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0020. 最後の夜は「笑顔の涙の物語」

 明日はついに大聖宮に引っ越しをする事になるが、引っ越しの準備は思っていた以上に楽であった。

 家電や家具などはもとより無くて、自分の着物やいろいろと生活環境向上のために作った絵図などだけで、食器類も勝手方かってかたが準備しているので私がやることは無いのだ。

 私は実はミニマリストだったのに引っ越しの準備中に気がついたのであった。

 先日、父上達に引っ越し準備は時間が掛かるって言ってた自分を殴ってやりたいわ。そんなに荷物なんて無いんだよって。



ーーーー引越し前日の夜ーーーー

「父上、母上、琴です。こんな夜にお呼びとはどうなさいましたか。火急な事が起きましたか」

 引っ越しは明日なので、最後の夜はノンビリとしつつ、思い出のこの館を少し歩き回っていたのだが、部屋に戻ると、「まつ」から父上達から呼び出しがあったと伝えられたのだ。


「琴、こんな時間にすまぬな。明日、大聖宮に向かうときには、そなたを姫御子様として敬い、話をすることになるからな。

 みなの前では、子として扱う事ができぬゆえ、最後に親子水入らずで話がしたかったのだ。

 今まで、儂達の子としていてくれて、ありがとう。そなたの話、行動、一緒に生活しておって楽しかったぞ。

 御神託がここまで多くあるとは思わなんだが、その御神託のおかげで、この安房に住む里見家の領民は、今までとは比べ物にならぬくらい豊かな生活を送っておる。

 里見家当主として、感謝の念に堪えん。本当にありがとう」


「わらわも、琴との生活は、楽しかったですわ。明日から、そなたは姫御子として生きていくことになりますが、そなたの母と父はわらわと殿じゃ。そのことは忘れないでおくれ。

 姫御子としての振る舞いに困った事、苦しい事があったら、遠慮なく文を書くのですよ。絶対に力になりますから。

 あなたの父と母は殿とわらわしかおらぬのです。どのような立場になっても、それは変わらぬことなのです。

 だから、そなたが寂しくなったら、何時でも文を書き、会いに来ておくれ」


「父上、母上、本当に今までありがとうございました。二郎兄ぃも含め、今日まで一緒に暮らせて、私は、琴は非常に楽しかったです。

 父上と母上には、御神託とはいえ、無理なお願いをしたり、御使い様(狐火ちゃん達)のことで驚かせたり、迷惑をおかけしました。琴は、今日まで何不自由なく生きて来られて幸せでした。

 明日から父上と母上の教えを胸に、姫御子として恥ずかしくなく、また、里見家の姫として立派だと思われるように今まで以上に安房の領民のために生きて行きまする」

 父上も母上も、目に涙を貯め、私をギュッと抱いたり、頭を撫でてくれる。この二人の子どもでよかったわ。そう思っていたら、涙が出て来て、グズグズと泣いてしまった。


「琴よ。その言葉、父として、里見家当主として、感無量で嬉しくはあるが、姫御子としての役割を全うするのが一番じゃ。そこだけは間違えないでくれ」


「御殿の言う通り、まずは姫御子として、御稲荷様のご意思に報いるようにするのが、まずは先ですよ。そのうえで、殿とわらわのことを忘れ無いで欲しいわ」

 二人とも私のことを第一に考えてくれてるわ。御神託なんて、あってないようなものなのに。ホントのことが言えなくて、申し訳ないな。


「父上、母上、お二人の最後の教え、しかと承知しました。御稲荷様の御言葉をしっかりと御神託として賜われるように大聖宮に行っても御祈念を忘れず致します。

 この先、どのような御神託が私のもとに賜われかわかりませぬが、父上と母上に助力を頼まねばならぬと思いまするので、よろしくお願い致します」


「そのようなこと、頼まれずとも力にはなるぞ。気にするでない。琴よ。最後の夜に来てくれてありがとう。もう遅くなるゆえ、部屋に戻りなさい」

 父上から部屋に戻るように促される。父上も母上も涙で顔がクチャクチャだ。もう耐えきれないのかもしれないな。


「父上、母上、それでは部屋に戻ります。本当に今までありがとうございました。そして、素敵な最後の夜をありがとうございます。涙で部屋を出るのは、悲しいので笑顔で戻ります」

 笑顔で部屋に戻ると言いながらも、目の前が滲んで見える。でも、表情は笑顔だ。私まで泣き顔になってしまったら、悲しみの夜になってしまう。

 最後の夜は、笑顔で去り、父上と母上に心配をかけないようにするのだ。

 でも、まさか、こんなに悲しいとは思ってみなかったなぁ。明日からは二人と離れ離れだが、できる限り会いに来よう。

 それと二人を含め、里見家の民、いえ、安房の民が死なないように、頑張って負けないようにしていこう。もっともっと、生活の質を向上しないとね。気合い入れて、頑張るぞ〜〜!


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