0233. 閑話・【八百幻】調合準備を始めよう
「部屋の場所は、1階のこの奥にある初心者向け個室よ。簡易的な部屋で4メートル四方ぐらいの大きさだけど、1人で調合作業するのに必要な器材とかは揃ってるから。4番の部屋を使ってくださいね。部屋は空いてるので、中から鍵を締めてくだい」
「ありがとうございます。4番の部屋ですね。ところでなんで部屋を閉めないといけないんですか」
「それはもちろん、他の人が入って来れなくするためよ。琴音さんは初めてだから初心者向けの調合だと思うけど、人によっては、調合を見られたくなかったり、調合途中で部屋に入って来られて、作業を間違えたりする危険性があるし、そうすると、調合内容によっては爆発する可能性もあるわけ。それを回避するために、基本的に個室の作業部屋は人がいないときは常に開けてあって、人が入ったら、中から鍵を締めてもらっているのよ」
「中で何かあったら、入れなくて大変なんじゃないですか」
「それは大丈夫よ。ギルド職員なら、開けられるようになってるから、それと危ない気体が充満していてると、部屋のドアが赤くなるから、それでもわかるようになってるわよ」
「そうなんですね。私の調合は、若菜さんに聞いたモノなので、安全だと思います。なので、心配しないでください」
「あらっ、あの若菜さんが何か教えるなんて、珍しいわね。何を作る気なのかしら、気になるわね。私にも教えてくれるかしら」
「えっ、そうなんですか。まぁ、大したものではないですよ。首輪とブレスレットの魔導具を作りたくて、そのレシピを教えてもらったんです。今日はその中間素材の水溶液を作ろうかと」
「なるほどね、それじゃあ、私もお手伝いしちゃおうかしら。せっかく、若菜さんが琴音さんのお手伝いをしているなら、私もしますよ」
「えっ、いいんですか。受付に誰か居ないと対応できないんじゃないですか」
「あぁ~、今は居ないけど、そろそろもう一人の受付担当が戻って来る頃だから、大丈夫よ。それに、琴音さんの相手をしてたほうが面白そうだしね」
最後の方は、なんか聞き取りづらかったが、たぶん、私がやらかしたりするのを見て楽しもうとしているんじゃないかと。
まぁ、討伐系クエじゃないんだし、やらかすことはないと思うんだよね。でも、横にいてアドバイスもらえるなら、ラッキーかな。若菜さんから手順は聞いて、メモは取ったけど、初めての調合だから、どうなるかわからないしね。
「それじゃあ、お手伝いお願いできますか。初めてのことで、ちょっと心配だったので。先に部屋に行って、材料とかの準備をしてますので、もう一人の方が戻って来られたら、来てください」
アンネさんにそう伝え、4番の作業部屋に向かう。
作業部屋に入って、材料を出して調合器材とかを準備していると、ドアがノックされた。アンネさんが来たんだと思う。部屋に来てまだ5分くらいしか経って無いけど、思ったより早いな。手順を書いたメモの確認ができてないけど、まぁいいか。アンネさんに聞きながら、やることにしよう。
「どうぞ~。鍵を開けてあるので、入ってください」
廊下にいるアンネさんに声をかけて、入室を促す。
「おまたせ~って、あらっ、準備だいぶできているわね。私が来てから、準備するのかと思ってたわ」
「そんな失礼な事しませんよ。手伝ってもらうのに、器材とかを出して準備するくらい初めてでもできますし」
「そうぉ、意外にそういうことできない人多いのよ。生産ギルドに来る人で。調合とか錬金術ができる人は、自分のこだわりが強い傾向にあって、人のことを気にしないから、琴音さんの周りにもそんな人いない?」
「あぁ~、確かにそういう人いますよね。そんな感じの人だと、こういうときも自分のやりたいことしちゃって、準備をしてないかもですね。イメージで悪いですが」
「そういうことよ。なので、準備していて、少し驚いたのよ。1人で調合しに来てるし、若菜さんがサポートを積極的にしてるし、何か変わった人なのかなと思っちゃってね」
「ひっ、ひどい。初めて会ったのに、そんな風に見ていたなんて」
「ごめんなさいね。なかなか女性が1人この生産ギルドに来ることも少ないし、若菜さんの知り合いが来ることもないから」
「さっきから、ちょいちょい若菜さんの名前が出てきますが、若菜さんって、そんなに有名なんですか。生産ギルドとか冒険者ギルド以外でも」
「えっ、何も聞いてないの、若菜さんから。もしそうなら、私からは何も言えないわ。どこかのタイミングで本人から聞いてみたらいいわ」
まぁ、個人的な事情があるんだろうから、又聞きするのも良くないわね。覚えておいて、今度聞いてみよう。それにしても何があるのかな。まぁ、ギルマスへの態度や受付の人たちの態度を考えると、かなり気を使われる立場なんだろうなとは思うけど。
それより調合をしましょうを狐火ちゃんの首輪が大事よ。
「今日は若菜さんの事より、調合のほうが大事なので、作業に移りましょう。今度、若菜さんにあったときに聞くことにします。それで、このあとはどうしたらいいですか。一応、手順は若菜さんから聞いてメモがありますが」
「それじゃあ、そのメモを見せてくれるかな。間違いはないと思うけど、念の為ね」
「はい、どうぞ。これですよ」
アンネさんにメモを渡して確認してもらう。