良朝
三題噺もどき―ごひゃくにじゅうろく。
ぬるい微睡から覚める。
開けた始めた視界に、突然光が差し込む。
あまりの眩しさに思わず目を閉じ、体を反対側に向ける。
「……」
いつの間にか、体が窓側に向いていたようだ。
その隙間から入り込んできた光で、視界がやられた。
まだ居残っている光の影を鬱陶しく思いながら、体を起こす。
「……」
ぼんやりとした視界の中は、夜の暗闇ではなく。
すっきりとした、水色に支配されている。
光の影のせいで、変な残像が見えるのが鬱陶しくて仕方ないが。
朝のこういう空気の部屋は、割と好きだ。
「……」
幼い頃から、青とか、水色とか、そういう色が好きで、カーテンもその色にしているのだけど。おかげで、朝の部屋は、良い色に染まってくれている。
水族館とかも、こんな空間がたくさんあるから、よく行きたくなる。人混みでないことが前提ではあるけど。人が居ない空間を、水槽からの光で青く染めている空気の中を歩くのは、とても心地が良い。今度また行ってみようかな……。
「……」
しかし、今日はなんだか、冷え込んでいる気がする。
扇風機しか回してないのに、体がやけに冷たい。
昨日も結構冷えていたから、ようやく秋になってきたんだろうか。
それともまだ暑い日々が続くんだろうか。冷えているのは勘違いで、もしや冷房でもつけたままにしていただろうか。
「……」
なんとなく、耳をすましてみるけれど、冷房の動いているような音はしない。
念の為、リモコンを確認してみても、やっぱりついていない。
この部屋が寒いだけかもしれないけど、こうして冷えてくると、秋を感じてくる。
昨日なんて、あまりにも寒くて昼食にあったかいうどんを食べに行ったものだ。
「……」
このまま、気温が落ち着いてくれればいいが、その辺りはよくわからないからなぁ。
まぁ、変に気温の上下がなければ、それでいいかなという感じはある。
しかし、この時点でこの寒さだと、それはそれで冬がちょっと恐ろしくなってくるな。
暑いのは、まぁ多少我慢はきくほうなのだが、寒いのだけはほんとに無理なもので。着ればいいから寒い方がましだろうと皆に言われるけど……寒いのはほんとに嫌い。
「……っ」
ふるりと、震えた腕をさすりながら、扇風機をとめに動く。
ベッドから立ち上がり、スイッチを押すだけ。
そこまでして、ようやく目が覚めたような感覚がした。
「ふぁ……」
漏れたあくびに、まだ眠いのか私と不思議に思いながらも、リビングに降りるために部屋のドアを開ける。
今日も、すでに全員出払っているとおもっていたが、下から音がする。
……というか、何かの臭いがする。
線香……?うちに仏壇なんてないから、そんなものの臭いしないと思うんだけど。
「……」
なんの臭いかと思いながら、リビングに降りていくと、その匂いはさらに濃ゆくなり、正体も目星がついた。
リビングの大きな窓が開かれ、その外に蚊取り線香がたかれていた。
なぜ、いま。
「……」
「おはよう」
机で何かしらの持ち帰りの仕事をしていた母に声を掛けられる。
なぜ、今、蚊取り線香を外で焚いているのかも分からないし、この時間に家にいるのもおかしい気がするんだけど、今日までお休みだったのだろうか。お互いの予定の共有とかしないから、知らなくて当然だろうけど、それならそれで事前に言ってくれそうな気もしている。
「…おはよう」
聞こえたかどうかは知らないが、一応の返事をしておく。
それよりももう、蚊取り線香の臭いが気になって仕方ない。
線香とか、お香とか、香水とか、柔軟剤とか、それぞれの独特の匂いがするものって、苦手なのだ。鼻につくような匂いというか、まとわりつくような匂いというか、ホントにきついものに限定はしておくが、そういうのは気分が悪くなる時もある。
「……」
寝起きで、この匂いに襲われて。
気分がいいわけない、訳であって。
今現在、ものすごく胸中は荒れている。
「……」
蚊取り線香……というよりは、線香の臭いが嫌いで、お墓参りとか祖父母の家にいって仏壇の前に行くときとか、ほんと、極力息を止めていたいとおもうくらいには嫌いなのだ。こういうとあれだが、お葬式なんて頭痛の種でしかない。
「……」
部屋に充満するその匂いに、少しずつ頭の痛みを感じながら、洗面台に向かう。
とりあえず、顔を洗って、軽く水分補給をして、さっさと部屋に戻ってしまおう。
どうせ、何か用事があれば、声がかかるだろう。
「……」
せっかくいい気分で目覚めたのに。
ほんと。
頭が痛い。
お題:水族館・蚊取り線香・光