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神様リスナーと転生者  作者: キャズ


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第10話 避けて避けて避けきる

 僕は目の前の火属性オオトカゲと睨み合う。

 シナーブルのダンジョンは一定階層ごとにボスが出現する場所があるという話を聞いたけれど、どうやらここがそうだったらしい。

 多分僕はワープ罠的なものを踏んでしまい、運悪くボスの前に飛んできたんだろう。今日は余裕で帰還できると思ったのに、ヤレヤレだ。


(ふむ。こいつはフレイムリザードだな。シナーブルのダンジョンに出現するボスモンスター。ボスとしては弱い部類だが、初心者が一人で倒せる相手ではない)


(だろうね。僕勝てる気しないもん)


(今配信見てみたけど、他の3人は可奈芽ちゃんを助けに行くってさ。ボス部屋への転送って事は分かったらしいから、ここに向かっているみたいだよ)


(そっか、神様は配信を見れるから向こうの配信も見れるんだね。こっちに来てるって事はここで待ってたら助けが来るのか)


 僕はフレイムリザードと対峙しながら感知スキルで周囲を探る。

 ここはボスとの決戦場みたいな感じなのか、この広い空間に戦闘の邪魔になる罠の気配はなかった。フレイムリザードの他にモンスターも居ない。今は一対一だ。出入口は離れた所に一つだけで、逃走するとしたらそこまで逃げなきゃいけない。

 僕は対処法をじっくり考えたかったけれど、相手はモンスター、当然待ってはくれない。フレイムリザードは咆哮を上げ、何かをしようとしている。


(可奈芽ちゃん気をつけな、魔法を撃ってくるぜ)


(魔法!?こいつ魔法使えんの!?)


 フレイムリザードの眼前に火球が作り出され、僕めがけて射出された。


「うわっと!」


 僕はサイドステップでそれを躱す。中学生のドッチボールくらいの速度、集中していたら十分に避けれる速さだ。


(また来るぞ!)


 フレイムリザードは再び咆哮を上げ、今度は二つの火球を飛ばしてくる。僕はそれをひょいひょいと避け、躱しきったかと思ったが、


(まだ尻尾が来るよ)


 本の神の声を聞き、僕はフレイムリザードの尻尾に目を向ける。

 フレイムリザードは尻尾をうねらせ、今まさに叩きつけようとしていた。そりゃあそうか、これだけ立派な体を持っていて攻撃手段が魔法だけな訳が無い。

 僕は思いっきりジャンプして尻尾の攻撃を避け、フレイムリザードの尻尾は床を叩きバチーンと鞭の様な音を奏でた。これは恐らく一撃でも食らえばアウトだろう。


「ひぇー、あっぶなー」


 ギリギリだ。勝てない以上、なんとかして逃げなければ。


(可奈芽ちゃん。ボクらがフレイムリザードの攻撃を教えるよ)


(分かった。ありがとう)


 僕は部屋の出入り口の方をチラリと見る。少し離れているが、全力疾走で走り抜ける事ができそうな距離ではある。

 僕は出入口に向けて駆けた。攻撃の見きわめを神様に任せ、フレイムリザードに背を向け走り出した。

 フレイムリザードは勿論追ってきている。背後からはドスドスと重量感のある足音が迫っているのが分かる。


(ファイアボールだ!右へ避けろ!)


 僕は右へ小さく飛ぶ。すると僕のすぐ横に火球が通り過ぎた。


(次は左だ!)


 今度は左へ小さく飛び、火球が横を通り過ぎる。


(飛びついてくるぞ!右へ大きくジャンプ!)


 僕は言う通り大きくジャンプ。すると僕のすぐ後ろでドスンと重量感のある音が鳴る。


(体勢を崩しているよ。今のうち)


 僕は走り、出入り口まで辿りついた。体勢を立て直したフレイムリザードは再び僕めがけて突進してくる。魔法も撃つつもりなのか、奴の周りに火球も浮いている。

 こんな所にいられるかとこのフロアを出ようとした瞬間、僕はふと気付いた。

 出入り口は狭くて長い一直線だ。普通に人が通れる道幅ではあるけれど、左右に動けるだけの余裕が無い。もしここを通っている時に魔法を撃たれたら、多分避けられないだろう。

 ゲームとかだと、エリア外に出ると攻撃を止めてくれたりするけれど、この世界のモンスターはどうなんだろう。敵は現在進行形で迫ってきている。じっくり考えている時間はない。

 僕はくるりと回ってフレイムリザードと対峙し、意を決した。


(どうするつもりだ?可奈芽ちゃん)


 相手の攻撃の予兆を見逃さない様に目を見開き、僕は啖呵を切る。今起きている事象は逃亡から耐久へと変わったのだ。


「避けて避けて避けきって。仲間が来るまで凌ぎ切る!」


 逃げてて分かった事がある。フレイムリザードの攻撃は避けれない様なものではない。ドッチボールを避け続けるのと大差ない。下手に狭い所に逃げるよりも、広い場所で避け続けて助けを待った方が良いと見た。

 僕は火球の二連射をひょいひょいと避け、神様に願う。


(仲間が来たら、報告よろしく)


(まかせな)


 フレイムリザードは再び火球を撃つ。僕はそれをひらりと躱す。今度は避けた所めがけて飛び掛かり噛みつこうとしてきた。僕はそれを大きくジャップして回避。体勢を崩した僕に叩きつけるべく尻尾が迫る。僕はそれを体を転がして避ける。

 恐らく一撃必殺の攻撃が連続で襲い掛かってきている。たとえ死なないとしても怖いもんは怖い。一撃でも食らったら終わりなゲームのハードモードの様な緊張感の中、僕は猛攻を避けて避けて避け続けていく。


 しばらく攻撃を躱し続け、僕も息が上がってきたその時、


(来たよ。今出入口の所を通ってこっちに向かってる)


(わかった)


 それを聞くや、僕は攻撃を躱しながら大きく息を吸い、大音量を放つ。


「タスケテーー!!!」


 助けを求めて叫ぶ僕。そんな僕に噛みつこうと飛び掛かるフレイムリザード。今まさに鋭い牙が食い込もうとしていたその時、フレイムリザードは巨大な盾に衝突し、トラックにでもぶつかったかの様にぶっとばされた。

 ニーリェだ。仲間が僕を助けに来てくれたんだ。

 ニーリェは嬉しそうに優しい笑顔を僕に向けた。


「おまたせ」


「ハァ、ハァ、ありがとー」


 僕は感謝の言葉を伝えると同時に気が抜け、腰が抜けてその場にへたり込んでしまった。僕もさすがに疲れた。ここはベテランにお任せするとしよう。

 ぶっとばされたフレイムリザードは起き上がり威嚇するが、


「さぁ、食らうがいい」


 その声の後、フレイムリザード相手に複数の青白い光弾が降り注ぐ。そして一瞬でモンスターを氷のオブジェに変えてしまった。

 リディルカだ。彼女の強力な魔法は、一応ボスモンスターであるフレイムリザードの動きを一瞬で止めて見せた。

 そして今度はシシルーの声。


「ニーリェさん。武器を強化しました。ぶちかましてください!」


 ニーリェの斧に光が纏う。


「おう」


 ニーリェは斧を振り上げ、凍ったフレイムリザードに向かって走った。

 僕はへたり込んだまま声援を送る。


「やっちゃえー!」


 その声援と共に斧が振り下ろされ氷塊となったフレイムリザードは砕け散った。

 やった。フロアボス、フレイムリザード討伐。

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