31話 肘の脱臼
騎士と街中をしばらく歩く。賑わいを見せていた場所から離れると馬車に乗って見ている時と違い、治安の様子が見えてくる。いくら王都といっても、そこには貧困の差があり、事件がおこならない日はないのだろう。だから、所々に見回りのひとや立派な建物の前には警備する人がいる。
いろいろ考えながら歩いていると、目の前で事件が起こる。
前を歩いていたお年寄りが持っていたカバンを前から歩いてきた男がひったくった。一瞬のことなので、お年寄りは反応できず、カバンを奪われる。そして奪った男は私に近づいてくる。私はとっさのことで身体を動かせない。そんな私の前に騎士様が前に出る。
「ん!どけーーー」
と男が走りながら叫ぶが、騎士様は表情を変えず、突進してくる男と対峙する形になる。殴りかかるため腕を上げ肘を曲げようとした時、鞘にはいったままの剣で男の腹に一撃、動きが止まる。そのすきに騎士は男の腕をつかみ、柔道でいう一本背負いのような投げで相手を転ばす。受け身をとれない男は勢いと体重が乗った重さで地面に身体がぶつかる。
「うっう、はぁぁぁぁ」
と右腕は騎士に拘束されている男が叫ぶ、お年寄りから奪ったカバンが転がり、唖然としていた私は、はっ、と転がったカバンのほうに向かう。カバンをとり、お年寄りの方に近づく。
「大丈夫ですか?おばあさん」
「あぁ、、ありがとう。お嬢さん」
カバンをお年寄りに渡す。特に怪我とかはない様子だったので、大丈夫だろうと思う。「それじゃ、わたしはこれで」と帰ろうとされたので、「気をつけて帰ってください」と、お年寄りを見送った。私の前世の世界では警察が来て、現場検証や事情聴取などがあるものだが、この世界ではないようだ。
お年寄りと別れ、男を捕らえいる騎士のほうに向かう。窃盗をした男は騎士様にとり押さえられているが、どうも様子がおかしい。額に汗がにじみ、身体が震えている。そして、左肘が過伸展していた。いわゆる、脱臼だ。肘関節の上腕骨と橈骨が離れている。男はすごく痛そうにしている。男の服装は庶民の服よりも汚く、ボロボロで下級層の住人のようだった。
まともな生活ができていないことが、一目でわかる。
今私にできることはと考えたら行動していた。
「騎士様、その方は肘を脱臼しているみたいです。整復するので手伝ってください」
「ルセリア様。何を言っているのですか。脱臼しているのなら、医者に診てもらったほうがいいです。ルセリア様がなさることではありません。何よりこの男な罪人です」
騎士の言っていることは正しい、公爵令嬢の私がするべきではないし、普通はできない。けれど
「‘罪を憎んで人を憎まず‘ですよ。お願いします手伝ってください」
?という顔をするが私に熱意に負けたようで、
「わかりました」
と言ってくれる。
患者を仰向けに寝かせ、騎士様に左上腕を持って、固定してもらう。私は左手で肘の後方を持ち、右手で手首を持つ。そして右手で少し伸展してから、手のほうに引っ張り、円を描くように曲げていく。そして出っばっている肘の部分をもとの位置にはめる。
「う。」と患者が声を漏らすが、うまくいったようだ。体の震えもだんだんと止っていき、顔色がよくなってくる。よかったと思い私は立ち上がる。
しばらくして、警備隊の人が駆けつけてくる。おそらく、私たちの様子を見ていた街のだれかが呼んでくれたのだろう。私たちは警備の人に事情を話し、男を預ける。
警備の人に捕まっているが、抵抗することはない様子の男に、
「応急処置なので、もし肘が痛くなったり、体調が悪くなったら、医者に診てもらってください」
と別れ際に男に言う。男は目を見開き私を見る。何か言いたそうにされていたが、私は後ろを向き騎士様とともに歩き始める。
肘の脱臼は、いろいろな方法があります。私が書いた整復の仕方が合っているか、間違っているか、間違っているなどしていあたら、ぜひコメントをよろしくお願いいたします。