々でガタイの良い坊主頭の男性が慌てた様子で向かって来る。目線はロザリンの方に向いており、このお嬢というのはロザリンの事みたいだ。
ロザリンは自分の元に駆けて来た坊主頭の男にツンとした態度で言う。
「仕方ありませんわ、わたくしの宿敵、リディルカを見かけたのですから。ここで一言言っておかなければ」
「一言?何だね?ロザリンよ」
リディルカが聞くと、ロザリンは人差し指をビシィと突き付けて言い放つ。
「貴方はこのようなDランクパーティーに居るべき人ではありません。わたくしのライバルなのですから、この様なパーティーなんて辞めて、元いたAランクパーティーの様なもっとふさわしい所に・・・」
坊主頭の男がロザリンの言葉を「お嬢、ストップストップ。他のメンバーさんに失礼っスよ」と止めて頭を下げる。
僕の隣ではニーリェが「なんだぁ?やんのかぁ?」と挑発に乗り、シシルーが「まぁまぁ」と宥めている。
坊主頭の男はペコペコ頭を下げながら言う。
「うちのお嬢が。申し訳ありやせん。お嬢はそちらのリディルカさんが大好きなもんで、どうもリディルカさんの事になると暴走しがちで」
ロザリンはプンスコと怒りを坊主頭の男にぶつける。
「ちょっとダッド!?何を言ってますの!わたくしとリディルカ・ハーヴェントはライバルで・・・」
「いやだって、お嬢っていっつもリディルカさんの話してるじゃないっスか。学生時代はこうだったとか、最近こんなことやってたとか、配信だって毎回欠かさず見てるし。今文句言ってるのも、リディルカさんはもっと凄いんだって言いたいんでしょう?」
図星を突かれたのが恥ずかしいのか、ロザリンは顔を真っ赤に赤らめた。
そして再び人差し指をビシィと突き付けて言い放つ。
「と、とにかく!リディルカはもっとふさわしい所に居てくださいまし!でないと、ライバルであるわたくしの格まで下がってしまいますわ!」
そう捨て台詞を吐いてロザリンは去って行った。
僕達は「なるほどツンデレ系か」「何だったんだアイツ」「やれやれ」「素直じゃない感じですね」と各々感想を言う。
残されたダッドと呼ばれた坊主頭の男は、再びペコペコと頭を下げて言う。
「本当に申し訳ない。普段は聞き分けも良い方なんスけど。リディルカさんの事となると、ね」
「分かっている。ロザリンは昔から素直になれない子だった。でも根は悪い子じゃない。だろう?」
リディルカが答えるとダッドは静かに頷き、「では失礼しました」と言って「待ってくださいよ、お嬢ー」と言いながら去って行った。
僕は心の中で予感を呟いた。
(なんだか、後でひと悶着ありそうだねー)
(ですね)
(だねー)
(だな)




