第2話 忍び寄る魔の影
突然、遠くから異様な轟音が響き渡り、村全体がその音に包まれる。
それはまるで地面が唸るかのように低く、鈍く響き渡り、足元の大地が微かに震えているのを感じるほどだった。
村人たちは瞬時に顔を曇らせ、何が起きているのか理解しようと、困惑した表情で周囲を見回した。フレイ、アイリス、アルゴの三人もその場で凍りつき、背筋に冷たい汗が流れる。
何かが、恐ろしいものが迫っている。
彼らの視線は、村の外れにあるルナの森へと向いた。音の発生源は、あの不気味な森の奥からだった。
「まさか、魔獣が?」
村の誰かが、息を呑むようにつぶやいた。その一言が、村全体に緊張を走らせる引き金となった。
村人たちは一斉に動き始めた。男性たちは急いで武器を取りに走り、女性たちは子供たちを家の中へと押し込むようにして安全を確保しようとする。
緊迫した空気が村全体を包み込む中、フレイもその場で立ち尽くしていたが、すぐに状況を理解した。
魔獣、それは、村人たちが最も恐れていた存在であり、実際に目にするのは初めてのことだった。
「炎の騎士団に知らせないと!」
アイリスが不安そうに声を上げる。彼女の顔は青ざめ、焦りが見て取れた。
しかし、普段なら村を守るはずの炎の騎士団の姿が見当たらない。村を巡回しているはずの彼らが不在であることに気づき、村人たちに一層の不安が広がった。
どうしてこんな時に騎士団がいないのか、誰もその理由を知らなかった。今、彼らは自分たちの力だけでこの状況に立ち向かわなければならなかった。
「フレイ!」
背後からアルゴの強い声が響いた。彼はすでに覚悟を決めた表情をしており、フレイに向かって叫んだ。
「俺たちしかいない! 炎の神殿の祭壇にある騎士団の剣を取るぞ!」
フレイも迷わず頷き、炎の神殿に向かって駆け出した。彼らはまだ騎士団に正式に入っていないが、村を守るという強い決意が心に宿っていた。
フレイとアルゴは炎の神殿まで走り、剣を手に取る。
剣を握りしめたフレイとアルゴは、神殿のふもとで待っていたアイリスのもとに戻り、三人は一緒に村の外へ出てルナの森へ向かった。
森の中を進むと、奥からは異様な唸り声が響き続け、次第にその音は大きくなっていく。
まるで何か巨大な存在がこちらへ向かって全速力で進んでいるかのようだ。フレイはその音を聞くたびに、胸の鼓動が激しくなるのを感じた。
アルゴが緊張した声色でフレイとアイリスに警告する。
「来るぞ、気を付けろ。」
フレイは剣を握りしめ、全身の筋肉が硬直するのを感じながらも、軽口をたたく。
「騎士団入団の前夜にふさわしい展開だぜ。」
その冗談めかした言葉の裏には、彼が恐怖を押し殺している様子が透けて見えた。
木々の間から姿を現したのは、四つ足の巨大な魔獣だった。
鋭い爪が大地をえぐり、獰猛な赤い目でフレイたちを睨みつけている。口から漏れ出す白い息は冷たい風に乗り、三人を威圧するようなオーラを放っていた。
アルゴが冷静に呟いた。
「こんなにデカいのがルナの森にいたなんて。逃げさせてはくれなさそうだな。」
緊張を感じつつも彼の声は落ち着いており、その目は鋭く魔獣の体の動きや筋肉の収縮、重心の移動を観察していた。
アルゴの冷静さは、こうした緊迫した状況でも揺るがなかった。
一方、フレイは、冷静なアルゴに対抗して軽く言い放つ。
「余裕そうだなアルゴ、特別に今回は俺とお前の共同の手柄にしてやるよ。」
剣を構えて前に一歩踏み出した。フレイとアルゴの背後では、アイリスが既に魔術の準備を始めていた。
三人で力を合わせるしかないと、それぞれが自然に理解していた。