Cafe Miyamaでビーフシチューを:渋谷
喫茶室ルノアールという喫茶店のチェーンがある。東京近郊に住んでいればまず知っている名であろう。一都三県に80店舗くらいあり、60年くらいは続く古参の喫茶店チェーンである。
絨毯張りで白を基調としたクラシカルな内装。少し高級志向でホテルのラウンジなどをイメージさせる店内。
そんな喫茶室ルノアールを運営する株式会社銀座ルノアールであるが、別のチェーン店も有しているのだ。それがCafe Miyamaやミヤマ珈琲店というチェーンである。
その中で渋谷にあるのはCafe Miyamaであり、かつては新宿や目黒にもあったのだが実のところ現存するのは渋谷のみである。つまりもはやチェーン店とは言えまい。このエッセイで紹介する価値があるというものだ。
ちなみに私がかつて常連と言えるほど通っていたのは目黒店であるが、現在そこはルノアールに変わってしまった。
渋谷は中高生時代は毎日いた街であるが、今は稀にしか行かない。
ハチ公の前には写真を撮るための列ができていて、スクランブル交差点ではカメラを掲げた外人の観光客。
当時よりは明らかに外人が増え、綺麗になり、そしてつまらなくなったセンター街を歩く。あの頃あった店で残っているのはどれだけあるだろうか。
立地としてはABCマートの角、その斜向かいの2階にある店だ。知っていれば迷いようもないところだが、正直、人と色の溢れるセンター街においてシックな入り口は決して目立つものではなく、ここに店があると知らなければ通り過ぎてしまうかもしれない。
薄暗い階段を上へ。
ルノアール系列であるが、ルノアールとは真逆のコンセプトであることがわかるだろう。
抑えられた照明、黒い床、直線的でモダンなデザイン。
このあたりは個人的な好みでもあるが喫茶店は光量が抑えられている方が好ましい。眩しいとはうるさいということであるから。
頼むのは水だしアイスコーヒー。この店の定番である。そしてランチセットのビーフシチューを選択。
今は食事どきで、本当はどこか渋谷で飯屋かラーメン屋にでも入ろうと思っていたのだ。しかし店の前にあったビーフシチューの看板にやられたのである。
喫茶店のランチだと後で腹が減るんだよなと分かっていてなお、抗えぬ魅力があったのだ。
深い焦茶色のシチューと、そこに添えられたバターの染みたトースト。
完璧な組み合わせである。
シチューはもちろんビーフ以外にもごろりとしたじゃがいもやにんじん、マッシュルームなどが沈み、その一部を覗かせている。
シチューの表面が明かりを反射して、てらてらと輝いている様はやはりどうしても魅力的だ。店の看板もそうだったが、今度はシチューとパンの香りも五感を刺激してくるのである。わたしは早速スプーンをシチューに埋めた。
期待通りの味、味の染みたじゃがいもやきのこも素晴らしく美味い。
だがただシチューのみではここまで心惹かれなかったのだ。そう、私はパンをシチューに浸したかったのだ。
パンをちぎってビーフシチューにひたし、口に運ぶ。そう、美味いにきまっているのだよ。
まあ、Cafe Miyamaに不満がないわけじゃあない。目黒店はここよりさらに薄暗く私好みだったし、ストローが紙製になってしまったなどというのもある。
ちなみに私は紙ストローが非常に嫌いだ。
だがまあ、時代の変化であり文句を言うほどのものじゃあない。紙ストローでコーヒーを混ぜれば、あとはストローを使わずにグラスからそのまま飲めば良いのだから。
そんなことよりも食事とコーヒーで腹も心も満たされる方がずっと大事なのである。
私が渋谷で行く定番の店である。残り続けてほしいものだ。
Cafe Miyama
ビーフシチューとアイスコーヒー
ビーフシチュー接写








