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第1話 手違い転生

「何?ここ・・・」


 そこは何もない真っ白な空間だった。どれくらい広いのか、どれくらい高いのかも分からない、ただただ白が辺り一面に広がっている。そんな中、僕こと、遊朝ゆあさ 可奈芽かなめは、ふと目を覚ますとそこにいた。


「えっと、僕はなんでこんな所にいんの?ってか何してたんだっけ?僕」


 唐突に訳の分からない場所で目を覚まして混乱していると、僕の目の前に光が集まり人の形を成していく。


「何何!?何なの!?怖いんだけど!」


 光が収まると、そこには古代ギリシャ的な服を身に纏った女性が姿を現していた。サラサラな銀色の長髪、モデルかと思える程スラっと背が高く、顔も綺麗で整っている。

 その女性は何か後ろめたい事でもあるのか、何やら申し訳なさそうな顔をしていた。


「ごめんなさい!」


 その女性は勢いよく見事な角度で頭を下げ、うろたえている様子でその理由を話し始める。


「あの、えっと、そのー、実はですねぇ。私はいわゆる神様ってやつで。あ、神って言っても下っ端でして・・・」


 なんか要領を得ない説明をし始めた。混乱していた僕だけど、自分以上にテンパっている人を目の当たりにしているとだんだんと落ち着いてきた。


「まぁまぁ、落ち着いて。まずは要点から、ね?」


 僕の言葉に眼前で神を名乗る女性は深呼吸をして落ち着きを取り戻し、僕に本題を告げる。


「えーと。私は主に異世界転生を担当する神でして」


「へー、転生担当ねー」


 神を名乗る女性の話に可奈芽は適当に相槌を打っていく。


「今日も現世に絶望した人を異世界に送り届けよー。お仕事がんばろーってしてたんですよ」


「うんうん」


「で、私ってまだ新人じゃないですか」


「うん。それは知らないけど」


「だからまだこの仕事に慣れてなくってー。ミスも多くってー」


「そうなんだー」


 神を名乗る女性は手を合わせて茶目っ気のあるごめんねポーズをかます。


「それで、ちょーっと失敗しちゃって。貴方を転生の場へ連れてきちゃいました」


「え?それってどういう事?」


「ここ、転生の場に来たという事は。遊朝可奈芽さん、あなたは死んでしまったのです」


 突然の死亡宣告。僕は唖然とするしかなかった。


「僕、死んだ?マジ?」


 自信の死を告げられた事でここに来る前の記憶が呼び起こされる。

 それは雷雨の中、学校から帰る途中、僕は天気も良くないし早く帰ろうと小走りで駆けていた。そんな時だ。突然カメラのフラッシュの様な光が見えて、そこから後の記憶が無い。多分その時に何かがあったのだろう。


「まさか、あの光?」


「はい。間違って雷落としちゃいました」


 神を名乗る女性は、塩と砂糖を間違っちゃったくらいの軽い感じで僕を殺した事を自供してきた。

 唐突な死亡宣告に僕はしばらく驚愕し唖然としていたが、僕の死亡を軽く扱うその態度に次第に怒りがこみあげてくる。


「落としちゃいましたじゃないよ!失敗して連れて来たって、それ間違って殺しちゃいましたって事じゃん。どうしてくれんの!?僕まだ16だよ?若さ真っ盛りの女子高生だよ?なんでこんな若さで死ななきゃなんないの!?そっちの過失なんだから生き返らせて!」


「えっと、それは出来ないんです。ごめんなさい。死んでしまうと戻せないのが決まりでして」


「はぁ?そっちはミスしてもごめんで済ますのに、こっちにはルールだから守れっての?ふざけるなー!そっちがミスしたんだから、補填なりなんなりするのがスジってもんでしょーよ!」


 僕は怒りを込め、神を名乗る女性をビシィっと指差して言い放った。


「だって上司がいきなりこれから異世界転生サービスをやろうとか言いだして、元々天候担当の私にまで転生の仕事を回されてるんですよ?ただでさえ神になって日が浅いのに、対応しきれませんよそんなの」


 神の世界でも色々とあるのか神を名乗る女性も不満気に愚痴を垂れる。が、僕は被害者だ。神の世界の世知辛さなんて知ったこっちゃない、僕は当然言い返す。


「いや知らないよ!キャパ超えたサービスを提供しようとする方が悪いんじゃん!変なサービスやるよりミス無くしてよ!」


「いや、でもルールが・・・」


「いや、だってそっちのミスで・・・」


 そこから互いにやいのやいの言い合っていたが、話す内容は堂々巡り、このままではラチが明かない。仕方なく話の切り口を変える。


「じゃあ聞きたいんだけど、今私の体ってどうなってんの?死んで魂だけがここに居るって事なら死んだ体が元の世界にあるって事でしょ?」


 正直、いくら貴方は死にましたと言われてもいまいち実感が沸かないのだ。死んだと言われている時も一瞬で痛みもなかったし、今不思議空間に居て神を名乗る存在が死を告げているからって、そう簡単に死は受け入れられるものではない。


「それなら、今葬式が行われている頃ですけど。見てみますか?」


「へ?」


 思ったより死亡から時間が経っていた。死んだ直後くらいで、今は病院で生きるか死ぬかくらいの状況だと勝手に思っていたけど、なんかもう手遅れ感がある。

 僕はもやもやとした表情でしぶしぶ眼前の女性に頼んでみる事にした。


「うん、じゃあお願い」


「分かりました。遊朝可奈芽さんの家の映像を映しますね」


 神を名乗る女性が何もない所に手をかざすと、そこの空間に穴が開き、その穴の中に映像が写し出された。見覚えのある映像、僕の家の中だ。そこには喪服姿の大勢の人が居て、その前には棺桶が置かれている。多分僕がそこにいるのだろう。


「父さん、母さん、こうき、りさにあかねも・・・」


 両親に弟、友達の姿もある。皆とても悲しそうにしている。滞りなく進められる葬式の様子は自分の死を納得させるのに十分なものだった。


「そっか、僕、ほんとに死んじゃったんだ」


 どっと力が抜けた。自分の死を完全に自覚させられた事と、さっきまでの神を名乗る女性とのやり取りでの疲れて、すっかり抗議をする気が失せてしまった。

 そして僕は自分の死を受け入れる方に意識を切り替えた。


「転生の場ってことはさ、僕は生まれ変わるって事?」


「はい。元の世界に戻す事はできないので、この場に来てしまった以上、異世界に転生するという事になりますね」


 そう言うと、神を名乗る女性は映像を映し出していた穴を閉じ、空間に別の穴を開け、そこから大量の紙を取り出した。


「何?これ」


 その紙はどうやらカタログの様で、どんな異世界があるのかとか、どんな特典を得られるのかとか、どんな転生先を選べるのかとかが記載されている。選べる選択肢が最新ゲームのキャラメイクくらい豊富で、逆にどうすれば良いのか分からなくなる程だ。


「私達は転生を望む人達が苦にならない様、様々な転生先や特典を用意しています。今回はこちら側のミスによる死亡なのでポイントは通常の10倍進呈しますよ」


 お得ですよみたいな口調で言ってくるが、それがかえって腹立たしい。


「いや、そんな詫び石感覚でポイント貰っても嬉しくないんだけど。こっち死んでんだよ?人生終わってんだよ?ってか、そんな変なオマケを充実させてるからヒューマンエラーならぬゴッドエラー起きるんじゃないの?」


 僕はグチグチ言いながらもカタログを見ながら吟味する。平和な世界でスローライフをするコースや、危機に瀕し世界を転生特典で救う事を目指すコース、中世くらいの文明を現代知識で無双するコース等様々だ。

 転生先を選んだり転生特典を求めようとしたらその分のポイントが必要らしく、そのポイントは生前の行いやその境遇等で加算されるらしい。神を名乗る女性の言う通り僕のポイントは大量に盛られていて、歴史的偉業を残したクラスの数値になっている。10000以上のポイントがあり、これなら選びたい放題だ。

 しばらくカタログとにらめっこした後、僕は決心する。


「まぁ、これでいいかな」


 オーダーメイドの体に生前の意識を100%保持、そして神々のお告げという特典を貰い、出来るだけ多くの神からサポートを受けられる様に設定、転生先は平和なファンタジー世界を選ぶことにした。ダンジョンというものが存在しているにも関わらず命が保障されており危険性が無い、ダンジョン配信なる独特な文化があるといった特異な世界観が気になり、僕はその世界への転生を決めた。

 お役所めいた用紙に希望する条件を記載し、神を名乗る女性にそれを渡す。


「承りました。では異世界へと送り届けます」


 神を名乗る女性はそう言うと両手を広げた。すると、僕の体に蛍の様な輝きが広がっていき、それが全身に広がると僕の意識は彼方へと飛んで行った。

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