0197. 閑話・【将門公】鍛錬と葵との日々
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ーー数ヶ月後
かつて吾が戦った古戦場に似ている地にて、鎧を着込み、太刀を携えて、修行の準備をしていると、鞍馬天狗殿の子孫の葵がやってきた。
「やぁ、葵。おはよう。今日も元気だね。今日はどこに行って遊ぶのだ」
あれから葵と会う度に挨拶や話しかけをして、やっと最近、話ができるようになった。
「おはよう。将門公。今日は山の中腹にある滝で遊ぶんだよ。将門公も来る?」
「いや、吾はいつも通り、この辺りで修行をしておる。まだまだ小天狗達に勝てぬからな」
「ふうん、そうなんだ。それにしても、将門公って、よくここに居るよね。なんでこの場所を気に入ってるの。あまり見映えのする場所じゃないし、修行をするのも面倒な場所じゃない?この場所に何か思い入れがあるの?」
「あぁ、それはの、この場所が私が生前、最後に戦った場所に似ているからだ。ここで私は敵の大軍に囲まれて、少ない仲間達と共に戦をし、逆転を目指していたのだ。しかし、数に勝る敵に押されて、やがて討ち取られてしまった
。その時の気持ちを持ちながら、修行をしようと思っておってな」
「ふうん、そうなの。そういえば、将門公は昔、坂東で新皇を名乗って反乱を起こして、朝廷の軍に討ち取られたんだよね。それで、怨霊となって人間の世界に残り、悪人を罰したりしてたんでしょ。その話を聞かせてよ」
「怨霊になっていたかは、わからぬのだ。もしなっておったとしても、その頃の記憶は無いので、話はできぬ」
「えぇ~、そうなの。つまんないの。それじゃぁ、なんで反乱を起こしたの?それなら、覚えてるでしょ」
「あぁ、それなら話ができるが、よいのか。あまりおもしろい話ではないぞ、それに滝に行くのではなかったのか」
「滝は、話を聞いてから行くから大丈夫よ」
「まぁ、よいか。吾が戦争を起こしたのは、朝廷が坂東を軽視していると思ったからだ。坂東に住まう武士や農民の気持ちの代弁者として、坂東の独立を目指したんだ。吾の祖先が日本武尊であると主張して、神々の加護を受けていると言うてな」
「ふうん、そうなんだ。でも、神々の加護って本当なの?それに本当に日本武尊の子孫だったの」
葵は疑問に思ったらしく、怪訝な顔をしておる。
「それは、吾にもわからぬ。ただ、仲間達に信じてもらうため、証拠として自分の持つ宝剣を見せたり、易占術で天候を未来予測したりしたのだ。それと戦では、先陣を切り、強くて勇敢に戦う姿を見せて、みなに信じてもらっておった」
その後も、吾の生まれや育ちや家族など生涯の話や吾の戦いや苦労話をしたり、葵から人間界の変化や出来事について聞いたりして、時間を過ごした。
ーー二ヶ月後
いつものように修行に励んでいると、葵がやってきた。ここ数ヶ月は毎日のように、吾に会いに来てくれている。
「おはよう、葵。今日も修行を見学するのか」
「将門公、おはよう。そうね、今日も見学したいけど、実はお祖父ちゃんと話をして、私もあなたに色々教えてあげたいんだけど……」
「………んっ、………どうしたのだ。そなたのような幼子が。そなたは何を教えてくれるのだ?」
唐突な話に戸惑ってしまったが、まぁ、幼子の戯れを邪険に扱うこともなかろうと思い直し、何を教えてくれるのかに付き合うことにした。
「んっ、なんか小馬鹿にした感じがあるけど、まぁいいわ。私はね、お祖父ちゃんから神通力を教わってるんだよ。まだまだ弱いのしか操れないけど、雷や風を起こせるし、空を飛んだり、物を動かしたりも出来るんだからね」 葵は吾に対してに誇らしげに胸を広げて力強い声で言った。
「おっぅ、ほう、それはすごいな。では、そなたにその術を見せてもらおうか。それにしても、その術を吾に見せたり、教えたりしてもよいのか。鞍馬天狗殿の一族の秘伝では無いのか」
「まぁ、一族の秘伝かも知れないけど、今は扱える人が少ないみたいよ。お祖父ちゃんが言ってたけど。私も久しぶりに扱える子だと言われたわ。すごくお祖父ちゃんも母も父も喜んでたわ。そんなんだから、見せたところで使えるかはわからないから、いいんじゃないかってさ」
「そうなのか、まぁ、鞍馬天狗殿がそう言うのであれば、せっかくの機会であるので、見せて欲しい」
「わかったわ。それじゃぁ、私の神通力を見せるわね。最初だから、わかりやすく、雷にするね」
葵はそういうと空に向かって手を振り、雷雲を呼び、手を様々に動かし始めた。すると、空から稲妻が降り注いだ。さらに雷雲を操って、吾の周りで稲妻を踊らせたりもした。
「うぉっ、すごいな。そなたは本当に雷を起こせて、操ることができるのだな」
あまりのことに驚嘆した。
「えへへぇ、ありがとう。でも、これだけじゃないよ。私のできることは、次は風ね」
そういうと葵は今度は風を起こした。手を動かすたびに、強風が吹き始め、風を操って、吾の鎧や太刀を飛ばしたり、髪や衣服を乱したりした。
「おお、これもすごいな。雷に風、戦で役に立つ術ではないか」
「うふふ、ありがとう。でも、これだけじゃないよ。さっきも言ったけど、空も飛べるし、物も動かせるよ」
さらっと、理解できぬことを言うと、今度は足を蹴って空中に跳び上がり、そのまま空を飛んでしまった。
葵は空中で宙返りをしたり、回転したり、浮遊したりした。人が(人と言ってよいのかわからぬが)空に浮かんでおるとは、初めて見たぞ。驚きすぎて、言葉にもならぬ。
「将門公ってば、すごい驚いているじゃない。口が開いてるわよ。でも、これだけじゃないよ。物を動かしてあげるわ」
そう言って、今度は周りの草や木や石に手をかざし、動かし始めた。
草や木や石を操って、花束を作ったり、地面に文字を書いたり、絵を描いたりしている。
どこまで遠い距離や重い物まで動かせるのか分からないが、この力で城門の閂を開けられるのであれば、城攻めは容易くなるな。雷や風、空を飛ぶ力もすごかったが、戦に一番向いてるのは、この物を動かす力やもしれぬな。
もしかしたら、彼女は鞍馬天狗様の力を色濃く継いでいるだけでなく、神々の血を引いているのでは無いだろうか。だから、鞍馬天狗殿も可愛がっているのではないか。
それと吾は、葵の術を見ながら、ふと疑問に思った。前に鞍馬天狗殿と話した時に鞍馬天狗殿の得意な術は厄祓術であって、このような雷や風の話は無かったが、鞍馬天狗殿の一族で術を使える者たちにとっては、普通のことなのかと。