0077. 閑話・【飯母呂】新たな地で想いを繋ぐ
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翌日、予定通り昼過ぎに昨日の者と大柄な男性がやって来た。
「本日はお会いしていただきありがとうございます。某、安房里見家家臣 堀内兵部少輔氏兼と申す」
「改めて、昨日はきちんと名乗りもせず、失礼した。儂は、鞍馬衆の沙門と申す」
「儂はこの村で大将をしておる筑馬と申す。こちらこそ、昨日は名乗りもせず失礼した。さて、早速ですが、堀内殿、本日は我らに何用がありましたかな。今まで何の付き合いも無く、我らとしては何を求められているのか、わからないのだが」
「筑馬殿、これは失礼した。我が里見家は、こちらの沙門殿の鞍馬衆と同様に、飯母呂一族郎党、安房に移り住んでいただき、ある方の護衛と情報収集の任に付いてほしいのだ。もちろん、沙門殿と同じく里見家の家臣として」
なんと、我らを引き抜きしたいとはな。どこにも属してはおらぬゆえ、どこかへの断りは無いとはいえ、一族郎党の移住とはな。
鞍馬衆だけでは足らぬということか。この手練の御仁をしても足らぬ状況になるとは思えぬが。
「沙門殿の一族衆がおれば、十分にその任に能ごうと思われるが、まだ足りぬとお考えか」
「築馬殿、その任は我ら鞍馬衆だけでは足りぬのです。我ら一族郎党と言っても、百数十名、実際に任につけるのは、半分もおらぬのだ。儂も築馬殿の助力が必要だと考えている」
「そういう訳で、我が里見家は人が足りていないのです。鞍馬衆の皆さんも安房に来て、少しづつ生活に慣れてもらってはいますが、まだまだこれからの事が多いのです。
築馬殿の一族郎党の住処も少しづつ作っておりますので、護衛が始まれば、そちらに移り住んでいただきたいのです。
いきなり、そう言われて、判断も難しいかと思います、こちらに殿よりの手紙がありますゆえ、読んでいただいてもよろしいかな」
なんという事だ。儂らの返事を待たずしてというか、誘う前にすでに住処を作り始めているとはな。
「そう言われてもな。我ら一族も悲願があるのだ。その悲願も成就せず、新たな地に行くことは、難しいであろうな。まぁ、手紙は読ませていただくとする」
「築馬殿、我ら鞍馬衆も本懐せねばならぬ約定がある。築馬殿も同じであろう、だが、それをするにも、一族の力を強くせねばならないのではないか。
我らは、安房を見てそれが能がうと思うた。是非一度、安房の住まう予定の地を見てくだされ。そのうえで、判断されるがよいと儂は思うぞ」
「そうか、鞍馬衆にも悲願があるのだな。そのうえで一族郎党、安房に移り住んだと。わかった。
まずは、手紙を読ませてもらおう。そのうえで、安房の地を必要であれば、見に行かせてもらいたい」
鞍馬衆と協力して、護衛と周辺の情報収集などをしてほしいようだな。我らの一族の一部が風魔として伊勢の仕事をしているのも承知で頼みたいとな。
金雇いではなく仕官まで求めておるとは、驚きを越えて何も言えぬわ。とはいえ、この手紙だけで信じるわけにも行かぬな。当主自ら、会うとも言うておるしな、移住する地の確認も含め、当主殿に会いに行くか。
「手紙、読ませていただいた。お話の内容と手紙の内容は、一緒であったが、これだけで判断つかぬゆえ、御当主殿に会わせていただきたい、ついでに我らの住む地も見させてもらいたいが、いかがですかな」
「おぉ~、ありがとうございます。お会いするのは、何時でも構いませぬぞ。このまま我らと安房に行くでも、後日でも構いませぬ。
住む地については、沙門殿に案内を頼むので、好きに見られるがよろしかろう。ただ、まだまだ家を建てて町を作っておる最中であるからの」
「それならば、ご一緒に安房に行かせてもらいましょう。供の者の準備などがありますゆえ、明後日に出立でいかがであろうか」
「我らは、それで構いませぬ。それでは、明後日に安房に戻るとしましょう」
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供数名と安房に来たが、香取海からそのまま、安房に来るとは思わなんだ。途中、船の上からではあるが鞍馬衆と我らの地を見たが、山々に囲われた地で、中々良さげな感じがする。
あとは、里見家の御当主に会って話ができれば、もう十分だな。
里見家の御当主は、手紙と同じ内容のことを改めて、お話してくださり、さらには御方様までご同席されて驚いたが、手紙では伝わらぬ想いを聞けて本当によかったわ。
護衛する方については、鞍馬衆と同じくお会いはできなんだが、お二人の並々ならぬ想いから、里見家の威信をかけておるのだと感じられる。
それならば、この我らや鞍馬衆に対する扱いもわかるな。飯母呂一族や鞍馬衆と同じく代々護らねばならぬ契りができたのやもしれぬな。
これは、もうこの地で悲願を達成すべく、一族をまとめ上げねばなるまい。
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「皆、今宵はよう集まってくれた。儂が直接、安房を見聞して来たので、その内容を話をしよう。まず、我らはこのまま行けば、周りを室町殿の血脈に囲われ、近いうちに族滅するであろうと儂は思うておった。
その前にどこかで伊勢の手助けをしておる風魔衆や山陰におる鉢屋衆など、全国に散っておる飯母呂一族の縁に頼ろうと思うていた。そこに安房の里見家からの話が来て、正直よかったわと思うたぞ」
「大将は、そこまで思い詰めていたのですね。儂らは何も知らなんだ」
「まぁよい。実際に堀内殿と沙門殿と一緒に行き、よかったわ。里見家の御当主と御方様にお会いし、話を聞けたからな。
あの家の想いは本物であった。我らと変わらぬものを持っておる。住まう地も海に近く、山々に囲われた地で、この筑波にも似ておったわ。儂はの、行くことに決めたわ」
「大将、そこまで言うなら、我らもお供致します。一族郎党で行きましょう」
「ありがとう。そなた達ならば、そう言うてくれると思うとったわ」
皆の意志は確認できた。あとは、移り住むのみよな。