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ジェミニ 〜魂の契約者達〜  作者: えいりす
第三章 王都への旅
94/223

94.通信機

2022年なりました!今年もよろしくお願いします!

今回は一方その頃シリーズです。

エイシェルたちが出発してから数日経ったカスース町の冒険者ギルドの一画に30人ほど集まっていた。




「……集まってもらったのは他でも無い。今まで調査班から定期的にあった報告がここ数日でパッタリと途絶えている。きっと何かあったに違いない。そのため誰か調査班の行方や対象について情報を持っていないだろうか」




集団のリーダー格の男が神妙な面持ちで話しかけた。

事態は急を要すると考えた男は緊急の会議を招集したのだ。




「アンディさん、そういえば、調査班は帽子亭を拠点に活動していたと聞いてましたが……」


「あぁ、そこはもう確認した。数日前から帰ってないみたいだ。」




リーダー格の男はアンディと呼ばれていた。

急な呼びかけにも関わらずすぐに人が集まるくらいに人望のある人物のようだ。




「そういえば……俺、なんか調査班が馬車の手配しているところみたっす」


「馬車だぁ?なんでまた…………まさか?」




集まった中で若い冒険者がアンディに向けて思い出した内容を話すとアンディは不思議そうな顔をした。

ここ最近の報告を聞いていた限りではこの町から離れるような素振りは感じられなかったからだ。

しかし、アンディの頭の中にひとつの噂がよぎった。


そんな中、最初に宿屋の話をした冒険者が再び声をあげた。




「アンディさん、素直に受付に聞いたら教えてくれないんですか?あなたなら教えてくれるでしょう?」


「それはだめだ。こればかりは俺の意地を通させてもらう。いいな?絶対に聞くなよ?」


「はぁ……分かりましたよ。あの受付嬢の話になるといつもこうですね……。何かあったんですか?"元部下"とかでしょう?あなたはここの"前ギルドマスター"なんですから」


「そうですよ!あなたがいたからこのギルドは大きくなれたんですよ?」


「ええい!うるさい!今はひとりの冒険者だ!昔の肩書きなんて忘れろ!」




そう、アンディはかつてこのカスース町のギルドマスターをしていた。

とある事件をきっかけに代替わりをしたのだ。

そして、周りの冒険者達はアンディが冒険者ギルドマスターを退任したことは聞かされていたが、新任のギルドマスターが誰なのかは知らされずにいる。

それはセラスの希望であり、他の冒険者と会話する時に遠慮されて思った事を言ってもらえなくなる恐れがあるとかで前代未聞のギルドマスター非公開としているのだ。

もちろん職員はセラスがギルドマスターと知っているが他言無用とされている。

そのため、周りの冒険者達はまさか受付嬢がギルドマスターをしているなんて夢にも思っていないのだった。


アンディは冒険者達の質問に一喝して黙らせる。

ここまではいつもの光景であった。


そんなところにひとりの男が冒険者ギルドに駆け込んできた。




「アンディさん!ここでしたか!」


「おぉ!お前は調査班の!今までどこに行っていた?他のやつはどうした?」


「それがちょうど今着いたところでして……いや、まず報告があります!……目標が……王都に渡りました……!」


「なんだって!?誰か同行できたか!?」


「いえ……乗船券が異様に高くて同行できず……。調査班残り2人はパエニンスラ港町の宿屋で、その……戦意喪失してしまいまして、寝込んでます!」


「なんてこった……船に乗るための資金集めで依頼を受けていたのは知っていたが、噂通り今回の船で旅立つとはな…………このままだと…………涙食姫ファンクラブが解散になってしまう!?」





そう、ひとりの冒険者となったアンディは涙食姫ファンクラブ会員1号だったのだ。

そして、この集まりはファンクラブの集まりだったのだ……!


帽子亭で出会った泣きながらシチューを食べる少女。

食事中に息をするかのようにヒールを使い、何より美味しそうに食べる。……泣きながらだが。


そんな少女をみたアンディは長年ギルドマスターをしてきた経験から只者ではないと考え、少女の活躍を見守ることにしたのだ。そして、後にいわゆる追っかけの集まりを立ち上げることになった。

ちなみに最初に発言をした冒険者は立ち上げメンバーの1人で、当時、帽子亭で一緒に食事をしていたのだ。


少女を目撃した翌日、ヒールを使ったことから冒険者ではないかとアタリをつけて冒険者ギルドで張り込みしていると、なんとまだ冒険者登録もしていない駆け出しの冒険者だと分かった。

しかも同じく冒険者登録したばかりの少年とパーティを組んで依頼を受けるというではないか。

依頼も実力に自信がないと躊躇してしまう大猪の討伐。

だが、それだけならここまでファンクラブは大きくならなかったであろう。

1番の原因は大猪を最小限のキズで討伐し、尚且つ芸術的なとても透明度の高い氷で固めて運んだことだった。

依頼をどのくらいの完成度で達成出来るかでその冒険者の実力がわかる。討伐依頼だと獲物をズタズタにして終わらせるのが普通だろう。ましてや大猪のように大きい相手には恐怖するのが普通である。

そんな相手に対して手加減なんて出来ない。普通攻撃痕が無数に、身体中にできて然るべきであった。

それが最低限の傷、しかも食肉のことまで考えて丁寧に血抜きまでする始末。よっぽど余裕がないと出来ないことである。

それはつまり相当な実力がある事を意味していた。

そして極め付けの氷。かなり大きな猪の体をスッポリと覆う程の氷が極めて透明度が高く、尚且つとても強度があった。

その強度については解体職人の折り紙付きである。

そんな事ができるのはアリスの父のルードスくらいだろう。


それを2人のうちどちらかがやったのだとすれば、当然ヒールを使っていた少女がやったと考えるのが自然である。

この時点で注目株となり、ファンクラブの発足が確定したのだった。


その後も素晴らしい活躍の数々、パーティに加わった姉妹剣士がもともと一部からの人気があった事もあり、涙食姫ファンクラブのメンバーは一気に増えたのである。



そんな中起きた今回の出来事。

アリスたちが王都へ行ってしまうと新しい活躍の話が仕入れられない。

そうなるともはやファンクラブの存在意義がなくなってしまう。

まさにファンクラブ発足以来の危機であった。




しばらく沈黙した後、アンディが意を決したように話し出した。



「…………仕方がない。あれを使おう」


「あれってなんですか?」


「実はギルドには各ギルドと連絡を取るための通信機が設置されているんだ。当然ここにもある。我々が向こうに行けないのであれば、向こうにいる奴らに情報収集をさせればいい」


「そんなものがあったんですね……というかそれって今は使ってないですよね?ギルドからの手紙を港町まで運んだことありますし……何故今まで使わなかったんです?聞く限りすごく便利そうじゃないですか」


「…………昔に王都のギルドマスターと喧嘩をした事があってな。もう2度と声を聞きたくなかったから、それ以来通信機が壊れた事にして手紙でやり取りをするようになったんだが……今はそんなことも言ってられん!こうなったらファンクラブの王都支部も作ってやる!」


「「「おぉぉ!!!」」」



アンディは大きな声でファンクラブのメンバーに意思を伝える。たしかあちらもギルドマスターが代替わりをしていたはずである。

そのため通信機が直った体で通信を始めれば良い。


アンディはそうとなったらどう言う筋書きで王都のギルドにメンバーを増やそうかをメンバーと考えようと意気込んでいたが、その背後にものすごい圧を纏った人が近づいていた。



「…………アンディさん……?」


「なんだ?今いそがしぃ…………せ、セラス!?」


「お、受付のねーちゃんじゃん!アンディさんになんか用?」


「はい……。"ギルドマスター"がアンディさんをお呼びです。来ていただけますね?」


「おお!ギルマスから呼び出し受けるとかなにか重要な重要な相談とかじゃないですか?」




周りの冒険者にとってアンディはいち冒険者として活躍しているが、ギルドの仕事からは引退していたため、この様にギルドマスターから呼び出しを受けることなんてなかった。

……そもそもそう言った相談事なら受付で済ませている。わざわざ呼び出す必要はないのだ。


それをわざわざ呼び出すと言うことはどう言うことか。

そう、"先ほどの話"はセラスにとって初耳なのだ。

最初はファンクラブの活動と思い多少の集まりは容認していたが聞き慣れぬ単語が出てきたため、黙ってはいられなくなった。


当然、アンディは声をかけられた瞬間に通信機のことだと確信する。ただ、あまりにもセラスの圧が強かった為、雀の涙ほどの可能性をかけてまずとぼける事にした。




「は、ははは……ナンデショウカ……?」


「ただの"相談"ですよ?……来てくれますね?」


「そ、相談ならあとでも……」


「来ますよね?」


「……はい……」




アンディは後悔した。今のセラスは頭がぷっつんしている。

いう事を聞かないと後でどうなるかわからない。

ただでさえ誤魔化そうとしたせいで怒りを買ってしまっていた為、もう逃げ延びる道は断たれていた。




「……みんな、今日は集まってくれてありがとうな……。一旦解散とする……」


「はい!後で今のギルマスがどんな人か教えて下さいね!!」


「…………それではアンディさん。こちらへ……」


「ハイ……」




その日、その後にアンディを見たものはいない。

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