第11話 固定パーティーを組もう
「ひゃっほう!やったね!ざまぁみろ!」
僕は倒されサラサラと消えているフレイムリザードを見て元気を取り戻し、はしゃいでピョンピョンと跳ねながら、ウッキウキなテンションで言い放った。
そんな僕の元に皆は集まり、言葉を投げかける。
「ボス相手によく頑張ったな」
「心配したよー」
「無事で何よりだ」
ボスを討伐してはしゃいでいる中、神様が僕に語りかける。
(フレイムリザードが居たところを見ると良い。奴の核となっていた魔石と、運が良ければ宝が落ちているはずだ)
(マジ?初お宝が期待できるって事?」
僕は期待に胸を膨らませてボスが居たところに目を向けると、中魔石ともう一つ、剣が一本落ちていた。魔石が埋め込まれ、魔法が込められていそうな模様が刻まれていて、普通の剣でない事は一目で分かる。
これは大層な価値のある品に違いないと思っていたが、
「あっ」
「あっ」
「あっ」
その剣を見た仲間の3人は同時に同じリアクションを取る。何なのかは分からないけれど、余り良い反応ではない事は分かる。
僕は首を傾げて神様に問う。
(なに?あって。どうかしたの?)
(あー、あれは加護の剣だねー。ボクたち神々の評価や視聴率の分だけ強化されるって代物なんだけど、初心者だと神々に評価されてないから弱いし、神々から評価される様な探索者はもっといい装備を買えるから、使い所が無い感じらしいね。珍しい宝ではあるんだけど、弱くて使い道がないし、分解して魔石を取り出すのもタダじゃないから、無料でなら引き取ってくれる程度の物らしいよー。なまじ珍しいから、出るとかえってガッカリしちゃうお宝って感じかなー)
(いわゆるハズレアってやつなのか。そういうのもあるんだね)
ニーリェはハズレアの処遇をどうするか決めようとしている。
「加護の剣かー。どうする?持って帰っても仕方ないし、捨てていくか?」
よっぽどの代物なんだろう。持って帰らず捨てていく事が選択肢に入ってしまっている。
「ですね。荷物がかさばっても困りますし」
「いやはや、せっかく宝が出たのに残念だ」
二人も捨てる事に賛成の様子。このままでは加護の剣とやらはここに放置される事になるだろう。
「じゃあさ、これ貰っていいかな?」
「あぁ良いぜ。どうせ捨てるもんだしな」
ニーリェは気軽に答えた。
どうせ捨てようとしてた物。欲しいと言うのなら否定する理由はない。他二人も頷き了承の意を示す。
「やりぃ」
僕は加護の剣を手に取り眺める。
最初に出たお宝は価値の低いハズレア。でも、それがかえってラッキーだったかもしれない。価値が無いからこそ、最初に出したお宝である加護の剣を自分の物にできた。
強いか弱いかじゃない。この加護の剣は僕にとって初めてのお宝、思い出の品なんだ。それを捨てて帰ったなんて事にはしたくはない。
綺麗な模様が刻まれ、魔石が組み込まれた柄の剣。僕はそれを眺めて余韻に浸る。
魔石も回収し、ボスのフロアから出ようとした時、僕はふと思い出す。
「そう言えば、あのモンスターに追われてた人ってどうしたの?」
僕の質問にシシルーが答える。
「それなら、リディルカさんが帰還の宝珠を渡して帰らせましたよ」
「そっか、無事に帰る事が出来たんだ。なら良かった」
帰還の宝珠というのはダンジョンから帰還するためのアイテムだろう。名前の響きで判断できる。助けた探索者の安否も分かった。これで憂いは無い。
その後、僕達は早めに帰る事にした。
中魔石を手に入れて軽めの探索としては結果は上々、僕が初心者という事もあり、安定を考えての決定だった。僕としても、ボス相手に避け続けて正直疲れていたからありがたい。
ダンジョンから帰還した後、僕達は探索者ギルドの休憩所でジュースで祝杯を挙げていた。
リディルカは話を切り出す。
「中魔石を手に入れ、加護の剣とはいえ宝も出た。浅い層の探索としては上出来であるな」
ご満悦な様子のリディルカ。シシルーはそんなリディルカに尋ねる。
「でも良かったんですか?帰還の宝珠の値段を考えると、中魔石やあの量の小魔石だけだと赤字ですよね?」
少し心配そうに聞くシシルーに、リディルカは全く気にしていない様子で答える。
「よいのだ。このリディルカが探索者をやっているのは、金のためだけではないのだからな」
気前の良い笑顔を見せるリディルカ。そんなリディルカに向けてニーリェが語る。
「それにしても、流石はAランクパーティー青き双翼の元メンバーだ。可奈芽さんが罠で転送された時、すぐにボスの所に転送されたって分かったし。助けに行く時も進路上の罠やモンスターを魔法で蹴散らしながらごり押しで進んでいくし、リディルカさんが居なかったら可奈芽さんも助けられなかっただろう」
ニーリェの賞賛の声にリディルカも自慢げだ。
「ふふん、当然だ。このリディルカは超絶至高の魔導士だからな」
僕はそんなリディルカに素朴な疑問を投げかける。
「なんでリディルカさんは、僕みたいな初心者と一緒に探索に行ってくれたの?貴方の実力だったら、もっと凄い人とパーティーを組めるんじゃない?そりゃあ、あんなタイミング良くパーティメンバー探している人が居たら、運命的なものを感じるのも分かるけどさ。もっと上を目指したいなってならなかったの?」
僕の質問にリディルカは少し悲しそうな表情を浮かべる。
「色々あるのだよ、色々とね」
リディルカは何かに思いを巡らしている様だった。きっと何か事情があるのだろう。詮索はすまい。
シシルーは話題を変えようと別の話題の種をまく
「そうそう、今回の探索での評価手当って結構多かったよね。何か特別な事でもあったのかな?」
ニーリェは顎に手を当て、首を傾げて考える。
「確かになぁ。人助けをしたりボス討伐をしたりすりゃあ手当が増えるもんだけど、それにしても多かった。パーティを組んでから体の調子も良かったし、神々の加護もいつもより多く貰ってる感じだった。この中に、神様に特別寵愛されている人とか居たりしてな」
「アハハ、まっさかー」
僕はすっとぼけた。
今回の評価手当が多くなったのは多分僕の影響だ。僕が神様と話しながらの配信を行っているというのが高評価に繋がったんだろう。だけど僕はそれを言う気はない。
(言わねえのか?可奈芽ちゃん。俺達と話しができるって事)
(うん。この世界でも転生とかはなかなか信じられない事っぽいし、みだりに言いふらすのも何だしね)
(うむ。それが良いだろう。この世界で転生者は異質な存在だからな)
僕が転生者だと伝えたところで特に良い事は無いし、場合によっては厄介事に巻き込んでしまうかもしれないんだ。だったらこの事は言わない方がいいだろう。
その後、僕達は雑談を続けた。
趣味の話、好きな食べ物の話、最近行った所の話などなど。他愛のない話。
そしてしばらく話をしていると、外の景色は薄っすら暗くなっているのが分かった。そろそろお開きの頃合いだ。
日が暮れているのに気づいたシシルーは皆に言う。
「日が暮れてきましたし、そろそろ」
「お、そうだな」
お別れの時。今はまだ臨時のパーティでしかない。ここで別れたら皆は仲間から他人に変わってしまうのだろう。
神様は僕に聞いてくる。
(どうするんだ?固定パーティのお願いをするなら今だぜ?)
(そう、だよね)
もしかしたら、今後もっといい仲間と出会えるかもしれない。固定パーティーは何回か臨時パーティを組んで、ダンジョン探索に慣れてから決めた方が良いのかもしれない。
でも、僕は皆と最初に会った時の運命的な何かを信じたいと思った。
僕は皆に告げる。
「ねぇ、僕と固定パーティを組まない?」
「よければ、私と固定パーティーを組みませんか?」
「オレと固定パーティ組まね?」
「このリディルカと固定パーティーを組まんか?」
どうやら皆も同じ考えだった様だ。またタイミングが被った事に僕達はクスクスと笑い合う。僕達は空になったグラスで乾杯し、皆の意思が一つである事を示した。
こうして、可奈芽、シシルー、ニーリェ、リディルカの4人は固定パーティーを組み、これからも一緒に活動する事を決めたのだった。




