0253. 兄上の相談事
ーー広間
「兄上、お久しぶりです。おまたせして、すみません」
「琴音様、お久しぶりにございまする。本日に急に押し掛けてしまい、申し訳ございません」
「いえ、来られることは気にしてないです。急に来られることは、余程のことかなと。早速だけど、何かありましたか。氏兼達に何か問題でも。いやっ、本当に申し訳無い。氏兼達には強く言っているんですよ。そのような働き方では下の人間が付いてこれない無理無茶をするなって。なのに、兄上がこう言いに来ることになるとは、ほんとに情けないです。後でしっかりと叱って、説教をしていきますので、ご安心を」
「いっ、いやっ、そういうことではございませぬ。氏兼殿には良くしていただいておりますし、いろいろと物事を行う上で話を聞いてもらっておりますし、的確に補佐していただいておりますので、何も問題ございませぬ。本日、お伺いしたのは別件でございまする」
「ほぇっ、あぁ~、そうなのね。てっきり氏兼の件かなと。あの働き方は、私が言うのもなんだけど、おかしいから。まぁ、氏兼の件じゃないとすると、なんだろう。他に私は思いつかないんだけど」
「そうでございましょう。少しお話を聞いてくださいませ。それで本日の用件は、兄上の件でございます」
兄上の件?、次郎兄上は何を言っているのだろう。
「兄上?兄上とは誰のことですか」
「喜六兄上のことじゃ。琴音様はお会いした事は無いでしょう。琴音様がお産まれるになる前に今は安房国分寺に出家されておるので」
あぁ~、そう言えば母上から次郎兄上に兄が居るが、病弱で別の所で療養中だと聞いたことがあったわ。すっかり忘れてたけど、その兄上が喜六って名前なのね。初めて知ったよ。
「そうでしたわ。母上から前に次郎兄上には兄上がおられると聞いたことがありました。その喜六兄上の事とは何かありましたか」
「そう、その喜六兄上のことでご相談がありまして、ご存知かわかりませぬが、喜六兄上は病弱で普段の生活もままならぬところがございまして、療養するために安房国分寺に出家をされております。喜六兄上の病気をどうにか治せないかと本日はお願いしたく参りました」
「えっ、そうなの。それなら氏兼を通してでも、この場に同席してもらっても良かったんじゃない」
「いっ、いや。氏兼殿に同席してもらうのは、気恥ずかしいというか、兄上の事を気にしているのを知られたくないというか、……そんな訳で一人で来たのだ」
なんか思春期特有の親とかに知られるのが嫌だって気持ちなのかな。まぁ、それくらいなら、いいけど。氏兼達のブラック気質で辞めたいってことじゃなかったし。
それにしても、病弱って言うだけだと、何をどうしたら良いのか、わからないな。厄祓術をするにしても、ここに来てもらわないと出し、どうしようかな。まずは、ここに来れるか確認してみるか。
「その思い、わかりました。喜六兄上の様子を見手、病気か何かを治せるのか確認することはいいですが、この大聖宮に来てもらわないと見ることは出来ないですよ。さすがに私が喜六兄上のところに赴くことは無理だと思います」
「喜六兄上が今のお寺に出家している状態でお寺から出るのは、難しいですが、出家先をこの大聖宮に変えられればいいのではないかと考えていたのだが、どうだろう。琴音様が受け入れるとおっしゃっていただければ、父上も母上も無理とは言わないと思うのだが」
「まぁ、父上も母上も私がお願いすれば、嫌とは言わないだろうから、いいけど。ここに来て、何か療養以外のことが出来るんだろうか。こう言っちゃなんだけど、この村の人、私の事を信奉しているから、私のために何かしたいって気持ちが強いでしょ。私のために動かない人が居るってのと、私が喜六兄上のために、何度も動いちゃうと、それをよく思わない人が出てこないかな。それだけが、今、聞いてて気になったかな」
「その通りだと思っております。その点をいかがしたものか、何も策がなく困っておりました」
「まぁ、こういうことは一人で悩んでもしょうがないから、氏兼達に正直に相談してみるのがいいんじゃないかな。そのうえで、動き方が決まったら、教えてよ。私もどう動くか決めるから」
「はぁ~、そうでございますね。一人で悩んでも答えは出そうにないので、本日こうしてご相談にあがった訳ですから、私が何か嫌って思っていては、話が進みませんので、氏兼殿にご相談してみます」
ーーーー数日後
次郎兄上が来た先日、隣の部屋で聞いていた氏兼は、次郎兄上からの相談を若干茶化しながら、ちゃんと聞いてアドバイスをしたようだ。
一旦、お寺に籍を置いたまま、諸国漫遊ではないが、安房の他の寺社仏閣を見て回る事で、功徳を積むという事を考えたようだ。
まぁ、いわゆる現代で言うと、寺院の門前や往来がある交差点など公道に立って喜捨を乞う托鉢のようなものを定期的に場所を変えて行うってことだと思う。
その托鉢の中で、この大聖宮に寄って少し逗留するってことで安房国分寺の体面を保つにしたらしい。
まぁ、体面はどうでもいいんだけど、喜六兄上がこっちに来てくれるなら、治せるのかは別として、厄祓術を試すしか無いかな。
今は、ちょっとしたケガを治したり、疲れを取ったりするぐらいしかできないから、スキルレベルを少しでもあげて、他のヒール系スキルを使えるように頑張るかな。喜六兄上の病気を治したいし。