伯爵で昭和レトロなプリンを:池袋
ある日なろう作家の友人から、懐かしの環七背脂ちゃっちゃ系ラーメンでもどうですか? という誘いがあったのである。
環七、東京23区を環状に走る主要道だが、特に夜間にそこを走るトラックやタクシーの運転手をターゲットとしたラーメン屋が繁盛したのは1980年代から90年代にかけてである。
そしてその中で、23区の北西部を中心としてラーメンに豚の背脂を振りかけるラーメンに人気が出たのだ。当時の店はもう環七沿いに残っていなくとも、ラーメンのジャンルとして確立されている。
まあ、私もラーメンを食す機会は昔より減ったが、背脂ちゃっちゃ系を食べることもある。嫌いじゃあない。
ただ今回誘ってくれた友人は私より年上であるので、彼は懐かしのと称したが、私にとっては懐かしい訳ではないというだけだ。
だがもちろんお誘いには即OKした。友人と食べるラーメンは最高である。
背脂ちゃっちゃ系はもはや一般化していてどこでも食べられるが、やはりここは発祥の地である23区北西部ということで池袋に向かい、ラーメンを食したのである。美味かった。だがここまでラーメンの話をしているのに今回紹介する店はラーメン屋ではないのだ。
その日は彼ともう一人の面識ある女性作家の三人でラーメンを食したのだが、ラーメン屋では落ち着いて話はできない。そこでその後、喫茶店に行ったのである。
それが今回紹介する店、伯爵だ。池袋の北西、北口を出てすぐのビルの2階にある店で階段を上がって入るのだが、階段には案内を待つ客が少し並んでいた。
並んでいる客、店から出ていく客、どちらも白髪の目立つような高齢の客が多い。古くからあり、そして愛され続けている店なのだと店に入る前から分かる。
内装は昭和的にゴージャスな洋風と言おうか。シャンデリア、ランプ、絨毯。赤いビロード張りの椅子。古い言葉だが喫茶店ではなく純喫茶と言いたくなる風情である。
注文は店の前の看板を見た時から気になっていたものを頼む。昭和レトロプリンとコーヒーのセット。同行の二人も全員が昭和レトロプリンセットを注文した。
運ばれてきたプリンは底の平たいカクテルグラスのような器に盛られている。狐色のプリンの上には焦茶色のカラメル、純白のクリーム、その上に載った真っ赤なさくらんぼ。
もう見た目からして完璧である。
そう、これが昭和プリン。今はめっきりその名を聞かなくなったプリン・ア・ラ・モードのセンターにあるに相応しい風格。
口に運ぶ。硬めの食感にカラメルの香ばしさを纏った甘さ。そう、これだよ。
隣の友人が呟く。
「柔らかけりゃ良いってもんじゃない」と。我々は頷いた。
そう、現代の色が薄く滑らかで柔らかいプリン。あれはあれでもちろん美味であるが、これとは別の食べ物なのだ。
気づけばプリンはラーメンでいっぱいであったはずの腹にぺろりとおさまっていた。
柔らかいプリンが日本で流行り始めたのは1990年代前半のこと。以来30年を経て2020年ごろからこうした古いタイプのプリンなど、昭和レトロが流行っている雰囲気がある。エンターテイメントで言えば大正浪漫などもそうだろう。
そういうブームの時、以前紹介した神谷レストランもそうだが、こうしてブームには左右されない古くからある店にスポットライトが当たるのもまた良いものではないか。
私が生まれるよりずっと前からある店だ。それに対して懐かしいというのはおかしいのかもしれない。だが不思議と懐かしさを感じる。そんな店とプリンであった。
伯爵
昭和レトロプリン








