0096. 閑話・【船大工】姫御子様は御使い様だった
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絵図を見てから半月、また、殿様から呼び出しがあったが、話をする場所が殿の私室そばの控えの間であり、部屋には、殿の他に御方様、二郎太郎様と御一門衆の氏兼殿までがいらっしゃった。なぜにおられるかは分からぬが、どうやら、一緒に絵図の話を聞くらしい。
「遅くなり申しました。ただ今、参上致しました。此度は御方様、二郎太郎様並びに氏兼殿もご参加されるのでしょうか」
「三郎、よう来たな。此度は、その方から船を造るために必要な話をする場として、このような機会を用意した。ただ、絵図を描いた本人には、やはり会わせぬ訳にいかぬとなったゆえ、間に真里と二郎太郎を置くことにしたのじゃ。
氏兼は、見張り役じゃ。絵図に関する問いは、儂らが聞き、そばの部屋にいる絵図を描いた者が真里と二郎太郎から話を聞き、答える事になる。そなたへの解は、真里と二郎太郎からするのでな」
「そういうことですか。直接、お話できないのは残念でありますが、お答えいただけるのであれば、問題無いと思いまする。そこまでして、お答えいただけるとは、ご配慮ありがとうございまする」
わざわざ、御方様と二郎太郎様をお連れしてまで、会わずとも話を聞き事ができるようにしてくださるのは、ありがたいことだ。殿がこの船造りに、並々ならぬ力を入れていることがわかるが、それ以上にそこまでして姿を隠さないといけないお方が、この安房にいるとは思えぬが、どなたであろう。
もし、そのような方が居るとすると主筋にあたる鎌倉公方様に連なる方以外は、殿がこのような扱いをなさらぬであろうが。
それとも、御方様か二郎太郎様が、この絵図を描いた人物なのか。それだから、このような手間のかかるような事をするのであろうか。
まぁ、どちらにせよ、わしには関係ないがな。まずは、殿のご指示である船造りを出来るようにすることが、わしがやらねばならぬことじゃったわ。
「殿、それでは、まずは梅案の絵図から、お話を聞かさせていただいてもよろしいですかな。我らが出来る可能性が高いのは、この梅案の方になりますゆえ」
「そうじゃな、それでよいが、まず話をしやすいように、絵図の横と縦に『イロハ』と『数』を書いたこちらの絵図で話をすることにしよう。
これなら、そなたが船のどこを質問したか、絵図を描いた者に伝えやすいでの」
なんと用意周到なこと。同じ絵図をもう一枚用意しておるとは、これなら同じ部屋におらずとも、絵図のどこを見て話をしておるか、一目瞭然ではないか。どの場所の質問をしているか、伝えるのをどうするかと思っておったら。
これも絵図を描いた者が考えたのであろうか。これはまさに天鳥船神の寵愛を受けておられるな。儂の考えが間違っていないのではないか。
「殿、これは素晴らしいですな。話がとてもし易いと存じまする。絵図を描いた者は、天鳥船神の寵愛を受けられていると来る前も思うておりましたが、これも考えつかれたのであれば、間違いなかろうと思いまする。色々と話が聞けるのが、楽しみでございますな」
「相変わらず、船のことになると喜色の顔をして。こちらが気が滅入るわ。そのような顔をせずとも話を聞けると言うに、それで梅案のどこから話を聞きたいのじゃ」
その後、絵図のことで色々と話を聞き、この船造りで必要なこと、注意せねばならぬ事を理解したが、それ以上に算学や大きさを整える方法、その為の道具や航海必要な技など、絵図には描けぬことがありすぎて、頭に入りきらなんだ。
そのため、この日一日では終わらず、何度も何度も話の機会をもらい、ようやく船造りができるところまで理解出来たのじゃが、殿や御方様、二郎太郎様には、大変迷惑をかけてしもうた。
これは、早く船を造り、恩返しをせねば。まずはこの船を造る事ができるように、智識を授けて下さった、まさに天鳥船神の御子様に、造った船を捧げねばならぬな。
残り少ない人生と思うておったが、これは早々には死ねぬな。この一子相伝せねばならぬような智識、技術を授かったのじゃ。弟子たちが一人前になるまではおいそれとは死ねぬ。
確か、社で京の都や甲斐等から人を集めて、移り住んで来ていると聞いておる。若い者も多いと聞いておるので、新たな弟子をもらえないか、殿に相談せねばならぬな。