89.船内初日(夜)
お昼を食べた後にエイシェルを部屋まで運んだアリス、フラム、フルームの3人はエイシェルが動けなくなってしまった為3人で船内を適当に回って過ごした。
夕飯になってもエイシェルがダウンしていたが、エイシェル自身まだお腹がすかないという事と寝ていれば問題ないと言った為、3人は言葉に甘えてエイシェル抜きで夕飯を済ませる。
夕食もバイキング方式でお昼とは違った料理が並んでいた。
どれも美味しくエイシェルがいない事をアリスとフルームは心底悔しがっていた。
「不覚だったわ、夕食の方が心なしか豪華だった気がする……」
「エイシェルには夕飯に頑張ってもらうべきだったね……」
「……2人ともエイシェルをなんだと思ってるのよ……分からなくはないけど……」
「だってあのスープ美味しかったんだもん。少し酸味があってさっぱりしてるんだけどコクがある。そんな感じのスープだったわね」
「私はあのサラダのドレッシングが気になったかな?すごくこってりしてたけど何使ってるんだろう?」
「エイシェルなら食べて分かるのかしら……?」
アリスとフルームのエイシェルへの扱いが酷いと思ったフラムだったが、なんだかんだ料理の再現を期待してしまっている手前2人の気持ちも分かっていた。
夕食の感想をひと通り話終えた3人はそのまま大浴場へお風呂に入りに向かうのだった。
大浴場へ着いた3人フラムとフルームが服を脱ぎ浴室へ向かうがアリスはモタモタしていた。
「アリス?先入ってるわよ?」
「う、うん。先行ってて……」
フラムはアリスに声をかけるがなんだか歯切れが悪い答えが返ってきた。
「どうかした?」
「いや……あまり他の人と一緒にお風呂って入ったことがなくてちょっと恥ずかしいと言うか……」
アリスは物心がついた時にはひとりでお風呂に入っていた為、他人がいる中で服を脱ぐというのが恥ずかしかったのだ。
フラム達に会ってからもお風呂は交代で入っていた為一緒に入るなんてことはなく、言わば人生初の裸の付き合いである。
「なんだーそんなことかー」
「なんか今更って感じがするわね」
「……あとちょっと、ね。最近食べ過ぎてたかなって……」
どちらかと言うと後者が大きな要因だった。
「それこそ今更でしょ……注意はしてたからね?」
「うぅ……反省してます……」
フラムに幾度となく注意されていたことである。
自分自身気をつけているつもりであっても目の前に食べ物があると欲望には勝てないのだ。
アリスが反省しているとフルームがとんでもない事を言い出す。
「別に相手が私達だから気にしなくていいでしょ?……まだエイシェルに見せるわけじゃないんだから」
「み、見せないからね!?っていうかまだって何よ!?見せる予定なんて無いから!?」
「うっかり事故とかあるでしょ?そんな感じで……」
「ないからね!!?」
「ほんとかなー?」
「ほら、バカ言ってないで早く入るわよ?いつまでもここにいたら風邪ひいちゃうわ」
フルームがアリスをからかっているとフラムが呆れて口を挟む。
そのやりとりで吹っ切れたのかアリスはいそいそと服を脱ぎフラムとフルームに続いて入ろうとする。
するとフラムが何かに気づく。
アリスはフラムの視線に気付き恥ずかしそうに身体をよじる。
「な、なによ……」
「……いや、アリスって着痩せするのね……」
「ほー……エイシェルもイチコロだね」
「そ、そういうのいいから!」
アリスは顔を真っ赤にしながらそそくさと浴室に入るのであった。
大浴場はとても広く様々な種類のお風呂が用意されていた。
サウナやジャグジー風呂もあったが中でも一際目立つのが美容に良い効能があると説明書きがあるお風呂がある。
「美容にいい……ねぇ……?」
「肌がつるつるになるって……ほんとかなぁ?」
「透き通る肌になります……なんて嘘くさいわよね……?」
3人はそうは言うものの、身体を洗うと真っ先にその美容に良いお風呂へ入るのだった。
3人はお湯に浸かると心なしか肌がすべすべするように感じた。
お湯の温度もちょうど良く、いつまでも入っていたいほどとてもリラックス出来た。
「はぁ……気持ちいいわね。やっぱり大きなお風呂は快適ね」
「そうね……きもちいい……。そういえば、気になったんだけど、2人は何回か船に乗ったんだよね?この美容の湯には入らなかったの?」
「あー、それね。なんか毎回ここだけ変わるんだよね。こっちに来た時は薬湯だかですごい色してたよ?」
「あれはすごかったわね……。そういうわけだから、美容の湯は初めてね。……そもそも大きなお風呂ってたゆったり出来ていいじゃない?こんなに大きなお風呂を私達だけで貸切状態よ」
「そういえば誰もいないわね……わたしたち以外に女性のお客っていないのかしら?」
「行きの時も私達以外いなかったから、今回もいないんじゃないかな?」
「それはそれで、なんかもったいないわね……入れ替えるだけの元は取れてるのかしら……?」
フルームが言うには大浴場の一画だけ航海の度に変わるようだった。
実はこれは船のオーナーの意向で変更している。
毎回同じだと飽きられてしまうと思い、毎回乗っても飽きられないように、せめて一画だけでも出発前に違う湯に入れ替えるようにしているのだ。
……ただ、この船を使うのは商人や騎士などが仕事で使うことが極めて多く、必然的に女湯は利用頻度が低くなってしまっていた。
その為せっかくなのでお客の利用時間外は従業員にも開放しており、従業員の密かな娯楽と化している。
それが話題となるせいか、女性からの仕事の応募が多いのだとか。
……余談だが、小屋でチケットを売る人も同じ応募から入るので、チケット販売に回されないことを祈り応募するらしい。
アリスが船の経営をほんの少し心配しているとフルームが急に話題を変えた。
「ところで、アリス今日はどうだった?」
「すごく楽しかったわよ?船に乗るのも憧れてたし、食事も美味しかったし」
アリスは思った事を素直に答えた。話に聞いていたように甲板での風が気持ち良く憧れの体験ができたし、様々な施設があり見ていて飽きない。それに出てくる食事も美味しく、アリスにとってとても満足な一日だった。
しかし、フルームが言ったのはそう言うことではない。フラムも気になっていたのでつい口を挟んでしまう。
「それはそれでよかったんだけど……フルームが言ったのはそうじゃなくて、エイシェルとのデートはどうだったのかってことよ」
「そうそう、もしかしてもうちゅーしたんじゃないかって話してたんだ」
アリスはやはりきたかと内心思っていた。
正直午後の散策の時間や夕食の時に聞かれるものかと思って身構えていたのだった。
実はフラムとフルームは我慢していた。
2人は気を利かせ、アリスが初体験の船を満喫出来るように質問するのを我慢していたのだ。
お風呂の時間で他に誰もいない事と、もう1日が終わる頃なのでそろそろいい頃合いかと話を切り出したのだ。
「何言ってるのよ?普通に船内や甲板見て回っただけよ?あ、でも2人が時間を作ってくれたからちゃんとお礼は言えたわ。ありがとうね」
「……なんかちがう」
「ん?なにが違うのかしら?」
「アリスの反応が違う。いつもはこう言う冗談を言うとすごく焦るのに、今はなにか余裕が見られる……」
「私もちょっと違和感感じるわね……お礼を言えたのは良かったのだけれど……なんだろう?大人の余裕?みたいな態度のような……」
「な、なによそれ?わたしはいつも通りよ?」
アリスの答えに2人は違和感を感じていた。
それを言われアリスは少し動揺してしまう。
ただでさえフルームのちゅー発言でどきりとしたのだ。
……その動揺から崩壊まで時間はかからなかった
「大人の余裕……。は!?まさかもう一線こえちゃった!?」
「こ、こえてない!!そこまでしてないから!!」
「お、気になるワード出てきたね?」
「そこまでしてないって……どこまでしたのよ……?」
「ぁぅ……な、なにもしてないわよ……?」
「……え?やっぱりエイシェルに裸見られた?」
「見られてないし!?だいたいどういうシチュエーションになったらそうなるのよ!?」
「いや、ふたりっきりになった途端にアリスが暴走して、急に脱ぎ出したとか?」
「ただの変態じゃない!!?フルームの中のわたしはどうなってるの!!?」
「フルームのは極端すぎるわね……。でも手くらい握ったんじゃないの?」
「手なんて握ってないわ……よ……。…………あれ?」
アリスはふと気づいた。
船に乗れた事で興奮のあまり自然と体が動いていたが、自分からエイシェルの手をひいていた。よく考えたら船内を移動している時ずっと手を握っていたのだ。
あまりにも自然だったため全く意識していなかった。
「お、知ってる反応」
「これは手を握ったわね……」
アリスの反応を見てフルームとフラムはアリスがエイシェルの手を握って船内をまわっていた事を確信する。
「あー……無意識に手を繋いでたわね」
「無意識で手を繋ぐものなの……?」
「この調子だと無意識にエイシェルの口にちゅーしてそうだよねー」
「く、口になんかしてないからね!?」
アリスはこの2人を相手にすると調子が狂うようで盛大に墓穴を掘る。
アリス自身も無意識に手を繋いでいたこともあり動揺していたのだ。
「かかったわね?……というか本当にそこまで進んでいたなんて……」
「アリスってエイシェルとふたりきりの時どんなキャラなの……?毎回積極的すぎでしょ……」
「い、いや、これは、その…………」
アリスは恥ずかしさのあまりお湯に沈んで行った。
その後もフラムとフルームとアリスは話しが盛り上がってしまい、結局3人とものぼせてしまうのだった。




