第6話 村を託された若き戦士たち
「おい、フレイ。お前、今年もまた神殿の前で寝てたって噂だぞ。お祭りの準備ぐらいちゃんとしろよな。」
振り返ると、そこには副団長であり兄であるレイブが、歩み寄ってきていた。
彼はその堂々たる姿に似合わず、どこか気楽な笑みを浮かべており、まるで友人のような軽い調子でフレイに話しかけてきた。
「兄さん!遠征前に会えてよかったよ!」
フレイは驚きと喜びの入り混じった声を上げた。
レイブは笑いながらフレイの頭を軽く叩く。
「お前もそろそろ騎士団の一員なんだから、もうちょっと自覚を持てよな。それに、精鋭部隊がいない間、もし何かあったら村を守るのはお前たちなんだからな。」
冗談交じりな表情をしていたが、その瞳にはフレイ達への信頼が込められていた。
アルゴはレイブの言葉に少し驚いた様子で答える。
「任せてください、レイブさん。村に何かあれば俺たちがしっかり守ります!」
レイブは満足そうに頷きながら茶化すように忠告した。
「頼もしいことだな。あー、そうだ。炎の神殿の剣には絶対に触れるなよ、とは言わないけどなあ。お前たちのいつもの三本勝負なんかには使わないでくれよ。それで剣を壊してでも見ろ、兄としての監督責任で俺が団長に怒られるんだからな?」
その軽い口調にフレイは笑って応じつつも、自分の考えを見透かされて動揺を隠せなかった。
「まさか、そんなことするわけないよなあ、アルゴ?」
アルゴとアイリス、セイラも、フレイのその反応を見てクスクスと笑い始めた。
「図星だろ?」
レイブはさらに大きく笑っていた。
「お前はまだまだだな、フレイ。」
レイブはフレイに軽口を言いながら、アイリスが準備していたシチューのだしを無遠慮に味見し始めた。
「おい、兄さん、それまだ味付け前のだしだぜ?」
フレイが呆れたように言ったが、レイブは全く気にせずスープを楽しんでいた。
その時、再び広場に足音が響いた。現れたのは、炎の騎士団の団長であるカイネだった。
彼女は凛とした美しさを持ち、冷静でありながらも威圧感を放つその姿に、フレイとアルゴは自然と背筋を伸ばした。
「レイブ、こんなところで道草を食っていたとはな。副団長になったら、準備はさぼっていいとでも思っているのか?」
カイネは厳しい表情でレイブを問い詰めた。
「お前の班の出発の準備は整っているのだろうな?」
カイネの冷たい目線と指摘に対して、レイブは少し気まずそうに振り返った。
「もちろんだ、団長。準備を頑張りすぎて腹が減ったから、少しだけ祭りの食事の味
見を手伝ってたんだ。あと、うちの弟がまた祭りの仕事をさぼっていないか、兄として監視しに来たのさ。」
軽い口調で言い訳を始めるレイブに対して、呆れたようにアイリスが呟く。
「血は争えないとは、この事ね。兄弟そろってどうしようもないわ。」
カイネはため息をつき、淡々と命じた。
「言い訳はいい、さっさと行くぞ。」
カイネはフレイとアルゴにも目を向け、力強い口調で話し始めた。
「お前たち、村のことはしっかり頼むぞ。火炎祭りまでには戻るつもりだが、何かあった場合を想定し、すぐに対応できる準備をしておけ。」
アルゴが驚いた顔を見せた。
「俺たちに警備の依頼を!?」
カイネはアルゴの反応を見て少し微笑んだ。
「アルゴ、フレイ。お前たちはまだ若いが、潜在能力は高く評価している。だからこそ、今回の遠征中に何かが起こった場合、お前たちはこの村の貴重な戦力だ。」
その言葉に、二人は緊張しつつも誇らしげに胸を張った。その裏でレイブは不貞腐れていた。
「お前たち、俺がさっき任せた時とは反応が違うじゃんか。」
レイブの発言に、一同が呆れたように微笑んだ。
カイネは再びレイブに目配せする。
「さあ、出発するぞ。」
レイブは仕方がないという表情を見せた。
「というわけだ、三人とも留守番頼むぜ?あと、アイリスちゃん、シチュー美味しかったわ!いい奥さんになるぜ?弟のことよろしくな。」
レイブは自分勝手に発言した後、精鋭部隊を引き連れるカイネを追いかけて走っていった。
セイラは家に帰るそぶりを見せながら、フレイに優しく忠告した。
「フレイ、明日はあなたにとって大事な日なんだから、早く寝ておきなさい?それと、眼帯もちゃんと気を付けるのよ?」
その言葉には、母親としての温かい心配が込められているようだった。