0196. 閑話・【飯母呂・将門公】それぞれの出会い
定期的に長く投稿しようと思いますので、ブックマークと☆、「いいね」で評価をしてくれたり、ゆるめの感想とご意見もらえると、嬉しいです!!
ーーーー飯母呂(筑馬)
琴音様にお仕えするようになってから、我が飯母呂一族の生活は豊かに、そして安心できるようになったきた。これもひとえに琴音様の姫御子としての御力によるものだと見受けられる。
ただ、最近気になることが1つ起きた。琴音様が将門公の事を詳しくお知りになりたいとのことだ。我が一族の中で口伝で伝えてきた話を知りたいとは、何かがあるのかも知れない。まぁ、儂にはわからぬことではあるが。
ーー思い出し
将門公は今は昔、平安と呼ばれし頃、この坂東において豪族であり、京の朝廷に対抗して「新皇」を自称し、坂東の地の独立を図った。理由は様々あったと伝え聞いているのだが、当時「新皇」になったことを悔いては無かったと伝えられている。
将門公は勇猛果敢に敵を攻め、ご自身の祖先が日本武尊であると主張し、神々の加護を受けているとみなに信じさせて、多くの坂東武士や農民を引きつけ、領地を拡げていった。しかし、この独立戦争は長くは続かず、将門公は藤原秀郷や平貞盛ら朝廷から派遣された官軍に討たれてしまったのだ。そのため、後世ではこの独立戦争を反乱とされてしまった。
我が飯母呂一族は、正しき歴史を紡ぐために将門公と別れ、朝廷からのさらなる追討を振り切って、生き延びてきたのだ。追われている中で将門公の弟や子ら近親者、御一門も皆殺しにされた。我が一族で匿っていた御一門の方も一族の者と一緒に討ち取られてしまったのだ。
討伐されたあと、将門公の首は京に送られて晒されたが、将門の魂は怨霊となって、世に災いをもたらしたという噂が流れた。
その後、将門公は崇徳天皇、菅原道真公と共に日本三大怨霊の一人として恐れられるようになってしまった。
だが、坂東武士の祖や坂東の守護神として、坂東では崇められるようにもなったのだ。
将門公と別れる際に託された将門公の想いを成就することが我が一族の悲願であるから今後も励らなくてならぬな。
ーーーー
ーーーー将門公
吾が朝廷に討たれてからしばらくして、坂東の地で守護神として崇められたり、京や西国では怨霊とされたりした。
そのせいなのか、吾に意識が戻ったのだ、神々の住まう地で。
吾はせっかく意識が戻ったのだから、現世に戻り、坂東武士や坂東に住まう農民に助力したり、悪人を罰したりしたいと思ったのだが、肉体を持たぬ身なので、そのようなことはできなんだ。吾は日々、この神々が住まう地で鍛錬のみをしておったのだ。
そんなある日、吾は鞍馬山の奥に住む大天狗である鞍馬天狗殿に出会った。
鞍馬天狗殿は吾よりも神格が高く、神通力という力を持ち、現世にも顕現できるようだ。
吾の意識が戻る前に一度、現世に顕現したという。その時は吾が死んで幾年も過ぎた頃で、源氏の血筋である牛若丸(源義経)に剣術を教えたと聞いた。
鞍馬天狗殿は吾に興味を持ったのか、話しかけてきた。『おお、貴殿は平将門殿か?その佇まい、久しく噂に聞いておった感じそのものであるな。貴殿はなぜこの山に来たのだ』
吾のことが噂になる事があるのであろうかと不思議に思うておると。
『いや、儂も人間界の動向に関心を持っておってな。前に弟子にした牛若丸に日ノ本の話を聞いたことがあってな。その時に平将門殿の反乱の話も聞いてのぉ』
「そうでございましたか。吾の独立戦争は、単なる反乱として、後の世に伝わっておるのですな。なんともなく、やるせないですな」
『人の世とは勝者の描く歴史物語であろう。栄枯盛衰、嘆いても致し方なかろう。それで、この山に来たのは、何ゆえじゃ』
「吾は生前、朝廷に対抗して新皇を名乗ったが、討ち取られてしまった。意識が戻ったあと、この地で様々な神々と話をして聞いてくと、吾は怨霊となって世に災いをもたらしたと現世で言われているのを聞いてな。
だから、現世での悪評を無くし、坂東に住まう者たちの足枷を軽くしたいと考えて、現世に顕現出来ないかといろいろと修行をしておりましてな。
この山に来たのも、たまたま修行が出来そうだと思うたまで。今は現世での吾の罪を後悔しており、償うべく、神々に敬意を払って修行をしておるのだ」
『なるほどのぉ、この山に来た理由はわかり申した。好きに山で修行をしてくだされ、時が合えば、儂の一族の小天狗達と修行するがよかろう。あと将門殿の神格が上がれば、自身の力で顕現出来るであろう。
ただし、1回の人の寿命の長さでは、難しいであるがな。儂も人の世で言う何百年とかけて、今ようやくであるからな。まぁ、この地で人の世の寿命とやらは関係ないがな』
「ご助言痛み入る。それではお言葉に甘えて、この山で修行をさせていただくとする。ところで、その横におる女性の子どもはどなたでござるか」
『おっ、いつの間に来ておったのだ。気づかなかったぞ。この娘は儂の孫?いや、子孫の子どもでな。名を葵という。まだ小さいから、この山の中をうろちょろ動き回っておるのだ』
「そうでございますか。それでは、葵殿、よろしく。しばらくここで修行をさせてもらう平将門と申す」
葵は、人見知りなのか、何も言わず鞍馬天狗殿の後ろに隠れてしまった。