97.船上の戦い
ちょっと時間できたので更新。
久しぶりの戦闘回です!
フェルスが船長へ逃げるように言いに行くとまもなく船の速度が上がった。
「よし!速くなった!これでどうだ?」
「まだ追ってきてるけど……少しずつ離れていってる!これなら逃げ切れそう!」
「この調子ならなんとかなりそうね……しかし、あの影ってあの時の大きな白蛇よね?またあの魔物と遭遇するなんて……」
フラムはあの時の光景を思い出し血の気が引くのを感じた。
しかし、気を持ち直し遠くに見える影を見つめる。
それは、もう2度と仲間を見捨てないといった決意の現れであった。
そんな中、アリスが人知れずきょろきょろと辺りを見回していた。
("ハクが来た"ってことは何か知らせたいのかしら……?特に何もなさそうだけど…………というか、そもそもわたしはなんでそう思ったの……?ハクって何?……わたしの中にいるのは誰なの……)
アリスがまた自分ではない誰かが自身に宿っているのを感じ不安に襲われていた。
自分が分からなくなる感覚。どこまでが自分なのか境界が曖昧に感じられた。
こんな事相談したって解決なんてできるものでもない。
ただ相手を不安にさせるだけだ。
そう思い黙ったままアリスは視線を船の下に落とした。
(エイシェルに相談する?……ううん、心配かけるだけね。話したところで何かできるわけじゃないし…………あれ……船の影ってこんなに大きかったっけ……?……影がズレていってる……?いや、これは…………なにかいる!?)
たまたま俯いた視線の先に大きな影が映る。
最初は船の影だと思ったが、よくよく目を凝らして見ると船が速度を上げたことで船とその影の間にズレが生まれた。
……つまり船と同じくらい大きな何かが船の下にいる事を意味していた。
「みんな!船の下になにかいる!!」
アリスが叫んだその瞬間、船が大きく揺れた。
「きゃっ」
「うわっ」
「みんな!何かに掴まって!」
「おちるーーー!」
4人がバランスを崩している間にその何かが海から出てくる。
アリス達が顔をあげると、そこには大きな触手が複数現れていた。
「これが例の魔物!?」
「ダメ!このままだと捕まっちゃう!!」
「ええ!?戦わなきゃダメってこと!?」
「どのみち、戦わなきゃ海に引きずり込まれるぞ!!アイスアロー!」
エイシェルは魔法で氷の矢を生み出し、船を掴もうとしていた触手に矢を放った。
エイシェルとフルームは船の上の特訓でオリジナルの魔法を生み出していた。
初めはウォーターボールから始まりそれぞれ形を変えていたのだが、フルームが必殺技を考える子供の感覚で「ウォーターカッター!」と叫ぶと今までの工程をすっ飛ばして瞬時に円盤状の水が現れたのだ。
魔法とはイメージの具現化に他ならない。
究極を言うと術者が明確にイメージできる言葉であればなんでもいいのだ。
魔法名を唱えれば魔法が安定するとあるが、それは口に出す事でよりイメージが鮮明になり魔法の効果がハッキリと現れるからである。
本当にただそれだけのことなのだ。
エイシェルはフルームのマネをしてここ数日で練習し、オリジナルの魔法をマスターしたのだった。
エイシェルが放った矢は、真っ直ぐに飛んでそのまま触手に刺さった。
すると、触手にも痛覚があるのか魔物は驚いたように全ての触手を海の中へ戻したのだ。
「フラム!フルーム!今のうちに剣に魔法を付与するわ!」
アリスが叫び、フラムとフルームはその声に従う。
フラムとフルームが剣をアリスの前に出すとアリスは魔力を込め、フラムの剣には炎が、フルームの剣には水が纏い、ワイバーンと戦った時の剣が現れる。
いつ見ても惚れ惚れするほどに輝かしい剣を持ち、フラムは気分が高揚していた。
フルームにも付与したのは、午前にも特訓で少し生命力を消費してしまっていた為、少しでも温存してほしいからだ。
「竜玉も渡しておくわね。あと、念のためこれも持ってて。セルロさんから貰った高級回復薬。わたしとエイシェルならわたしが自分にヒールすればすぐ治せるけど、2人はそうもいかないもの」
「ありがとう!あ、でも私の鞄だと竜玉しか入らないや……」
「それなら私が預かるわ。私の鞄ならフルームのより少しだけ大きいから」
アリスは念のために前日魔力を込めて置いた竜玉と、セルロから貰った回復薬をフラムかフルームに渡そうと考えた。
フルームの鞄は竜玉でいっぱいになる為、回復薬はフラムが預かることとなった。
フラムとフルームの鞄は、鞄とは言っても戦闘に邪魔になないよう、腰に巻き付けるような形をしている。その為、必然的に鞄は小さくなり持ち運べるものは限られた。
「おい!大丈夫か!?」
先程船長へ逃げるように言いに行ったフェルスが戻ってきたようだ。後ろには騎士団のメンバーも揃っている。
「パパ!魔物が船の下に!!」
「なに!?追いつかれたのか!?」
「追いかけてきたのとは別のやつ!おっきいタコみたいな魔物が下にいる!」
「そんな……」
フラムとフルームの報告を受けフェルスは天を仰いだ。
後ろから追ってきた魔物でさえ太刀打ち出来ないと思い逃げようとしたのに、さらに警戒していた魔物まで現れたと聞いたら絶望しかない。
しかもその魔物は船の下にいると言う。
どう考えても助からないと思うのが自然だった。
フェルスが絶望していると背後から声が聞こえた。
「来る時にチラッと見えたのが例の魔物だろ?ようはあの触手を船に捕まらせなければいい話よ。お前ら!触手一本船に触らせるな!」
「「「おーーーー!」」」
「うちの班も続きましょう。お世話になったこの船のみんなを協力して守るんだ!」
「「「おーーーー!」」」
「いいか!今この時班は関係ない!協力してあたれ!」
「「「「「おおおおおーーーー!!」」」」」
サウナで競い合っていた騎士団のメンバーが船の上で散らばる。
どこから触手がきてもこの船を守るといったように海に向かって船を囲むように並んだのだ。
「お前ら……」
「団長がそんな顔をするなんてらしくないですよ」
「そうだぜ、サウナ勝負であんなに怒っていた団長はどこに行ったんだ?」
「そうだな……。お前たち、全力でこの船を守るぞ!」
「「了解!!」」
一度は心が折れかけたフェルスだったが、班長2人に励まされなんとか気を持ち直した。
どうせ死ぬかもしれないなら足掻いてやろう。そんな気持ちだったが吹っ切れたフェルスはとても頼もしく見えたのだった。
「まずは2人1組で配置につきなおせ!多少隙間が空いても1人になるなよ!」
「「「了解!」」」
フェルスは二人組になるよう指示を出し、ひとりにならないように指示を出した。
普段は一人ひとりが優秀な兵士のため、効率を考えてそれぞれ少し離れた配置にするが、今回ばかりは相手が悪い。もともと勝ち目などないような相手のため少しでも協力して戦うために多少の隙間が開こうとも複数人で戦えるようにしたのだ。
何より、1人が危険になってももうひとりがフォローに入れる為、生存率を上げることができるのではと考えた。
理想を言えば3人1組が良かったが、あいにく船の上にいる人数では隙間ができすぎる。
その為2人1組が妥協点だった。
騎士団員が並び直したところでフェルスから声がかかる
「すまないがお前達にも手伝ってもらうぞ!まだお前達の戦い方を把握していないから、指揮下に入るのは逆効果だろう。自由に戦ってくれていい」
「そんなこと言われなくたって」
「私達もやるよー!」
フェルスの呼びかけにフラムとフルームが元気よく答える。
2人は特訓の成果を見せるべく意気込んでいた。
そんなこんなしているとまた触手が現れる。今度は矢に当たらないよう不規則にくねらせながら船に近づいてきた。
八方から触手が迫る中、エイシェル達4人が動き出した。
目標が8本あるため、それぞれ別の触手を担当するようだ。
「いくら動いても根本はそこまで大きくは動けないだろ?そこを狙う!アイスアロー!!」
エイシェルは先程と同様に氷の矢を出すとすぐさま触手の根元へ矢を放つ。
「私も行くよー!ウォーターカッター!!」
フルームも覚えたての魔法でエイシェルと同じく根元の方を狙い触手を攻撃した。
「今なら魔法使い放題だもの!ファイアボール!!」
フラムははじめて竜玉を使った時くらいの火力の火球を生み出し、勢いよく触手へと放った。
「うぇ……うねうねと気持ち悪いわね……。ウサギモドキを思い出すわ……!ウィンドカッター!!」
アリスはウサギモドキでのトラウマで若干の吐き気がしたが、それを打ち払うかのように思い切り魔力を込めて風の刃を放つ。
それぞれの攻撃が命中し4本の触手は船から遠ざかる結果となった。
エイシェルの矢は職種に深々と刺さり、フルームの攻撃では触手の表面に深い切り傷を入れることができた。
フラムの火球は触手を焼き、慌てた魔物は触手を海の中に戻す始末。
アリスの攻撃に至っては触手の中腹から先を切り落としていた。
その光景を見ていたフェルスと騎士団員は驚いていた。
フェルスはエイシェルとアリスのことは猿の魔物討伐の話を聞いていたため、実力があることはわかっていたが、いつのまにか娘達が同じ土俵で戦っているではないか。
しかも、今まで娘達が使っているのを見たこともない魔法で攻撃しているのである。
騎士団員もフラムとフルームのことは知っていたので、フェルス同様驚きを隠せなかった。
「なに!?いつの間に魔法を使えるようになったんだ!?フルームの魔法は見たことがない……フラムに至っては一本燃やし尽くしそうな火力じゃないか!!」
「お嬢さん達すげぇな!お前たち!負けてられないぞ!」
「本当にすごい……。まるでルードス殿の魔法を見ているようだ……。私達も気を引き締めていくぞ!」
「「「おおおおお!!!」」」
残りの触手の攻撃を騎士団員が剣で応戦しながらエイシェル達4人とフェルスがそれぞれフォローに回る。
「私もかつては英雄と言われた身。若い奴らには負けてられんな!!」
フェルスは押し込まれそうな場所を見つけるとそこへ駆け出し、剣を振るった。
その見事な剣裁きで触手の先を切り落とし、触手を船から遠ざけることに成功していた。
そうこうしているとうまく連携がとれてきて騎士団員で足止めし、5人がそれぞれ触手を船から遠ざけると言った構図が出来上がっていた。
うまく回せているとはいえ、皆焦りを感じていた。
今の魔物の対応に時間と手が取られているのに、背後には変わらずもうひとつの脅威が迫っていたからだ。
戦い始めてから半刻ほどで事態は急展開を迎える。
引き続き戦闘が続きます




