99.葛藤
前話のフェルスがカッコ良すぎる
アリスは混乱していた。突然頭の中から声が響いたのだから当然だ。
しかも、その声は今まさにアリスがとろうとしていた行動を否定する内容だった。
『フルームがいなくなればエイシェルを独り占め出来るんじゃないかな?』
(なに、なんなのこの声!?わたしはそんな事望んでない!!)
『もっと自分に正直になりなよ。ここ数日悩んでたじゃないか。……正直邪魔だったんでしょ?』
謎の声は執拗にアリスに語りかける。
まるでアリスをそそのかして何かをさせようとしているようだった。
(違う!あなたは誰なの?わたしとなんの関係があるの!?)
『私は私だよ。自分自身がよく分かってるんじゃないかな?』
(あなたなんて知らない……わたしじゃない!!)
「ぅ……ぁあ……あ……!」
「アリス!!どうした?大丈夫か!?」
突然頭を抱えて苦しみ出したアリスを見てエイシェルが心配そうに駆け寄る。
アリスは目を見開き苦虫を噛み潰したかのように何かにひどく耐えているようだった。
『ほら、エイシェルも"私"を心配してる。"私"だけを見てくれる。だから消そ?邪魔者はみんないなくなればいい』
(勝手な事を言わないで!!フルームは大切な仲間なの!邪魔なんて……)
『じゃあなんで私の前でエイシェルと2人っきり楽しくしてるのかな』
(そ、それは特訓で同じような練習をしていたから……)
『違うね。フルームはセンスがいい。驚くことに私よりもね。』
(……何が言いたいの……?)
アリスは頭に響く声に対してイライラがピークに差し掛かっていた。
それこそ声の主の目的であるとは知らずに。
『だから悩んでたんでしょ?私はもう魔法で1番じゃない。せっかくやろうとしてたエイシェルの魔法の先生役を盗られちゃったものね』
(……うるさい)
『エイシェルもすぐに上達したわ。私が教えるよりもずっと上手に』
(……うるさい!)
『……エイシェルの1番盗られちゃうよ?』
(うるさいうるさいうるさいうるさい!!!!だまれ!!!!)
『あはっ。やっと繋がった』
その瞬間、アリスの意識は闇の中に包まれるのだった。
「……ス!…リス!しっかりしろ!アリス!」
アリスは意識を失い倒れてしまっていた。
突然のことに驚くもエイシェルはアリスの身体を支え、フラムはアリスのことも気になったが急いでフルームの元へ駆け寄る。
アリスが周りを見たところ、意識を失ったのは一瞬のようだった。
フェルスと騎士団員達はすぐに触手の相手をしている。
フルームが9本目の触手を断ち切った為、今脅威となり得る触手は一本だけであった。
その為なんとかフェルス達だけで抑え込むことができていた。
そうこうしている間に気付けばフラムがフルームへ高級回復薬を飲ませているところだった。
「アリス!大丈夫か!?突然どうしたんだ!?」
「……ごめんなさい。ちょっと頭痛と眩暈がして気を失ったみたいね。私は大丈夫。フルームは……セルロさんの回復薬を使ったみたいね。……それなら早くあの魔物を倒しましょう」
「お、おぅ。でもどうやって……」
「一回使ってるじゃないの。スコーピオの魔法」
「え……」
「本体を確認しないと……と、その前に生命力を回復しましょう。さっきの攻撃でかなり消耗しちゃったし…………ルミナドレイン!」
魔力を込めて魔法を発動させるアリス。すると一気に生命力が回復するのをエイシェルも感じた。
「……こんなものね」
ドオオォォォン
アリスが魔法を使った直後に船の背後に落雷があった。
あまりにも突然であったために驚くエイシェルとアリス。
しかし、驚くのはまだ早かった。
「……ビックリした。いきなり雷が落ちるんだもん」
「……あぁ、船の後ろの方だったな……?なんだ?あの白蛇、雷を纏ってないか!?というか、ものすごい速さで突っ込んでくるぞ!」
「へぇ……」
エイシェルが白蛇の接近に焦っているとその横でアリスが不気味にニヤリと笑っていた。
しかし、エイシェルはその様子に気付かなかった。
「みんな!!背後の魔物に追いつかれる!何人か後ろに人を割けないか!?」
「なんだって!?もう追いつかれるのか……!すまん!こっちは手一杯だ!どうにかならんか!?」
「どうにかならんかって……おれたちでやるしか無いのか……!」
「私が相手するわ」
「アリス……?」
エイシェルはフェルスに増援を頼んだがあちらも手一杯だった。
フラムもまだフルームに回復薬を飲ませているところであり、動けるような状態では無い。
そんな中アリスが白蛇の相手をすると申し出たのだ。
「エイシェルは見てて」
「何を言ってるんだ!あんな相手に1人で立ち向かうなんて無謀だ!」
「大丈夫よ。ハクは私の言う事聞いてくれるはず」
「この前はなんとかなったが、今回はそうもいかないかもしれないだろ!?」
「その時は……私がハクを倒すわ」
アリスは感情のない声で言い切った。
エイシェルはその言葉を聞いてから何も言えなくなってしまう。
するとアリスは船の後方へと歩き出して行くのだった。
「フルーム!フルーム!!」
フラムがフルームを抱きかかえひたすら名前を叫ぶ。
フルームはかろうじて息をしているような状態だった。
「フルーム!お願い!死なないで!あなたがいなくなったら……私……!」
きっともう立ち直れない。フラムはそう思ってしまった。
フラターの話を聞いてフラターの心の痛みを分かった気でいた。
でもそんなことは無かった。
いざ、大切なものが失われようとしているのを目の当たりにし、心が簡単に折れてしまいそうなのだ。
フラターの場合は大切な仲間が何人もいたはずだ。それがみんないなくなってしまった。
相当傷ついたに違いない。そう考えると今でも冒険者ギルドの職員として働いているフラターはとても強い人だったのだとフラムは気付いた。
「でも……無理だよ……ひとりになったら私……きっとなにもできない……」
フラムは目に大粒の涙を浮かべつぶやく。
すると、答える声があった。
「……勝手に……殺さ……ないでよね……」
「フルーム!!」
致命傷かと思われたが意識を取り戻したようだ。
それでも身体を動かせる状態では無いようで会話も途切れ途切れである。
「お姉……ちゃん……お願いが……あるんだけど……」
「お願いなんていつでも聞くから!今は黙って安静にしてて!!」
「大丈夫……だよ……?たぶん、竜の血が効いてる……」
「竜の血……?」
フラムはあまりの出来事に忘れていたが、竜の血を飲んだせいでフラムもフルームも常人とは比べ物にならないほどの治癒能力を持っていた。
致命傷から回復できたのはセルロが作った特別な回復薬のおかげもあるが、この治癒能力が無かったらきっと意識が戻るまでにもっと時間を要しただろう。
……逆に回復薬が無かったらどうなっていたかわからない。
治癒能力は生きていなければ効果がないが、
触手に弾き飛ばされた衝撃でフルームの臓器はいくつか使い物にならなくなるほどのダメージを受けていたはずだ。
そうなるといくら自然治癒能力が高いと言っても生命を維持できない。
それを急速に回復させたのがセルロの回復薬だったのだ。
「私、死んだかと思った……今度こそ本当に……でも、お姉ちゃんのこと……考えたら……死んでられない……ってね」
「なによそれ……」
「逆の立場を考えたら……やだもん……」
「フルーム……」
フルームはフラムの気持ちを、心の痛みを正確に理解していた。
人の痛みなど所詮は人の痛み。
正確に理解などできないのが普通である。
それが長く一緒にいたフルームには痛いほど分かるのだ。
「それよりも……あのイカの魔物を倒して」
「分かってるわ、でもどうすれば……」
「私の剣……お姉ちゃんの剣に……重ねてみて」
フルームが精一杯力を込めて指差した先には、先程フルームが魔法で生み出した剣が消えずに転がっていた。
「あの剣に残ってる私の魔力だけだと足りないから消えちゃいそう……お姉ちゃんの剣についてるアリスの魔力と……一緒にお姉ちゃんの剣に纏わせて……」
身体が回復してきているのかフルームの話し方も心なしか力強くなってくる。
「そんなの分からないよ!どうやってやれば」
「お姉ちゃんなら出来るよ。大切なのはイメージと強い気持ち。あとは魔法が叶えてくれる」
フルームが断言する。
そんなことを言われたらもう何も言えないではないか。
「……そこで大人しくしてなさい。ケリをつけてくるわ」
「……はーい」
覚悟を決めたフラムが歩き出す。
フルームは出来るだけいつも通りの反応を装い気の抜けた返事をしたのだ。
フルームの顔には自然と笑みが浮かんでいたのだった。
次回も戦闘パートです




