0226. 閑話・【八百幻】初グッズ製作!失敗と成功の天秤
とりあえず今は、首輪とブレスレットの魔導具化に集中しよう。他の素材は使わないのだから。
「魔導具化に必要ないものは、気にしないで。それで下準備は終わったので、これからどうすればいいんですか」
「琴音さんは、錬金とか合成のスキルは持ってないでしょ。持っていれば、スキルで出来るところが多いけど、持ってない場合は、これね」
そう言って、若菜さんは、机の上の板を引き出して、下から何かの絵柄が描いてある板が出てきた。
「なんですか、その板は」
「これはねぇ、合成板よ。魔導具になっていて、簡単な素材を合成したり、錬金したり出来るのよ。スキルがなくても魔素を使って起動するから、楽なのよね。高位スキル持ちには必要ないけど、量の多い素材合成を工房などに依頼できるから、助かってるみたいよ。スキル無くても、これがあれば、簡易合成出来るから、下請けで生活している人もいるし」
下請業者がいるんだ。スキルがなくて合成出来るのはすごいけど、スキルがないと下請けで生活しないといけないなんて、現実の世界と変わらないのね。はぁ~、そこまで再現しなくてもと思ってしまった。
「へぇ~、便利なんですね。私もまだスキルを持ってないので、これで合成して、魔導具化するってことですね。どう使えばいいんですか」
「そんな難しいことではないのよ。単純に必要な素材を合成板の所定の位置に置いて起動させるだけね。ただ注意が必要なのは、所定の位置を間違えると、素材が使えなくなったりするから、何をどこに置けばいいか、チャレンジな部分もあるのよ。当然、すでに判明しているモノは、そこにある本に書いてあるから、それを見ながら置けば、失敗は無いわ。新規に何か研究しようと思わなければ」
「そうなんですね。まだわかってないこともあるですね。それで、今回の首輪とブレスレットの魔導具化は、わかっているんですか」
「それはわかってるわよ。なので、そこの本に書いてある通りに置けばちゃんと出来るはずよ」
「それじゃぁ、本を見ながら、置いちゃいますね。まずは、初めてなのでお試しで、私のブレスレットからにしますね。狐火ちゃんの首輪を失敗したら、ショックなので」
そう言って、ブレスレットの魔導具化の合成をするページを探す。ページを何回かめくるとお目当てのブレスレットの合成のページを見つけた。
素材の置き方は難しくなく、ささっと置くことができた。水溶液は、板の上に置いてある器の中に注げばいいようだ。
「若菜さん、ちゃんと置くことができましたよ。これで問題無いですかね。確認してもらえますか。それとこの後、どうすれば起動するんですか」
「ちゃんと出来てますね。これなら大丈夫だと思います。起動の仕方ですが、難しくなく、板の手の形の部分に手を置きながら、魔素をこの板に注いで、この板の横にある目盛りが一番上まで来たら、起動できる状態になるので、そしたら、この横にあるボタンを押すと起動しますよ」
なんか、ちゃんと機械っぽいな。ボタンもあるし、目盛りあるなんて。
「わかりました。ちょっとやってみますね」
若菜さんに教わった通り、魔素を注いで、目盛り一杯にしてみる。手の先から何か抜け出ていく感じがする。これが魔素なのかな
「これでいいですかね」
「えぇ、十分よ。あとはボタンを押せばできるはずよ。何も無ければ」
ちょっとぉ、変なフラグを立てないでよ。
「それじゃぁ、いきますね。えぃ」
ボタンを押すと板全体がふわっと光り、板の上に置いたブレスレットや素材が一塊になっていく。どういう原理で動いているのかよくわからないが。徐々にブレスレットに飲み込まれていき、そして、光が収まるのと同時にブレスレットのみが板の上に残っている。器の中の水溶液も空になっている。
「成功ですかね。これって」
「うん、そうねぇ。成功ですね」
「よかったです。それじゃぁ、狐火ちゃん用の首輪も作ってみます」
本のページをめくりながら、首輪のページを探す。数ページめくると、お目当ての首輪のページを見つけた。
首輪も無事に素材を板の上に乗せることが出来た。これも若菜さんに間違えないか、確認してもらおう。
「若菜さん、首輪も乗せ終わったけど、これで大丈夫ですかね」
「どれどれ、うん、大丈夫だね。さっきと同じようにやれば出来ると思うわよ」
「確認ありがとうございます。それじゃぁ、やってみますね」
さっきと同じようにボタンを押すと、さっき以上に明るく強い光を放っている。うぇっ、眩しい、なんか違う感じがする。これは失敗かぁ。うぅ~。
光がおさまって、板の上を見ると一応、首輪は残っていて、他の素材は先ほどみたいになくなっている。合成自体はどうやら出来たようだ。でも、品質がどうなっているのかわからない。見た目は変わらないから大丈夫かなと思うけど。
「できたのかな……?……どうなのかな………、若菜さん?」
「……へっ。…えっ。どうなってるの?」
「あれっ、若菜さん。いつもこうなんじゃないんですか。さっきよりも眩しかったですが、首輪も残ってますし、成功なんじゃ」
「……あぁ~、成功はしてると思うわよ。でも、今までこんなに光ったことなかったから、どういう成功なのか、ちょっと判断つかないわ。ねぇ、あとでこれをギルドで鑑定させてくれない」
若菜さんが顔をずいっと近づけてくる。
「……えぇ、いいですよ。でも、代わりに私のブレスレットとの方も鑑定してもらえると助かるんですが……」
「いいわよ。そんな手間じゃないし、首輪が鑑定してもいいなら、ブレスレットも一緒にしちゃうわよ」
「それじゃぁ、お願いします。このあとは、首輪とブレスレットの見栄えのカスタマイズをすればいいですかね」
「そうね。そうだけど、その前にできれば鑑定したいわ。今からギルドに戻って鑑定していい?」
「いいですよ。でも、時間がないので、鑑定してもらったあとにカスタマイズの作業をする時間が取れないと思います。明日以降でまた時間をもらえますか」
「そうね。こちらの都合で鑑定の時間を取ってもらうんだから、カスタマイズの説明の時間を明日以降でちゃんと取るわ。今日みたいに仕事終わりになっちゃうけど、時間がある時に声かけてくれるかな」
「わかりました。たぶん、明日も来ると思うので、明日でお願いします」
「わかったわ、明日ね。それじゃぁ、ギルドに戻りましょうか」
二人で合成板の片付けなどをして、ギルドに戻る準備をした。